第八十九話「覆水は盆に帰らず、ならば新しく注げですわ、おほほほほ」
ヨシチェックは父親である国王陛下に呼び出された。
「ご用ですか、父上…」
こういう場面での口の聞き方も以前とは違ってだいぶまともになってきてた。
若気の至りで無茶苦茶な言動が多かったが、最近は色々な意味で大人になったとヨシチェック自身も国王陛下も感じている。
「先日のスタッキアの件だが、よく丸く収めてくれた。
以前のお前なら『関係ないからヨシ!』と言って関わろうとしなかっただろうが、今回は本当に助かった。」
「確かに、なんとかしないといけないと考えましたが…結局全部ハルカ嬢が……」
ヨシチェックの顔が曇る。
「……父上、私は王には向いていません。
やはり養子を迎えて、その子に王位継承権を…」
「何を馬鹿なことを言っている!
王位継承権はワシの一人息子のお前以外に認めるわけがないだろう!」
「………。」
「…私を王族のように振る舞わせてくれたハルカ嬢という婚約者を…自分の手で手放してしまった…。
一度、ハルカ嬢に婚約破棄をキャンセルできないか尋ねたことがありますが、断られました。
そんな私が仮に父上のあとをついでも、かつてのように悪徳貴族に担がれて国を滅ぼす未来しかありません。
父上、どうか養子を迎えてください……」
はぁー…と大きいため息をついて国王陛下がヨシチェックを諭す。
「婚約破棄キャンセルの拒否の件は、ハルカ嬢からも報告を受けている。
お前は何もわかっていないな……」
「どういうことでしょうか?」
「お前は『婚約破棄をキャンセルしたい』と言ったんだな?」
「はい、ハルカ嬢が民選国王立候補から逃げる口実に『婚約破棄キャンセルできたらいいのに』と言っていたので、同じ言葉を使いました」
「『キャンセル』って、どういう意味だ?」
「『無かったことにする』……」
「…そうだ。
だがこの場合、お前の軽率な行動で、お前自身の評判も、ハルカ嬢もお互い傷ついている。
現にハルカ嬢はクラウディアに国外退避したし、お前も悪評が立って縁談は来ない」
「…おっしゃる通りです」
「因みに、今お前の政敵になりそうな者はこの国にいるか?」
「………いません。
なんだかんだで結局ハルカ嬢が更生させるか排除してしまいました」
「お前のことを憎んだり恨んだりしていたら、ハルカ嬢はそんなことしたと思うか?」
「………!!!」
「というか、最大の政敵がハルカ嬢になっていてもおかしくないはずだ。
ワシも流石に彼女を敵に回したら身が持たんが……。
………それで、反省しているようだから聞くが、ハルカ嬢に謝罪はしたか?
世間に対して説明責任を果たしたか?」
「………!!」
そう言えば、NTPサーバーとDNSサーバーの障害で国中が大混乱になってから、ハルカ嬢がアプリシアに戻ってきているのに、なあなあにしていて、ちゃんと謝っていなかったし、世間に対してもきちんとした会見などはやっていなかった…と、言われて初めて気づくヨシチェック。
「…本当に…ポインター子爵の税率の件は自分の怠慢が起こしたことだったのに、忠言をくれていたハルカ嬢に八つ当たりしてこんな結果になってしまって……」
「…と、ヨシチェックが言っているが、どうだね?」
「うーむ、重たいですわね…。
ちょっと殿下立ってくださいまし…。」
王宮なのに収納スペースが少ない民家に置くような、座面の下に収納ができるソファにヨシチェックは座っていた。
その座面の下の収納スペースからハルカが出てきた。
「おほほほほ、懐かしいですわね。
昔もよくこうして、わたくしの忠言を無視した殿下が陛下からお説教されているのを隠れて盗み聞きしておりましたっけ…」
国王陛下の座面の下からはアカリが出てくる。
「当然ですが、昔より狭く感じますわね…」
「わたくしはお腹がぷにぷになせいでもっと狭く感じていましたのよ、おほほほほ」




