第4話
ベルメリは、ヤッヤモの実況が急に止まったが、階下から聞こえる大声で、十分に様子は分かった。
「やだ、あいつ等。リビングで何やっているのよ。キャイちゃんは止めてくれない訳?ヤーモさんは何しているの」
呟いていると、ヤーモさんからコンタクトが、
『面白いから、皆、見物している。ベルメリちゃんが来て、ガツンと一発言ってやったら?勘違い野郎に』
ベルメリも、ほっておいたらヤッヤモが何言い出すか分からなくて、止めに入る事にした。ニキお爺様に事情は説明したものの、この館全員にパパの内緒話を披露するのは、はばかられる。
階下に行こうとすると、チーラさんが飛び出してきて、ベルメリに話しかけた。
「ね、ね。ベルメリちゃんは、さっきお父様がおっしゃっていたって話、お爺様に言っていましたよね。チーとラーは魔族に痛めつけられて獣化して、その挙句にひどい目にあったって」
「はい、そーですけど・・・」
「じゃ、チーとラーは獣人として普通の反応だったって事よね」
「はい。全くもって普通だとパパが言っていました」
チーラさん、キャーとか叫びながらリビングに行くつもりの様だ。ベルメリはなんだか嬉しそうなチーラさんの後に続いた。そしてその後を、チーセンとラーセンが続く。気配で振り返ったベルメリに、チーとラー、口々に、
「ベルメリちゃん、いい話もって来てくれてありがとうな」「俺ら軟禁状態から解放されるよ。きっとパパは学校へ行って良いと言うだろな」「やれやれ」
「わぁ、良かったわ。此処に来ているはずなのに、チー、ラー見かけないからどうしたのかなって思っていたのよ」
「だろな。ママに見はられて閉じこもっていたんだ。でも、どうやら風呂に入れられたし、明日から学校に行くかもな」
チーににっこり言われ、ベルメリもうれしくなった。
リビングの喧騒の方は、チーラの雄たけびで収まって、今度はチーラの上機嫌ぶりを見物する事となっていた。
「あったっしっのっ、チー、ラーはいい子なのでっ、学校へ行くわ。でしょ。セーン。間違いなく。キャッハー、皆さーん。シャンプー済みの、チー、ラーでーす」
チーラが拍手で迎えるので、自然と皆も拍手で出迎える。そこへシャンプー済みチー、ラー照れながら登場である。セーン、
「よっ、人間っぽくしたな。明日学校に行くんだな。俺、ハイスクールに挨拶しといた方が良いだろうかな。長期休学なんて言っちまっていたし。それとも、校長だけにしよかな。学校に出向くってのもどうかな。あまり大げさにしない方が良いかも」
「そうよね、校長先生のとこだけ言っておいたら。今からお宅に行くのね」
立ち上がって出かけるそぶりのセーンを見て、ユーリーン婆もチー、ラーの件を思い出して、ヤッヤモ達の喧嘩話は捨て置くことにする。
ヤッヤモはレン似を睨みながら、これ見よがしにベルメリのポケットに入った。愕然とするレン似、しかしめげずにベルメリのポケットにヤモリ化して近づくが、セーンのポケットから出て来たヤーモが、人化してレン似をつまみ、廊下に投げ捨てた。
すると、何故か人化のキャイちゃんが居て、レン似を踏みつけ、
「あたくし達のベルメリちゃんに、後から来た奴が何言いうのさ。こうしてやるわ」
と言い放った。
ベルメリは困ってしまって、
「喧嘩は止めてね。仲良くしてね」
と言ってみた。すると、
「勘違いは、正さないとね」
セーンが瞬間移動で校長宅へ行こうとしている一瞬をついて、ヤモが顔を出して見解を述べた。
セーンのママは、
「あらあら、利口なだけで、常識が無いのね。お義母様。あのレン似の子、置いて帰って大丈夫かしら」
「構わないんじゃないの。他の子から常識を教えてもらうんじゃない」
ガーレンも、
「世間は厳しいからな。嫌になったら、家に戻るよ、きっと。その日は近いかもな。この館内の世間は厳しいぞ。あはは」
大人たちの世間話風会話を聞き流し、ベルメリはヤッヤモに宣言する。
「ヤッヤモちゃん、帰るわよ。あたし達。きっと、チー、ラーが戻ったら、オーカーさんちに居る、ヤコもココモ君も戻って来るわよ。あたし達は後れる訳にはいかないの。だって、この件はあたしの言った事で解決したんだけど、言ってはならない事、ニキお爺様に話しちゃってるの。あたしうっかり皆に口止めするの、忘れちゃってたのよ。チー、ラーがしゃべったらどうなる?パパ、捕まるかも」
