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02 to take a risk for someone.

02 火中の栗を拾う

「汚ぇ部屋」


木嶋さんが私の住むマンションの部屋を覗いた瞬間、鼻で笑いながらそう言った。

その言葉でようやく我に返った私は、ここまでどうやって帰ってきたのか正直に言うと記憶が曖昧だ。

ショックや驚きや、とにかくもう色々な感情が入り交じって、頭がフリーズした状態だったのに、よくここまで無事にたどり着けたと自分を賞賛したくなる。


と、言うより、なぜ彼がここに居るのかという疑問がわき起こり、玄関先で私の隣に立ちすくむ彼に素直な疑問を投げかけた。


「……何で貴方がここに?」

「え? 冒頭からまた回想し直す?」

「いえ、結構デス」


アンタの言う冒頭ってどこの部分からデスカ? とツッコミを入れたくなったものの、彼が回想するのも自分が回想するのも同じ結果が出ると分かっていたから、私はぎこちなく遠慮した。


考え直せば私の質問がこの場では不適切だったのだ。


茫然と思考が働かないままの私をあの場から連れ出してくれた挙句、なんとかこの住所を聞き出して送り届けてくれたのは他でもない彼だ。彼がタクシーを拾ってくれて無事に自宅に到着したのは紛れもなく木嶋さんのおかげ。


二十階建てのモダンなつくりをしたマンションで、家賃には少しだけ痛い思いをしているものの、会社からそれほど距離がないことからここを選んだ。


夏樹の借りている部屋は2LDKで、今払っている家賃を考えるといくら痛手と言っても安い方なのだ。


このマンションは夏樹が働く黒澤不動産の所有物件で、社員はそういった本社所有のマンションであれば他より安く提供してもらえるという素敵なオプションがもれなくついてきた。そんな素敵なオプションを使わずには居られないと、自分の収入から計算して選んだのがこのマンション。


私の部屋は十八階にあったけれど、隣接した他のマンションは背が高く、お世辞にもベランダから見える夜景は綺麗だとはいえない。

思うほど高層ではなかったのだと、入居した当初は落胆したものの、自分はロマンチックな人間でもなかったと思い返せば、特に憤慨するような理由にもならなかった。


元彼すら一度しか来た事がないこの場所に木嶋さんが居る時点でなにかが可笑しい。


なんというか、木嶋さんの一言で現実に引き戻された揚句、そう甘いものではないのだと思い知らされた瞬間だったのかもしれない。


男に振られた時はよほど腹が立って仕方がなかったけれど、目の前に広がる自分の世界を見てみると、こりゃ振られて当然かもしれないと情けなくなる。


それは反論することのできない現実。


スーツに合わせて購入したヒールの数々は、履き捨てられたように玄関を占領し、相方の行方が不明になっているものもいくつかある。


玄関をあがるとすぐにキッチンが見え、シンクには使ったまま洗われていない食器が山積みで、二つしかないIHコンロには、中身が入ったまま腐ってしまった鍋やフライパンが積み重ねられている。自分一人が歩くスペースを除くと、フローリングの床はまったく見えなくなっているほど、両脇に積み上げられたゴミ袋の山。


ゴミ袋に入っているだけまだマシで、行き場を失ったゴミは平気で散乱している。分別されていないから、ビールや酎ハイの缶なんかも混じっているし。

天井には埃がぶら下がっているし、若干ゴミ袋の中からカサカサと嫌な音も聞こえるけれど、いつも気のせいだと気にしていない。大量に溢れたゴミのせいで、閉まらなくなっている奥の部屋に続くドア。


この部屋を彼に見せたことは一度きり。その一度きりが彼にとってはすべてだったのだろう。


私が自身への諦めから小さくため息を漏らしたのを聞いて、木嶋さんは何を思ったのか靴を脱いで勝手に部屋に上がり込んだ。手探りで電気のスイッチを探してようやく見つけたらしい彼が電気を付けると、そこに広がる世界に絶句したようだ。


