17話 パーソナルフィールド
「うおっ――いってぇ!」
只今白江さんと組み手中ー。(ちなみに今投げられた)
え、何故かって?
残念なことに俺も分からない。
一応目的は聞かされてるが、理解する前にLet Go!
つまり強制というわけだ。
それでその目的というのが、
「どうした、我空間はまだか!?」
「いや、だからちょっと待ってください。無理ですって!」
我空間。
自分(我)の想像通りに、身体の制御をほぼ無視して動ける、使用者のみに適した理想の空間。
それは使用者の力――いわゆる魔力の大きさで空間創造範囲も広がり、効果も高まる。
ちなみにその効果というのは様々な種類があり、例えば自身に纏った場合は使用者の魔力に比例する威力と速度の攻撃や高速移動、その他壁登り・高跳躍が可能になったりする。
逆に使用者《理想元》以外の者が入ると、我空間とは一種の世界なので、世界の理通り拒絶され、消滅とはいかずとも身体能力や魔術の完成度を低下させることになる。
つまりこの空間自体は攻撃機能を持たないが、自分が有利な位置に立つためには最も適した魔術だということだ。
自分が有利な位置に立つというのは、戦闘において重要なことの一つだと言える。
例えば、ライオンと鮫が戦った場合、陸上で戦うのと水中で戦うのではそれぞれ有利さが格段に違う。
自分の力が最大限に発揮できる場所にいる者といない者では何もかもが変わってくるのだ。
……何とか理解しようと白江さんが言ったことを頭の中でリピートしてみた。
うん、やっぱ無理だ。使用方法全く習ってないし。
というか、そもそも前提が間違っている。
これは魔術だ。
そして俺はただの人間だ。
魔術など使ったことも見たことも――あ、今朝のがそうなら見たことはあるか。
ってそうじゃない!
とにかく俺に魔術を使えない!
それなのに――
「無理ではない。学べ!」
「だ、だからって――っぬおぁ!!?」
――それなのに出来るまで投げらなくたっていいじゃないか!
「というか白江さん言ったじゃないですか。それぞれの世界には他にはない特徴があるって。だったら魔術世界出身でもない俺が魔術を使うのは根本的に無理ですよ!」
「だったら訂正だ。どんなことにもイレギュラーはあると。」
んな身勝手な!?
「……何故だかお前さんには常人以上の魔力を感じるのだ。本来魔術とは個人に合う傾向の術式に対する相性・素質と精神力を掛け合わせた物――いわゆる魔力と、経験による術式脳内詠唱速度の掛け合わせにより発現する。経験も知識も無いお前さんに術式云々言っても理解できまい。だからお前さんの場合、見るや感覚で学ぶしかないのだ。」
「……よく分からないですが、何らかの理由で魔力が高い俺に、使ったこともない魔術を感覚で発動しろと。」
いや、やっぱり無理だろ。
「人間信じれば何でもできる。やろうとしなければ何もできない。」
「……いいこと言ってる気もしますが、つまりできるかどうか知らんが使えることを信じて念じ続けろと。」
「そういうことだ。」
うわぁ、投げやりー
しかも出来るまで投げられ続けるのかよ。
「術式詠唱は一般的な方法なだけだ。一部の天才と単なるバカは感覚だけで使っているらしいぞ。」
「バカになれと!?」
「そうだ。」
「あっさり天才説は捨てた!」
ひ、ひでぇ。
理不尽な要求をしてくるくせにモチベーションを下げてきやがる……
「それにさっきも言った通り魔力はあるのだから出来ないことはない。だから一応極限状態の緊張感に追い込んでやろうとしてるのだ。その状態が感覚の覚醒確率が高いようだからな。一度発現すれば感覚に刻み込まれて魔力が尽きない限り好きなときにできるようになる。だから一度でもいいから発現させるんだ。」
だから、んな無茶苦茶な……
「というか、聞いてませんでしたけど何でそこまで俺に我空制御を会得させようとしているんですか?」
さっきはいきなり説明をされて「はい、やってみろ」だったからな。
何でなのか一応聞いときたい。
「ああ、それは奴の――」
「――おとーさーん!」
後ろの方で、子供特有の甲高い声と共に女の子がこっちに向かってきた。
たしかさっき飯食ってるときにいた娘だな。
名前はー…
「由紀、帰ってきたのか。ん、それはどうしたんだ?」
そうそう由紀ちゃんだ。
それはそうと、何故か両手に持てるだけ大量の蜜柑《蜜柑》を抱えている。
そういえば食べ物ってどうやって持ってきてるんだろうな。
「えっとねぇー。佳奈ちゃんのおかーさんがくれたのー!」
「そうか。ちゃんとお礼は言ったか?」
「うん!」
「よし、いい子だ。そうだな、これだけあるんだ。ジュースにでもするか?」
「やった!由紀、蜜柑ジュース大好き!」
うんうん。無邪気で可愛いなぁ。
……言っとくがロリコンじゃないからな。
それよりも我空間(省略)だ。集中集中。
って、集中って何をだよ。
「あー、何かコツみたいなのあったらなー…」
ぐぃーっと背伸びしてみる。
「おっと。」
「へ?」
腕を誰かに掴まれた。
首を後ろに向けると、どこか知的な感じがする金髪美人の女性が立っていた。
どうやら伸ばした手が当たりそうになったらしい。
「あ、すみません。」
「別にいいわよ。でも周りには気をつけようね。」
「す、すみません……」
「それはそうと、さっきから白江さんと何をしているの?」
「えっとー…」
詳しくは全く分かりません。
「ひょっとして魔術のお勉強かな?」
「え、まぁそうですけど……って、あなたも魔術世界出身なんですか?」
「ええ。というより、ここにいるみんなは全員魔術の世界から来たのよ。」
ということは、由紀ちゃんとか小さな子供とかそこにいるご老人も全員魔術師ってことか。
みんながみんな使えるかは知らないけど。
「そうなんですか。……それで、あなたは?」
「私?私はミーシャ・ティエリス。君は上夜 仁くんだっけ。」
「あれ、名前言いましたっけ?」
「ううん。外界から人が来るのは珍しいからね。話戻すけど、さっきの呟きを聞く限り、魔術の方は上手くはいってないようね。」
「あ、あはは……」
「コツ、教えてあげようか?」
「…え?」
「だからコツ。白江さん、大ざっぱな人だからそういうのあまり言わないでしょ?」
「え、ええ。まぁ……」
「だから教えてあげる。」
「ほ、本当ですか?」
急で戸惑ったが、これはチャンスじゃないか?
もしかしたらこれで魔術が使えるようになるかもしれない。
おお、実感が湧いてきたらわくわくしてきたぞ。
「じゃ、じゃあ教えてください!」
「お、やる気だねー。オッケ~♪」
少し説明下手ですね……
次の18話は、半分はできてるので明日か明後日に投稿予定ー