18話 白江の考え
「みっかん、蜜柑ー。蜜柑ジュース~」
由紀は二つの蜜柑を両手に持って、変な踊りをしていた。
「ほら由紀。ジュースができるまでもう少しかかるから、それまでに陸を連れてきてくれ。」
「はーい!」
白江は家に戻り、何かの機械でジュースを作っていた。
(上夜くんの方は何故かミーシャが見ているようだし、その間に私も休憩するとしよう)
実際、組み手により白江もだいぶ疲れていた。
極限の体力・精神状態に追い込むための組み手での仁の動きは、最後の方こそグダグダなだったが、最初は型はないものの場慣れした的確な動きをしていたのだ。
喧嘩慣れというのも少しはあるようだが、本人に聞いたところどうやら父親から習ったのが大きいらしい。
しかしそれは武術などの型などを教えられるのではなく、相手の動きに対する攻撃のタイミングや相手の避けた行動に繋がる連続攻撃の仕方など。
つまり徹底的な攻めの仕方のみを教わったらしい。
しかしそのせいか防御はからっきしのようであり簡単にこちらの技に掛かるのだが、こちらが攻められているときの対処の仕方は予想以上に難しかった。
といっても馬鹿みたいに攻撃の連続だったのでスタミナの方の消費は速いようだが。
だがそれを補えるのが我空間だ。
その中では想像通り――いや、想像以上の動きができる。
まぁその分スタミナの他に魔力も消費するが。
魔力の消費の感覚は精神の疲れに似ている。
リアルをゲーム風に表すとHPの最大値が減った感じかもしれない。
まぁいわゆるモチベーションが下がったりするようなものだ。
しかしスタミナ・魔力切れになる前に我空間効果によりあれ以上に強化した攻めを相手に叩き込めば、今よりかなり強くなると予想できる。
それに五感の感覚や瞬発力なども上がるので、ある程度の防御も可能になるだろう。
そうすれば、仁の目的の達成やここから帰る助けになるだろうし、なによりこれからのために繋がるだろうと白江は考えた。
白江がここまで仁に味方してくれるのは、もちろん人柄というのもあるがそれ以上に自分自身の過去に関係がある。
数年前の出来事が。
「……む。」
(いつの間にか寝てしまったようだな。)
ふと周りを見てみるが、由紀は帰ってきてない。
数分の仮眠とも思ったが、ジュースは出来ているのである程度の時間は経っているようだ。
(寄り道か、偶然会った友達とでも遊んでいるのか?)
そう考えてると、ドガァ!という強烈な音と共にドアが開き、若い男が入ってきた。
「どうした。騒が――」
「――し、白江さん!陸くんが、陸くんがあそこに落ちた!」
「なに!!?」
一瞬で眠気が吹っ飛んだ白江は慌てて家を飛び出す。
落ちた、というのは仁が地上から来たときに魚に襲われたあの水中にだ。
「陸!!!」
「「おとーさーん!」」
二人分の返事がすぐに返ってきた。
急いで声の方を向くと、水際で泣きじゃくっている由紀と、水面に直径数十センチほどポツンと突き出ている岩のようなものにしがみついている陸の姿が見えた。
そして案の定、水面下には仁を襲ったあの大魚が赤い眼を輝らして泳いでいる。
(くそっ、あそこは範囲外だ…!)
「陸、今行くから待ってろ!」
「ちょっと白江さん、無茶です!今の僕たちでは何も!」
男が白江の腕を掴み止めようとする。
白江さんが怒りと焦りの入り混じった表情で振り返り叫ぶ。
「そうだとしても何もせずに終わっていいわけがないだろう!」
「だからってなにが出来るんですか!?」
「出来る出来ないは関係ない。とにかく私は犠牲になる覚悟で助けにいく!息子を見殺しにできるものか!」
「そ、そんな……」
気が抜けた男の手を振りほどき、白江は陸の元に向かおうとする。
しかし大魚はすでに水面に顔を出し、陸の間近で大きく口を開けていた。
「くそ、陸!!!」
陸が泣きじゃくって叫ぶ。
「たすけてぇーッ!!!」
いよいよ大魚が陸を噛み砕こうと口を閉じ、ガキンッ!!!という歯と歯の重なる音が響いた――その途端、
「……え?」
陸が短く疑問の声を上げる。もちろん陸は生きており、身体に傷はない。
その理由は簡単。
大魚が水中から飛び上がり、その巨体が鈍い音と共に壁に叩きつけられたからだ。
「……さっきの、おにーちゃん?」
「おう、大丈夫だったか?」
陸を抱えて岩の上に立っていたのは、薄黒い球状の空間に包まれた仁だった。
いろいろあって一日遅れてしまいましたm(_ _)m
次の話は後、少し文節を変えるだけでほぼ書いてます。