「あっ……」

「これ……人、住めるの?」


失礼ね。私が住んでいるわよ。


木嶋さんが言いたいことが痛いほどわかったから、あえて言わなかったけれど。


季節はもう春だというのに、出しっぱなしのコタツ。その上に並び、重ねられている口の開いた缶のタワー。食べこぼしのあるお菓子の袋の山。ポテトチップスは口を開けっぱなしにしていたから、湿気ちゃって食べられなくなったからそのまま。汁が入ったまま放置されたカップラーメン。

脱ぎっぱなしで散乱している服の山。捨てようと思っていても収集日を知らないから捨てられない、ファッション雑誌のエッフェル塔。エッフェル塔に失礼だと叱られるだろうが、こんな悲惨な状況を少しでも和らげる表現には、それが適切だったのだから許してもらうしかない。


「どこで寝てんの?」

「寝室……」

「どうせ寝室も、ここと変わらないだろう」

「ごもっとも……」


さすがの木嶋さんも呆れた様子で大きくため息を漏らすと、私に向き直って今度は見下すように言った。


「振られて当然だな」

「なっ――」


まだ失恋したとしっかり自覚できていない私に、木嶋さんははっきりとそう言った。このときになってようやく思考が正常な働きをし始めたものの、自分が腹を立てているのか泣きたくなっているのか分からない状況に陥っていると気付いた。

自分の足元を睨むように視線を落とすと、頭上から成美のため息が聞こえてきた。


呆れているのだろう――自分でも呆れてしまう。


振られて当然だという木嶋さんの言葉は真実だ。


だからこそ悔しいと思ってしまうのは我侭なのだ。頭が何から整理を付けていけばいいかわからず混乱している。まるで部屋と同じようだと思いながらも、結局手付かずのままでいる。


これからもきっと、この想いも部屋も、片付かないままなのかと思うと億劫だ。


無言のまま涙をこらえるように俯いていると、頭に柔らかな衝撃を受けたのを感じた私は思わず顔を挙げた。

木嶋さんはなんとも言えない複雑そうな表情を浮かべたまま、私の頭を軽くポンポンと撫でたのだ。


なぜこの人がこんな表情をしているのかわからないまま、私はこぼれそうだった涙さえあっさり引っ込んで、唖然とした表情で彼を見上げる。


もしかして……慰められている?


木嶋さんの行動は私にとって不可解だったけれど、同時に少しだけ心が安らいだのは内緒の話。


私の頭を撫でる手は男の人らしく大きくてとても温かい。


まるで子供をあやすような木嶋さんの仕草に、私はどう反応したらよいか途方に暮れた表情で見上げていると、彼は困ったように視線を泳がせて言葉をつむぎだした。


「まぁ……あれだ。寝ろ」

「……はい?」


慰めや気の利いた言葉を言ってもらえるのかと思っていれば、思い切り見当違いの単語が木嶋さんの口からこぼれだしたことに、私は思わず聞き返した。


「色々ありすぎて混乱した時は、とりあえず寝て、気持ちを落ち着かせるのが一番だ……と、思う?」


自信なさそうに、語尾を小さく絞りながら――結局は疑問系で終わった彼の言葉に、ますます唖然とするしかなかった。


やっぱりこの人……変。


先ほどまで「振られて当然だ」と酷いことを言っていたクセに、自分を慰めてくれる木嶋さんの意図がまったくつかめない。


ただ噂とは当てにならないことだけは分かった。


この人、根は凄く優しいのだ。


ただそれを言葉にするのがヘタクソなだけなのだと。


自分の噂を根源から否定するような行動を彼自身が示さなかった為、付加するものが増えて彼の価値をひたすら下げることとなっていったのだろう。


――ふと、無意識に私の指先が彼のシワだらけなスーツの腰あたりを摘んでいた。


私の行動に驚いたのか、木嶋さんは私の頭から手を離し行き場を失った手をそのまま硬直させている。自分自身でも予想外続きの行動が続き、顔に熱が帯び始めたのを感じた私は静かに目を伏せた。


