未来の映画館
私は、かなりの映画好きだ。
A級B級は当たり前として、地方単館クラスのC級映画も全て見て回っていた。
当然、それだけではない。
国内で上映されていない映画だって全て網羅している。
わざわざ海外からメディアを取り寄せたり、スタッフに金を払ってオリジナルからコピーして貰っているのだ。
そして、それらを映し出す自宅の設備も完璧。
再生機と音響機器、映像機器が高額なのは当たり前として、大切なのはケーブルである。
この間を取り持つ線が2流だと、全ておじゃん。
劣化した映像など、jpgにも負ける。
因みに私は一メートル5万円はする純国産の映像端子を使用している。
更に、部屋の中には映像機器関係以外は設置していない。
何か家具があると邪魔になる。
映像を見る時、音や映像に微弱な影響を及ぼすからである。
ふふふ。
私は、雅に自他共に認めるマニアと言える。
今日は、そんなマニア達が集う映画祭に出席する事になっていた。
チケットは一枚100万円。
一晩に一回だけの映画としてはかなり高額だが、マニアの中のマニアの集いなら仕方ないというものさ。
金なんか惜しくない。
そこに集まったという、マニアとしての名誉が欲しかった。
と。
考え、映画館の中で待機していたのだが、一向に上映会が始まらないのである。
どういう事だ。
私は呆然としていたら。
突然、辺りから歓喜の声が上がりだしたのである。
「素晴らしい! こんなスクリーンの素材は見た事が無い! ビーズ、パール、マットでは放てない光沢がある!」
「いやいや、此方の壁も見て下さい。素材と音響角度が素晴らしい。分度器で測っても、1ミリ単位の狂いがない」
「この椅子だって、最高ですよ! 座り心地よりも、映像の視野角と光りを微妙に剃らすように計算されている。これから肉眼でも劣化が少ない」
その声を聞いて、私はハッとした。
なるほど。
そういう事か。
今日の集いは、映画マニアによる映画館の閲覧であったのだ。
私はてっきり映画を見るのだとばかり考えていた。
ある意味、一般人と同じ思考だったのかもしれない。
私はマニアとして、まだまだという事だろうか。
いや。
男として、マニアとして。
負けたままでは帰れない。
探せば、まだ勝ちの目はあるだろう。
マニアの血が疼いた私は、遅れを取り戻そうと歓喜の声を上げている人垣に颯爽と駆け寄り、強引に体をねじ込んでいったのであった。
※
「始まったな」
全ての光景を映画館の館長は眺めていた。
そこに、警備員が話し掛ける。
「今日も大盛況のようですね」
「ああ」
「しかし、段々、騒ぎになるまでの時間が短くなってますね。サクラは何人雇っているんですか?」
「いつものと同じ。2%って所だよ」
「そんなもんなんですか。しかし、どうして彼らは、ここが古い映画館だって事に気が付かないんですね」
「それがマニアって事だよ。勝手に価値を見付けてくれて、勝手に評価をしてくれ、勝手に高額の金を支払ってくれるのさ。マニアとは、実に素晴らしい存在だよ」
どうやっても200文字に収められませんでした。
まだまだです。