20話 お調子説明
「それじゃ、まず前提として魔力というのは基本肉体じゃなくて精神に保管されてると考えてね」
「了解です」
さっきも似たようなこと言われた気がするな。
というか精神って形がないから想像しにくいんだよな。
「じゃあコツの説明ね。たしか内容は、[自分を真っ白の部屋に。部屋の真ん中に球体のイメージ、色は自由になるべく濃く。中心めがけて飛び込み、爆発する]だったでしょ?じゃあ、白い部屋=《イコール》精神世界、球体のイメージ=封印された魔力、飛び込み=吸収、爆発=拡散、として考えてみて。」
え、俺が翻訳するのか。
今まで通り一方的に説明されるのだと思ってたから少しビックリした。
えーと?
「魔力の保管場所である精神世界に自分を出現させ、そしてそこにある封印された魔力とやらを吸収。で……、拡散?」
ふむ、意味が分からん。
というか封印してるのどうやって吸収するんだよ。
しかもせっかく吸収したのを拡散したら……って、吸収後に拡散?
「じゃあ体内で拡散ということに?何か危なそう――っていや、これは想像上のことであり現実じゃ……」
腹に手を当てて考えてみる。
あ、そういえばいつの間にか我空間消えてるな。
何か制限時間とかあるのか?
「あ、そうそう、これも言ってなかったね。実は私、上夜くんの身体に薬を打ちましたー」
「……は?」
唐突なるミーシャさんのカミングアウト。
えーと、ちょっと待ってくれ。
なになに?薬を、打った?
「あのー、その[この人なにやってんの?]みたいな目やめて?上夜くんの為を考えての行動なんだからさ」
「俺の為?というか、いつ薬を打ったんですか。」
「あの時あの時。上夜くんが私に初めて触れたとき。いやん♪」
「……俺の腕を掴んできたときですか。」
何だ「いやん♪」て。
というかキャラ変わってないか?
今までのは演技か、演技。
「ちょっとー、ボケにはツッコミ必要だよ?……まぁいいけど。正確に言うと、腕に意識を集中させといて腰に打ったんだよ。ほら♪」
そう言ってミーシャさんがポケットから五cmぐらいの注射器を取り出す。
当然と言っていいのか、俺に打ったのだろうから中身は空だ。
「うんうん。それにしても注射器の針って凄いねー。いきなり刺しても気付かれないぐらい痛みがないんだから。ということで、もういっちょグサッと試してみようかー」
「……それで、薬の内容は何ですか。」
「だからスルーしないで~!私無視されるのが一番悲しいんだよー。他には寝癖がヒドくて直らなかったりとか、突き指したときとかすっごく悲しいね」
「そーですねー」
「これっぽっちも感情がこもってない!?人間コミュニケーションが大事なんだよ!?」
無視はしてないのに文句が多いなー。
しかも向こうもこっちの質問はスルーしてるし。
「で、薬の説明を。」
「――とかも私は大事と、薬?そんなことより私の話を聞きなさい。んで、他にはお菓子とかが付いてると好感度アップだね。特に甘い物がおいし痛いいはい、|ほっへたひっはらなひでー《ほっぺた引っ張らないでー》。」
おお、結構伸びるぞ。
身長は俺より低いので手は余裕で届いた。
それにしても伸びる伸びる。
おっと、首を振ってはらわれた。
「か、上夜くんに打ったのは、精神・魔力同化剤!」
「同化剤?」
「最初から言うと、上夜くんの魔力は確かに存在するのに、何故かかなり深い精神の奥に閉じ込められてたの。あ、これがさっき言った[球体=封印された魔力]のことね。で、その封印を鍵の閉まった箱と仮定。んで、次に薬という名の鍵を差し込んだの。最後に私が教えたコツという想像で鍵を回して魔力を解放。以上!」
あー、なんとなくだが理解。
「さっきの説明よりかは分かりました。というか封印ってなんですか?聞いてませんけど。」
「あれ、白江さん言ってなかったの――ってあれ?」
いつのまにか白江さん、というか陸くんと由紀ちゃんもいない。
そういえば由紀ちゃんが「蜜柑ジュースー」って連呼してた気がする。
ということは……そういうことか。
白江さん、案外親バカなのか?
そう思いながら、何故かそろっとどっかに行こうとしてるミーシャさんの襟首を掴む。
「なに違和感なくどっかに行こうとしてるんですか。」
「……えっと、私は急用ができたのだけど?」
「その急用とやらの前に暴走の説明をお願いしますよ」
前触れすら無い急用って急すぎるだろ。
「あ、それ?あなたの魔力が大きすぎて、一気に解放したら精神に大きな負担がかかる危険があったのよ。だから白江さんは少しずつ封印が解けてきている魔力を絞り出す計画だったようだけどね。まぁ私の賭けが勝ったということだよ。といっても封印の方の力も強くて、全ての魔力が開放されるまであと丸一日はかかると思うけどね。それじゃあこれで――」
「もう一つ。あの[声がした方に飛びなさい]っていうのは?」
さようなら、とか言い切る前にこっちが喋る。
先手必勝!
というか賭けって何だよ、おい。
それって多分被害を受けるの俺の身体だよな?
「…………」
「あの?」
「……さぁ?」
「はい?」
さぁ?ってなんだ、さぁ?って。
「いやー、あの時は勝手に口が動いたのよ。何でだろうね?あははのはー…」
「あははのはー、って。」
笑って誤魔化そうとでもしてるのだろうか?
といっても、本当に分かっていないようだ。
「ま、別にいいんですけどね。ただ、勘違いかも知れませんけどあの時の陸くんの助けてという言葉が俺の身体を動かした動力源、みたいな感じがしたんですよ。」
「……へー、そうなの?まぁ強い思いは魔力の制御や増幅に繋がるから、それも暴走しなかったり我空間が無事に発現した手助けにでもなったのかもね。あ、そうだようん!あの行動は私が本能的に行ったものなのよ。私ってすごいすご痛いいはぃ、|ほっへたひっはらなひでー《ほっぺた引っ張らないでー》」
よし、調子に乗ったりしたときはこれから頬を引っ張ることにしよう。
おおー、伸びる伸びる。
「……んん?」
よく見るとミーシャさんの顔が少し赤くなっている。
お、怒っているのか?
やはり年上の人の頬を引っ張るのはさすがにやりすぎた――あれ、うっすら頭から蒸気がー…って待て待て、待つんだ。
いくら怒っても頭から蒸気って漫画かよ。
というか、え?今度は身体全体からもくもくと煙が?
ってうわ、煙でもうミーシャさん見えなくなった。
あ、そういえば頬をつねったままだったな――ってあれ?
手の位置が、どんどん……下に!?
数秒後、煙が晴れてミーシャさんの姿が現れ――いや、違う。
俺の目の前に立っているのは、身長140cmぐらいの金髪『少女』だった。
サブタイトル1話2話制に変更!