殺人専用のナイフ
ある所に、殺人専用のナイフが販売されていた。なんでも、それは人間を殺すことのみに特化されて精製されているらしく、どんな虚弱な人間でも訓練された軍人と同じように動けるというのだ。しかも、その上、取り扱いが簡単であり、良心の呵責すら機械的に掻き消してしまう究極の道具であった。
「おい、ここに殺人専用のナイフが売っているらしいな」
血気盛んな若者が噂の金物店に乗り込んできた。今にも誰かを殺しそうな目付きである。だが、対応する老人は普段と変わった様子が全くなかった。
「はい、ございます」
「だったら、とっととその殺人専用のナイフを持ってこい。でないと、お前の細い首を根本からへし折ってやるぞ!」
「……分かりました」
そう言うと老人は奥の倉庫から、小さな機械の欠片を持ってきたのである。
「……なんだ、これは」
「殺人専用ナイフ、の一部でございます」
「おい、俺は今すぐにでも使いたいんだぞ! こんな玩具みたいなモノだけじゃダメだ。早く、全てを持ってこい!」
「まあまあ、お客さま。よく考えてもみてください。私が取り扱っているのは、いかなる人間でも玄人のように手際が良くなる殺人専用のナイフですよ。そんな物騒なモノ、警察が目を付けない筈がありません。むしろ、今も何処かで見張られていると考えるのがベターではないでしょうか」
「……む」
「商品は買ったが、店の外に出た瞬間逮捕されては元も子もないでしょう。このパーツを分けた経緯は、警察の目を欺くためでして」
「……だったら、お前はどうして警察に捕まっていない?」
「当方には50年培ってきたノウハウがございますので。実際に販売されているテレビや冷蔵庫の一部として入手し、一見しただけでは分からないようにしておりますので」
「……なるほど」
「はい、ですので当店では、商品を何十段階で小分けしております。その際、現金でお支払い頂ければ、高額な取引ではないので目立ちにくい、という訳です。100万の札束も3つ集まれば弁当箱より大きいので、持ち運びも大変でしょうし」
「うむ、その通りだ……」
「という訳で、これから何ヶ月かに分けて、幾度も来客していただきます。出来れば他にお客さまが多い時間に目立たない服装でお願いします。そして、最後に取扱説明書を粉末状にしてお渡しします。これは特殊な形状記憶で精製されており、磁石を当てると本来の図面になる、という代物になっておりますので」
「……凄いな。そこまで徹底しているとは」
「いえいえ、扱う商品が商品なもので」
「最初に怒鳴って悪かったよ。これからは長い付き合いになりそうだ。よろしく頼む」
そう言って血気盛んな若者は店から出て行くと、老人の奥さんがお茶を運んできたくれたのだった。
「あら、またバカな客が来ていたのかい?」
「ああー、そうだ。本当の悪人なら、こんな嘘に騙されやしないから、ウチの店にはこないだろう。ったく、殺人に憧れるバカは扱いやすくて良いね」
「ふふ」
「これから何ヶ月も掛けてヤツから大金を絞り出し、その間に稼いだ金も全て俺たちのモノにしてやるさ。そして、商品が完成する間近になったら、形状記憶っていう名の麻薬を渡してから警察に通報すれば彼奴も終わりだ。あの若者も気がついた頃には刑務所の中だろうな」
「はは。アンタも時間を掛けて苦しめるのが好きだねー」
「これからは、犯罪も月賦制なのさ」




