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包丁
俺は獣の生肉を切った感触が一番好きだ。
あのヌルッとした油の感覚は忘れられない。
その中でも一番のお気に入りは、まだ血管から液体が滲んでいるぐらいの状態だろう。それも、活きが良ければ良いほど腕が鳴るってもんだ。
まあ、こっちの加減一つでスッと切れる時もあれば、ちょっとやり過ぎたら刃が全く通らなくなってしまう時もある。上手く切断できたらお慰み、良い案配さ。
ふふふふ。
逆に、魚みたいに淡泊だと味気ないし、野菜なんかだと水気がありすぎて旨くないもんだ。魚やニオイの強い野菜だと、刃先に変なカオリまで残るしな。
さあ、さあ。
今宵も刃を通す時間がやって来た。
ふふふ、どうやって、あの女の生肉で遊んでやろうかな。
※
「痛っ!」
「どうした?」
「……あ、大丈夫よ。ちょっと指を切っただけだから。でも、なぜかしらね。あれだけ牛肉を叩いていた時は普通だったのに、タマネギを切った瞬間に刃が跳ねた気がするのよ」
「へー。そんなに野菜が嫌いなんて、まるでウチの子供みたいな包丁さんだな」