「帰り……ますか?」

「……え?」

「……汚い部屋で悪いとは思うんですけど、少しだけ傍に居てもらえませんか?」


誰がこんなに甘えたか細い声を出すのだろうかと自分自身で思った。

自分はもっと男前でしっかりした性格をしていて、男に縋るようなことはしたことがなかったし、素直に甘えるなんてもっての他だ。なのに今の自分はとんでもなく情けなくて恥ずかしくて、死にたくなるほど寂しかったのだ。


誰でもよかったというわけでもないけれど、だからといって木嶋さんでなければならない理由もない。それなのに目の前にいる男に縋ってしまうほど、今の私は自身で気づかないほど弱くなっていたらしい。


今は一人になりたくないから――人肌が恋しいと、ただそれだけの理由で。


後悔なんて今頃したってもう遅い。


振られた現場を目撃され、その理由である部屋の汚ささえ目の当たりにさせてしまったのだから、これ以上捨てる恥などないと思った。


私の言葉に一瞬躊躇った様子だったけれど、彼はもう一度深いため息を吐くと、自分のカバンをそこに投げ出して突然私を抱えた。夢にまでみたお姫様抱っこというものだ。


小柄な私を抱えるのは彼にとって造作もない事だったらしく、思わず小さな悲鳴を上げるも、落とされないよう無意識に彼の首の後ろに手を回しバランスを取る。


「寝室どこ?」


短く尋ねてきた木嶋さんの言葉に心臓を跳ね上げながら、それに気付かれないよう寝室のドアを静かに見る。その視線を追った木嶋さんが無言のまま半開きになった寝室のドアに私を抱えたまま歩み寄り、軽く足で蹴る事でドアを開ける。

蹴られたドアは、投げ出されたまま床に放置されていた服にひっかかり、その口をもう少し開いただけだったが、人が通るには充分のスペースで。


薄暗い部屋の中にベッドを見つけた木嶋さんは半ば急ぎ足でそこに歩み寄ると、乱暴に私をベッドの上に転がし自分の体をその上に重ねた。体に重みを感じた私が一層心臓を高鳴らせていると、彼は私の顔を覗き込むように見つめて。


「寝ろ」

「……え?」

「とにかく今は寝ろ。自分をそんなに安売りするな」


間近に迫る木嶋さんの顔は真剣そのもので、心の奥を見透かすような言葉に私は思わず息を呑む。私の緊張が伝わったのか、彼はフッと笑みを浮かべて私の頬にチュッとキスを落とした。

突然降ってわいた頬へのキスに私が目を見開いていると、彼は面白いものを観たようにクスッと笑う。


「後で巻き込まれた事情をたんまり説明してもらうからな」


ぶっきらぼうで温かい木嶋さんの言葉に、私はふにゃりと泣きそうになりながら顔を歪めてしまった。その言葉は私が目を覚ました時にそこに居てくれるという彼なりの約束だったと理解できたからだ。


「傍に居て欲しいならいくらでも居てやるから。今はゆっくりおやすみ」


子供をあやすような温かな言葉。そう言いながら私の頭を優しく撫でてくれる手はやはり温かいもので。


自暴自棄になっていた自分の態度を思い出すと酷い羞恥を覚えた。


相変わらず子供に向けるような慈しみある優しい表情に、コレがあの噂で聞く木嶋さん本人なのかと疑いたくなる。


なんでこんなにも優しくしてくれるんだろう。


色々沸き起こってくる疑問もあるけれどとりあえず彼の言う通りにした方がよさそうだ。そう思って恐る恐る頷くと、木嶋さんはようやく安心したような表情を浮かべ、もう一度ゆっくりと顔を近づけて今度は唇にチュッと軽い音を落としてくれた。


