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やらかしてしまった。

【番外編:滝井少年の苦悩】



「(…最悪だ。)」



いや、どう考えても自分が悪い。

それは良く分かっている。

それでも今はただ落ち込ませて欲しい…。


受け取られる事の無かった入部届けを握りしめ、がっくりうなだれる滝井少年に、若い担任はオロオロと励ましの言葉をかけた。


「うん、まぁね、うん、…ちょっと特殊だからね、うん、それにパンフレット隅々まで読まないと、気付けないよね、うん、ごめんね可哀想だけども…。」


「ど、どうにかなりませんか…?」


「うーん、こればっかりはねぇ…ならないねぇー…。本当にごめんね…。」


「いえ、…すみませんでした。」


ぺこりと頭を下げ、まだ申し訳なさそうにしている担任を背に職員室を出た。


ああ、


でもやっぱり凹んでしまう。

野球部は入学前に入部テストがあるなんて。


なんできっちり学校のパンフレットを隅々まで読まなかったんだ。

しゅんはため息を吐きながら校門を後にする。


…おかしいなとは、思っていた。


確か硬式野球部はもれなく寮に入らなければならないハズなのに、学校が始まっても特にそんな説明も無く。

んん?入部届け出してから寮に入る手続きを聞くのか?などと見当違いな事を思っていた。


この学校の硬式野球部は甲子園の常連で。


学校もかなりの力を入れていると聞いた弱小野球部出身の俊は中学最後の大会後、黒い肌も白くなるような日影生活、猛勉強の末、一般入試でやっとこさこの高校に入学。

しかし、流石甲子園常連校。

野球部は強い中学からのスカウト入試で入学した人がほとんどらしく、入試前に野球の実力テスト、そしてなんとそのテストに合格した者は中学三年の冬から練習に参加し、形ばかりの簡単な入試後、学校が始まる前に専用の寮に入寮、野球漬けの日々を送る事になる…。



「そんなの知らねえよ…。」


自宅の机から引っ張り出して来た入学案内を両手に持ち、俊はガクンと首を倒した。

よりによって極小の文字で、後ろーの方に申し訳程度に、しかしちゃんと記入されていた。

スカウト入試ってなんなんだ。

誰もうちの中学にはスカウトなんかに来なかった。


…まあ、当たり前か。


なんと言っても弱小野球部。

でも野球愛は人一倍。


「え、スカウトって秋なのか…。」


その時期、自分はそんな事も知らず、この学校で野球がしたいばっかりに必死に勉強していたなとふと思い出す。


なんだか、なんだかなぁ…。


伸びた髪をサラサラいわせながら俊はぐらぐら椅子を鳴らす。


いきなり、


高校生活の目標を失ってしまった。

 




がっくりうなだれたまま散りかけの桜並木を歩く。


何の為に、


何の為に自分はこの高校に入学したのだろう。


せめて入部ぐらいさせてくれても…とぶつくさ思っていたが、そのメンツを見てそんな思いすら打ち砕かれた。

坊主の集団が自分の教室の前を通る。

何故か面識の無い女子に囲まれながら、俊はその集団の流れを驚愕の瞳で見ていた。


「(○○学園の麻生に、○○中学の橋田!?○○中学の山下までいる!)」


北は北海道から

南は沖縄まで。

ああ、だから寮なのか。

本当に情けない話…、

生半可に実力を知っている為、あのメンバーを蹴散らせて入部する自信は、ない。

担任の話では寮も定員オーバー。

あまりにもハイレベルな壁に俊はとうとう諦めのため息をついたのだった。





「俊はさ、とっっっきたま、びっくりするような事やらかすよなー。」


同じ中学出身の工藤が肩を落とす俊の頭を励ますように軽く叩く。


「中学の担任ちゃんと教えてくんなかったの?」


「…一般入試の方で受けてたし、ただこの高校に行きたいってだけで、俺野球部希望とか伝えてなかったし…。」


プルプルしたおじいちゃん先生を思い出す。


「まぁ、あれだわな、お前普段からキチンとしてるし、俊ならちゃんと分かってると思ってたんだろな。…まあでもどのみち、難しかったと思うぜ?」


「?」


俊は今一度工藤の顔を見つめる。

工藤はしかめっ面で投げやりに答えた。


「野球の実力テスト、スカウト枠の奴らと、一般申込みの奴らと、だいたい半々ぐらいなんだよ、人数。でもな、」


工藤はふぅとため息をついた。


「やっぱり受かってんのはほとんどスカウト枠の奴らだ。もちろん実力の差もあるだろうが、わざわざ学校側から“うちの学校に来てくれませんか”つって声かけてる分、落とされにくいだろうよ。人数制限厳しいしな。」


「…。」


工藤はヨイショっとカバンを肩にかけ直した。


「…それでも、受けるだけ受けたかったな。」


「しゃあねぇよ。こればっかりはお前が悪いんだからな。」


「…だな。」


何を言っても後の祭り。

今日もダラリとやる気なく帰り支度し、とぼとぼと廊下を歩く俊の背中に、


「滝井君っ、」


走って来たのか、担任の少しうわづった声が刺さった。



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