15話 ハプニング
「おーい!誰かいるのかー?」
返事は無いが、とりあえず向かってみる。
もしかしたら気絶しているのかもしれない。
「うわ、煙がヒドいな……。何か燃えているのか?」
なんつーか爆発とか煙と縁があるのか?
こんな状況一日二回は普通ないだろ。
といっても今度は台所の時とは比べ物にならない量だ。
……気絶ですまないんじゃね、これ?
「お、お~い……。大丈夫か~?」
恐る恐る進んで行くと、煙の中から何かの影がこっちに向かってきた。
だがそれは人影ではないだろう。
なぜならその影は空中に浮いているからだ。
そして小さい。
距離のせいという可能性もあるが、かなり濃くなってきているので近いと思う。
予想としては、
「やっぱりか……」
姿を現したのは鳥だった。
残念、人ではない。
しかし見たことない種類だ。
大きさはカラスよりも一回り大きいぐらい。特徴的なのは、眼も身体も嘴も、濃さは違いがあるものの全体的に赤みのある色をしている。
そして見た目は殻という、見るからに硬そうな皮膚が光沢を放っており、何だか金属のようなイメージがある。
しかし周りをみるように動く目や、翼の動きなどから確かに生きているのが分かる。
「赤い鳥。初めて見たな。」
ふむ。どうやら見たところ人はいなさそうだ。
だとしたらこの煙は何なのだろう。
そう思い、確かめようと一歩踏み出してみると
<クェェェェェ!!!!!>
いきなり頭上の鳥が雄叫びを上げた。
「な、何だ?」
ふと上を向き鳥を見る。
すると、鳥は独特の赤い眼が光らせ(実際に光ってる)、身体を少し下に傾けた。
そして口を大きく開き、
<グワア!!!>
赤い塊、火の球のような物を勢いよく吐き出した。
「嘘だろ―っと、ッ!!?」
慌てて後ろに戻ろうとしたら、足が絡まり尻餅をついた。
しかしそのおかげで火の球には当たらなかったようだ。
――が、さっきまで立っていた場所は黒く焦げ、小さな煙が目の前を浮遊した。
「……は?」
何だこれ?
鳥の口から火の球?
どういうことだ。
待て。ということは、奥に見える他の赤い鳥二匹も同じく?
逃げろ。
そう本能が告げた。
つうか考えるでもなく走っていた。
《クェェェェェ!!!》
「ちょ、待てよおい!」
走り去った地面に次々と火球(火の球省略)が轟音と共に撃ち込まれる。
さすが鳥。
もう鳥と呼んでもいいのかすら分からないが、尋常じゃないスピードだぞ、おい。
「うわっと!」
靴に火球がかすり、転びそうになった。
燃えては無いが、このままだと確実に追いつかれる。
そうなったら火だるまだ。
「なっ、行き止まり!?」
嘘だろ?
先のない白い壁、横に曲がり角もない。
が、左右には建物がある。
出入り口は開いているようだ。
入るか?
それとも、危険だが一気に後ろに切り返して走るぬけるか?
くそ、そう考えている内に突き当たりに追い込まれた。
「あーもう、建物!」
やっぱり後ろに行くのは切り返し直前に火球の餌食になる可能性は高い。
そう判断して右の建物に駆け込もうとした──途端、急に開いたマンホールから出てきた手に足を掴まれた。
「え、何だ?手!?ちょ、待――うぉ!」
急なことに為すすべも無く、強制的に下に引きずり込まれた。
「うぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!!!???」
何だ何だ!
落ちてるのか!?
けっこう深い!
落下地点はどうなってる!?
コンクリートだと死――
<ドボォン!>
仰向け状態からうつ伏せになったとたんに何かが全身に当たり、着地音と共にその中に入り込んだ――、というより沈んだ。
そしつ数秒後、
「―ッァ!ゼーハー、ゼーハー!」
近くのレンガのような床に掴まり、勢いよく呼吸をする。
あぶねー、突然過ぎて溺れるところだった。
水中、ということは落下死は免れたのか。
ぐるりと周りを見てみる。
地下の割には結構明るく、匂いも普通。別にこの水も汚くないようだ。
下を見てみる。
透明度が高い水のようで、自分の姿が普通に見える。
かなり深いようで底は見えない。
だがそのおかげか体をぶつけずに済んだようだ。
そう思っていると、<バシャ>っと、後ろの方から何かが跳ねた音が聞こえた。
「ん?」
魚か?
こんなところにいるか知らないが。
後ろを向いてみる。
すると、
―ドバシャァァァ!!!―
字で表すとこんな感じの音と共に、勢いよく魚が顔を出した。
とてつもなくデカい、見えている部分だけで高さ二メートルは軽く越す魚が。
「嘘だろ……、おい。」
その大魚はさっきの鳥と同じ赤い眼をしており、鱗は鋼鉄のように硬そうだ。
そして、こちらに向けた口を大きく開け、洪水のように大量の水を一直線に噴射した。
ヤバい、あの勢いはヤバい。人間が耐えられる水圧じゃ!
くそ、避けれるスペースが……無い。
ふと、心の何かを失ったような感覚に包まれ、動けなくなる。
「何してんだ、馬鹿が!」
低く図太い大声と共に、何者かに襟首を掴まれレンガの地面へ力ずくで引き上げられた。
その瞬間、水と地面のちょうど境目で、吐き出された大量の水が止まった。
見えない壁にぶち当たったかのように。
「馬鹿野郎!何でさっさと上がんねぇんだ!」
「………ッ」
ごつい筋肉をした大男が怒鳴ってくる。
すぐに声が出なかった。
さっきも似たような状況に陥ったのに、実際に死ぬ直前を味わっただけで比べ物にならない恐怖と疲れが心と身体にのしかかる。
「おい、何か答え――ん?その格好は……。もしやお前さん、外の住人か?」
「……外?」
「何も分かってないのか?そうだな……。ここへはどうやって来た?」
「えっと、闇? みたいなのからですけど。」
「転移空間か。間違いないようだな。しかし、何も知らないような奴が何でこんな危なっかしい所に来たんだ」
「危ない?その前にここはどこなんですか?」
男は言葉をまとめようと少し考え、答える。
「ここは死後の世界。そして複数の世界を繋ぐ狭間。通称『境界』だ」