6話 霧島亜紀
「んじゃ茜、帰るぞー」
「あ、うん。ちょっと待ってて
「オッケー」
廊下に出て待つ。
時刻は12時。
今日は入学式とクラスでの挨拶だけの午前登校なので、弁当などは持ってきていない。
なので、帰ったら昼飯何を食おうかなーとか思ってると、足下に何かの紙が飛んできた。
何だこれ?
その紙には大きくこの文字が。
「生徒会通信?」
ふと紙が飛んできた方向を見てみる。
すると、朝会った生徒会の人がこっちに向かってきた。
「ごめんなさい。あ、拾ってくれたの?」
「え、あ、はい」
「ありがとね。えっと……」
「あ、上夜です。上夜 仁。」
ってあれ?名前知ってたんじゃなかったっけ?
「上夜くんね。私は霧島亜紀、よろしくね。……ん、上夜?」
「どうかしましたか?」
「えーっと、上夜くんって兄弟いる?」
「ええ、ということは兄貴と知り合いなんですか?」
「あ、やっぱり直貴くんの弟なんだ。」
「まぁ、はい……。」
そう、俺には聖凪に通う3年生の兄貴がいる。
いつでも何でも完璧にこなす兄貴が。
傍目から見たら『立派な頼れるお兄さん』何だろうが、実際比べられるだけの嫌な存在だ。
実を言うと俺は勉強は少し苦手だ。
そして聖凪高校は偏差値が一般よりだいぶ高い。
それでも俺がここを受験したのは兄貴との差を付けられないため、というのがでかい。
受かったのは一年間の猛勉強のおかげだろう。
「いつも直貴くんにはお世話になってるのよ。」
「え?」
「え、って。あなたのお兄さんは生徒会長でしょ?」
「……あー、そうなんですか。」
「知らなかったの?」
「ええ、兄貴は中学生になってから一人暮らしを始めましたので、あまり会ってないものですから。」
中学生から一人暮らしというのは珍しいことだろうが、俺の母さんは数年前に亡くなってて、親父は仕事で忙しいので昔から俺達は二人暮らしだった。(といってもあまり会話はなかったが)
それが別々になっただけだからあまり変わらない。
それにしても生徒会長かー。
まぁ、あの兄貴なら普通といえば普通だが。たとえ教師をしてると言われても大して驚かない。
「そうなの?まぁ私も生徒会の仕事以外ではそんなに会わないしね。」
「そうなんですか。あ、それよりもさっきはパンフレットありがとうございました。」
兄貴の話は別にどうでもいい。ある意味最も苦手な話題かもしれない。
「え、パンフレット?何のことかしら?」
「へ?いや、今日の朝道に迷ってるところを助けてくれたじゃないですか。」
「……ん?あなたとは今が初対面のはずだけど。朝は始業式で喋ることの練習をしてたし。」
え、何ですと?いや、そんなはずはないだろ。
「……じゃあ姉妹とかはいます?」
「お姉ちゃんはいるけど大学生。ここにいるわけないわ。それに、ほら?」
亜紀先輩がポケットからある物を取り出す。それはまさしく俺が貰ったのと同じのパンフレットだった。
「一つしか持ってないけど、今ここにあるってことは私のじゃないってことでしょ?」
「そう、ですねぇ……?」
やっぱり、夢だったとか?
いやいや、そんなばかな……
じゃあ俺が持ってるパンフレットは何だ、ということだ。
「あ、私もう行かないと!力になってあげられなくてごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ変なこと言ってすみません。それじゃ」
「うん。またね。」
またね、か。
ふむ……。やっぱり人違いだったのか?
兄の名前は知り合いの直貴の呼び方をいじりましたw
茜の容姿と男子クラスメートの名前をちょいと変更!