ベルメリの家の事情を察したヤッヤモだが、言いにくいが言わない訳にはいかない事、言っておくことにした。
「ベルメリちゃん、その事だけど。セーンさんが校長にしゃべっていたんだけど。僕、セーンさんの動向は何となく察するんだ」
「きゃーぁーぁー」
ベルメリの只ならぬ悲鳴に、じじばば及び野次馬的セーンのママ(まだ帰っていない)、その他大勢さんが駆けつけた。
ベルメリは床に倒れて、何だか前後不覚のご様子、
「まっ、どうしたのベルメリちゃん。ヤッヤモ、どういう事?」
只ならぬ様子のベルメリちゃんを見て、ユーリーン婆はヤッヤモを追求するのだが、相手が違う。責任を問うべき相手は、まだ戻って来てはいない。チーラさんがしれっと言う。
「セーンが考え無しのおしゃべりして、どうやらしゃべった後に失態に気付いたみたいで、当分セピアに居るんでしょうね。あたしがチー、ラーを連れて船で来いってさ。ごめんなさいね。ベルメリさん。ご一家でこの館に住んで下さっても構わないでしょう。お爺様」
「そりゃこっちはゼンゼン構わんが、ベルメリちゃんのパパは来ないんじゃないかな、うん。チーラさん達の御実家にきっと居候することになるだろうな。今荷物をまとめておるようだな。恐らくセーンが直ぐに白状したから、引っ越しの準備を始めおったようだ」
ベルメリ、それを聞いてびっくりである。
「まぁ、パパ、獣人国に行くのね。でもあたしは行かないから・・・。あたしもセピアに戻ったら捕まるのかしら」
ニキ爺さん、
「いやいや、ベルメリちゃんはセピア生まれだから、セピアの住民で間違いない。捕まる事は無いよ。ママもセピアの住民だしね。捕まるのはパパのヴァンク・ノスだけさ。捕まる前にずらかる時間は十分あるな。セーンのあほうが恩を仇で返すようなヘマをしおって、情けない。婆さん、セーンは利口じゃないな。本人も言っていたが、事実と知れたぞ。つぎの代は一応レンにさせるかな」
「レンだって利口とは言えないわね。いっそのこと、チーかラーにさせたらどうなの。セピアの大学まで行ったら一流よ」
チーラさん、冷静に、
「あの子達は、それほど利口ではありませんわよ。お婆様。セーンにしておくしかありませんわ。じゃあ、ベルメリさんはどうなさるの、今から。セピアにお母様がいらっしゃるなら学校に行くこともできるし、または、この館に住むことになさっても、良いんじゃありませんか。お爺様?」
「そりゃ、一生住んだって構やしないが、今はほら、ここには勘違い野郎が居るぞ。キャイちゃんに踏まれて今はのびているが、あいつはトラブルの種だな」
ヤッヤモは、
「あいつにどうこう、ほざかせる事は、僕が止めますから、ベルメリちゃんの好きなようにして良いんですよ」
と、きっぱりと言った。
凛々しく言い切るヤッヤモちゃんを見ながら、可愛いなと思うベルメリ。しかし、人間のレン似の奴はちっとも可愛く感じなかった。
「直にあいつは留学して来るでしょね、それまではセピアで皆とハイスクールで過ごすわ」
チーラは、
「じゃあ、あたし達と一緒に船でセピアに行きましょうか」
と、にっこりした。ユーリーン婆は、
「船でねぇ、2人とも可愛すぎるから、婆は用心棒として一緒に行くわ」
「ユーリーンは用心棒にはなれっこないよ、儂も行こう」
ニキ爺さんまで行くと言い出したので、内心ヤッヤモは『こんなに皆でうろつくことになって、俺知らないよ。どさくさで、誰かが海に落ち込んだって、責任取れないから。なんかあったらほんと、この人数じゃヤッヤモの能力超えちまう。知らないから。もしもの時は、ヤモさんが、セーンにヤキ入れてほしいな』
ベルメリは心配性のヤッヤモの言い草に吹き出した。ヤッヤモのブロックはときどき甘くなる。
そんな二人に、キャイちゃんは、
『あたしも行きたいけど、きっとヤーモはだめって言うだろし』
と、うらやましがる。ヤッヤモは、
『レン似を踏んづけて、遊んでいてね』
と慰めて、皆でセピアに出発となったのだった。




