人材派遣会社
ある所に、宇宙で一番優秀な派遣社員が居た。
いつ、如何なる場所に出向いたとしても仕事をこなしてしまい、あらゆるアクシデントを乗り越えることができる有能な男である。小さな町工場から大統領の政治的な補佐まで完璧にやり遂げてしまうというのに、金銭や地位を全く欲しがらない希有な人間性を持ち合わせていたのだった。
派遣会社で絶賛の声が飛んでいた。
「……今日も完璧でしたね!」
「凄いですよ、貴方に掛かればどんな問題でも解決できます」
「むしろ、達成できない事があるのか、逆に気になってしまうほどですよ」
「ふふふ。そうかそうか、皆ありがとう。そんな真実を言わなくても良いのに。いやー、まいっちゃうね」
男は得意げになって派遣先の会社を後にしたのだった。
ぱちん。
過度に強められていた照明が落とされると、各々が一斉に言葉を漏らしていた。
「ったく、何が宇宙で一番の派遣社員だよ。バカじゃねーのか」
「あのアホ面にはウンザリするね」
「いや、まったく。彼奴には困ったものだよ」
陰口は止まらなかった。
ここは派遣会社。
あの男を褒め称えるためだけに派遣社員が集められた、存在しない会社である。