「いい子だ」


そう言うと木嶋さんは私の上から退いて、振り返ることなく寝室を出ていってしまった。


確かに傍に居るとは言わなかったけれど、ここに滞在してくれる意思表示はしてくれたので、多分あの居場所のない部屋の中に居てくれるのだと、何の確証もなくそう思った。


なんだか自分でも理解できないまま変な展開なと、一人取り残された寝室で漠然と考える。


存在自体は知っていたけれど、知り合ってまだ一時間も経っていない男性に、安堵感を覚えたのはなぜだろう。泣きわめきたいはずなのに、変なプライドが邪魔して涙が素直にこぼれてくれない。


自嘲気味に笑いながら気だるい体を起こし、自分の体にまとわりつく衣類を荒々しく脱ぎ捨て上の下着を取り払うと、キャミソールと短パンといういつもの寝間着スタイルになる。


化粧を落とすこともなく、衣類が散乱しているベッドの布団に無理矢理潜り込んだ。

木嶋さんの言うとおり、今は寝ることにしよう。


こんな早い時間に眠りにつくことなんてできやしないけれど、何もする気になれないから寝るしかない。


考えることすら拒否したい状況には、寝るが一番の得策だ。


とにかく自分自身を落ち着かせるのが先だと言わんばかりに、私はもんもんとする思考を遮断するかのように瞳を閉じて、逃げだそうとする睡魔を必死にたぐり寄せた。


 ◇◆◇


私が目を覚ましたのはそれから数時間後のことだった。


振られてからまだ日付は変わっていないらしい――いつも愛用しているデジタル式の目覚まし時計で時間を確認したから間違いないと思う。


日付をこえて丸一日寝ていたのなら、どれだけ自分は睡眠不足なのだとツッコミたくなるから、あえてそういうことにしておく。


ベッドから起き上がって、寝る前に来ていたスーツのポケットから買い換えたばかりのスマートフォンを取り出してディスプレイに表示されている日付を確認する。


日付はまだ今日(・・)だから間違っていないみたいだと意味もなくホッとした。


寝起きで見たディスプレイには日付の他に、何件かの着信履歴とメール受信履歴が数字で表示されていた。もしかしたら自分の身に起こった出来事を噂を聞きつけ、事実を確かめようと会社の人達が連絡をしてきているんだと思う。


予測だけれどたぶんそう。だからこそ確認するのが億劫になったのは言うまでもない。

寝ていた温もりの残るベッドの上にスマートフォンを無造作に放り投げて無視を決め込むことにする。後数十分も経てば明日になってしまうのだからこのまま寝ていてもよかったのだけれど、いかんせん喉の乾きで目が覚めてしまった。


春先とはいえまだ肌寒い外であれだけの修羅場を繰り広げたのだから、喉も渇くはずだろうと、未だに現実味のない失恋騒動を頭の中で再生させながら気だるい体を起こして寝室を出る。


――途端、眠気が一気にどこかへぶっ飛んでしまった。


電気がつけっぱなしだったことはこの際置いておいて、ここはどこだと声を張り上げたくなるような世界がそこに広がっていたから。自分が眠りにつく数時間前まではあれほど荒れ果てていて、足の踏み場もない汚い部屋だったのに、そこはしっかりと床の見える綺麗な場所へと早変わりしていた。

床にゴミ一つ、ホコリ一つ落ちていない――というより床が見えるという現実がある意味奇跡。

出しっぱなしだったコタツは綺麗になった壁に立てかけられているし、コタツ布団も綺麗に畳まれた様子できちんとそこにあった。


この場にもいくつか脱ぎ捨てていたはずのスーツは綺麗にハンガーにかけられていて、開きっぱなしのクローゼットの中に整列している。


コタツの下に引いてあったラグは淡いピンク色で、少しだけ何か液体をこぼしたような乾いたシミ以外は、髪の毛一本すら落ちていないほど綺麗に掃除機がかけられていた。

古雑誌はしっかりとヒモで束ねた状態で部屋の隅にあったし、その上にはちゃんと最新号だけ抜き取られて無造作においてある。


この部屋ってこんなに明るかったんだ……。


慌ててキッチンの方へ向かうと、そこに散乱していたはずのゴミ袋も綺麗になくなっているし、シンクに山積みされていた洗われていなかった食器も、綺麗に洗われて食器棚に並んでいる。

