夫婦
ある所に、とても仲の良い夫婦がいた。
あまり裕福な家庭ではなかったが、笑顔の絶えない生活を数十年も続けていたのだ。回りにいる人間でさえ穏やかになり、夫婦というものはこうあって欲しいものだと誰しもが羨むほどであった。それは、生まれてきた子供達でさえ同じで、仲の良い夫婦のことを心から尊敬していたのだった。
ただ、ある時、その仲の良い夫婦が交通事故にあい、永遠に目覚める事のない植物状態にまでなってしまったのだ。これに家族や友人達は大きなショックを受けたが、ドナーカードを持っていた2人の意志を尊重して臓器を患者に譲ることにした。困っている人を助けることで、少しでも夫婦の幸せを増やしていきたいと皆が願ったのだった。
だが、仲の良い夫婦から、臓器を移植された患者の顔は暗かった。
担当した医者が尋ねた。
「どうしたのですか、そんなに暗い顔をして?」
「それが、どうも調子が悪くて」
「……検査の結果では、特に悪い所はありませんが」
「でも、それが変なんですよ」
「変?」
「はい。家に帰って一人っきりになると急にお腹の辺りが痛み出して、病院にまで来ると普通に戻ってしまうんです。でも、また家に帰ってトイレで一人きりになると、丁度手術で譲り受けた臓器と臓器がぶつかり合っているような激しい痛みが走るんですよ」