表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星空ロジック

作者: 舞如

岸田教団「星空ロジック」からモチーフを得た二次創作です。あくまでモチーフ。

けっこうオリジナル色が強く、曲のイメージが損なわれる可能性があるので、お好きな方ほど注意が必要かもしれません。

何でも許せる方向け、ぐらいに思ってください。


 午後八時。空気はねっとりと湿気を含んでいるけれど、半袖では少し肌寒い。昼間の暑さは夜が近づくにつれて薄れてきた。秋も間近、熱帯夜にはならないだろう。

 私は学校の屋上で、手すりにもたれかかって星空を見上げていた。眼下では、向かいの棟に居る生徒たちが、まだ文化祭の準備に追われている。私も親には文化祭の準備と言っておいたけれど、そんなものは言い訳。そもそも顧問に許可をとっていないし、うちの部活は文化祭準備なんか、やろうと思えば一日で終わってしまう。

 私が所属している部活、天文学部。

 おととしの春に入ったときから変わらず部員一名のこの部は、結局私が三年になった今でも新入部員の気配がない。でも、私はそれでもいいかなと思っている。空に、月に、星に興味のない人に無理やり入られるくらいなら、それが大好きな私と先生だけで十分だ。


「……先生、か」

「なんじゃー、呼んだか?」


「えっ、」

 ひとりごとのつもりだったのに返事が返ってきた。ふり向くと確かに、天文学部顧問であり、奇跡的に三年連続で私のクラス担任になった、森坂先生がいた。


「呼んでないよ、なんで居るの」

「おんしがおると思ったからに決まっとるやろー」

「……相変わらず、適当な方言」

「まあのー」

 先生は、どかっ、と近くの段差に座る。

「直さないの、それ」

「まあ、珍しいもんやきー、悪うないと思ってなー」

 少し説明すると、本人曰く、先生は元々バリバリ土佐弁の地域で生まれたらしい。それから高校に上がるときに親の都合で大阪へ行き、教師になるにあたって栃木に来た。……まあ、それで方言が綺麗に混ざった、と。さらに教員三年目の今では、栃木のイントネーションも移りつつある。なんなのこの人、カメレオンかっての。それかメタモン。

「方言バイリンガルも良いもんやでー」

「もはや使い分けてないけどね」

「そこは気にしちゃあかんぜよ」

「…………」

 あかんぜよ、っておい。それが最終形態か。

「それに、おんしも言うてくれたしの」

「……え、何か言ったっけ」

「覚えとらんの!?

 『森坂センセーの方言、あたし好きですー』って、部室でおんしが寝とったとき」

「寝言かい!」

 覚えてるわけねーよ、そんなん。

 いつも思ってるけど。



「のう、とりあえず突っ立っとらんで座らんか? ピークまではまだ幾ばくかあるきにの」

「あれ、知ってたの?」

「伊達に顧問やっとらんもん」

 そう、今日は流星群の極大だ。ピークは九時頃と予想されているので、帰るのはそれ以降にしようと思っていた。

 夜遅くなると母さんが心配するから、普段は部活も学校ではろくに出来ない。前回できたのは確か、夕方頃に彗星がでてきたときだったかな。


 だから、きっとこれが最後。




「ねー先生、」

「なんじゃー、」


 先生の隣に座り、静かに言う。


「今日、新月だね」

「……やな」


 星を見るだけなら、絶好の観測条件。


「次は、満月見よ?」

「無事に大学合格できたらのー」


 いつもは先生らしくないのに、こういう時だけ先生ぶる。


「……合格したら、お月見ね」

「できたらの」


 ちらりと横顔を見ても、光が少なくて表情が判らない。


「約束。忘れないでよね」


 そう言うと同時に、ひとつの星が流れた。

 そろそろ始まる。



「願い事、先生は決めた?」

 満天の星空を仰いだまま、森坂先生に問う。

「おう、もうとっくに決めとったぜよ」

 先生はにへらっ、と笑った。気がした。

「えー、なになに。彼女ができますようにって?」

「アホか。そんなんとちゃうわ」

「わー、ツッコミはさすが関西弁」

 本場仕込みじゃきの、と今度は土佐弁になる。

「それに、願い事は口に出すと叶わなくなるー言うやろ」

「あ、そっか。逆に悪夢は誰かに話すと正夢にならないんだよね、確か」

「せやせや」


 次第に落ちてゆく星々。

 さらさら、さらさら

 例えるならば、そんな音がきっと似合う。


「静かじゃのー」

「……だね」


 この人は知っているのだろうか。

 ふと、宙を見ていて思った。

 私が思っていること、全て。

 その上で、何も言わないのだろうか。



「ずるいなあ」

 何が、とは言わない。

「おんしもずるいきー、お互い様や」

 何が、とは言わないのに伝わるのが、悔しい。


「ねえ、やくそく、守ってよね」

「男に二言はないぜよ」

「忘れないでよね。私は忘れないから、絶対。ねえ、」

「……わかっちょる、」


 せやから泣くな。

 そう言った声が優しくて、また涙腺が勝手にゆるむ。

 頭を撫でることも、ましてや抱きしめることもしてくれない。でもそれが余計、大人扱いしてくれているような気がして。



 泣いている生徒に、ただ星を見つめる先生。

 どちらの願いも同じだったことを知るのは、願いを届けた星々と隠れた月だけだった。


 流星群は、いよいよピークを迎える。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