天井からぶら下がっていたホコリだってなくなっているし、フローリングの床はワックスをかけたのではないかと思うほど艶が出ている。


一体何が起こったのか理解できずにその場で呆然としていると、突然風呂場に続いている脱衣所のドアが小さな音を立てながら開いた。


「ああ、起きたか。悪いけど勝手に風呂借りた」


突然現れた男性に私は部屋の綺麗さ以上に驚いた。


「……ど、ちら……様ですか?」

「は?」


思わず聞いてしまったけれど、この声は間違いなく木嶋さんだ。もちろん木嶋さん以外にありえないとは思っていたけれど、お風呂上りの彼は別人のようで。

あの無精ヒゲも綺麗に剃られ、くせっ毛の酷かった茶色の髪は水に濡れて艶がある。その髪をバスタオルで拭きながら、上半身裸のまま出てきた成美は眼鏡をかけていなかった。


綺麗で無駄な肉のない引き締まった体。


細身だと思っていたのに筋肉が意外とムキムキしている。体脂肪という言葉を知らないんじゃないかと思えるくらい、誰が見ても鍛えられた筋肉質。本当に――たぶん同性が見てもうらやむくらい綺麗な腕や骨格を持っている。なめらかな肌に点々とした痣や擦り傷があったのも気になったけれど、艶めかしいその肌触れてみたい衝動に駆られる。


あんな変人奇人の不潔に見えた木嶋さんだったのに、しっかりと身出しなみを整えると見られる男(・・・・・)になったのだ。


この人、素材はすごくいいんだ……。


どこにでもいるような男の容姿だけれど、あんな変人みたいな格好をしているから誰も気づかなかったようだ。

飛び抜けてカッコいいというわけではないけれど、私を振った彼に比べたら断然木嶋さんの方が男前だ。


自分から誘っておいたクセに、ベッドに運ばれた時よりも緊張してしまったのは、彼に対して初めて異性(・・)を意識してしまったからかもしれない。


これ以上の動揺に気づかれないように慌てて木嶋さんに言った。


「眼鏡は?」


とりあえず、その心臓に悪い視線をどうにかしてほしい。


私が尋ねると、木嶋さんは「ああ」と納得したように頭を拭いている手とは逆の手に持っていた眼鏡をかけながら説明してみせた。


「風呂上がりは眼鏡が曇る」


そう言って木嶋さんがかけた眼鏡は確かに真っ白になっていた。その姿が何とも間抜けで、私は思わず腹を抱えて笑い出す。


さっきまで別人に見えてしまったけれど、こういうところは木嶋さんだなって変に安心してしまったのだ。


私の反応に驚いた様子を見せた木嶋さんだったけれど、笑い続ける私から少しだけ視線をずらして眼鏡を取り、それをバスタオルで拭きながら会話を続ける。


「アンタさ、俺も一応男なんだからその格好どうにかしろよ」


私は笑いも止まぬうちにそう指摘され、自分の姿を確認した途端、ピタリと笑うのをやめて顔面を蒼白させた。


ノーブラにキャミソール一枚と短パン。


自分の体に張り付くほどではない、けれどそれほど余裕があるわけでもない黒いキャミソール。

谷間と言えるか分からない部分がバッチリ、見方によってはあるかないか分からない胸の突起がキャミソール越しに見えてしまう。

付け根ギリギリの短パンは自分の太い足を丸出しにしていて。


「ごごご、ごめんなさいっ!」


急に生まれた羞恥から口がうまく回らなかった。自分を抱きしめるように両腕で胸元を隠せば、木嶋さんは私の言動が理解できなかったらしく首を小さくひねって見せる。


「いや、むしろごちそう様?」


表情も変えずに淡々と述べた木嶋さんの言葉に、とうとう居た堪れなくなって「着替えてくる!」と叫びながら、慌てて寝室に駆け込んだのだ。


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