タイトル未定2026/09/13 11:06
地下へ降りる階段は
思ったより普通だった
映画みたいな鉄格子が
いきなり現れるわけでもない
蛍光灯が白く
階段の角には
何年もの靴跡みたいな黒ずみがあった
ワッカをされたまま歩くのは
なんとなく歩きにくい
痛いとかではない
自分の手なのに
置き場所が決められているのが気持ち悪かった
ガチャ
いくつか扉を抜けた
そのたびに
ガチャ
ガチャン
音だけが後ろに残った
さっきまで俺は
自分のクルマにいた
エアコンもあった
携帯もあった
シティヘブンも見ていた
今は草履だった
「ここで待って」
狭い場所に立たされた
壁は白なのか灰色なのか
よく分からない色をしていた
鼻についたのは
消毒液でもない
汗と湿気と
古い布団と
便所を全部薄めて混ぜたような匂いだった
臭ッ
第一印象と余韻だった
不思議とこの時点では
人生について
なにかしら考えるものだと思っていた
親の顔とか
これからどうなるとか
やってしまったそれらしきこととか
そういう混線したなにかが
頭を埋めるのかと思っていた
違った
悪臭や空腹
乾いた喉の奥側
今の時刻
堂々巡りめぐった
「入って」
鉄の扉が開いた
中にいた男が
一瞬だけこちらを見た
俺も見た
お互い
挨拶はない
部屋の隅に簡易のトタンに便器があった
近い狭い、近い
渡された布団を抱えた
知らない人間が
何人寝たのか分からない布団だった
潔癖症ではない
湿り気は空気が落下してこの布に染みついたのか
鉄の扉が閉まった
ガチャン、カチャ
その音だけは
さっきまでの扉とは違って聞こえた
重厚なノイズ
しばらくして腹の音が鳴った
向かいの男がこっちを見た
俺も見た
初めてまともとまともじゃないが交差した
なんとも締まらない空間
脳の整理整頓に
時間がかかりそうだと
直感は、俺に語りかけていた




