第21話
ヤモは魔法使いに眠りの術を掛けられたが、そういう魔法は魔物に聞くはずはなく『愚か者め』と魔力を込めた圧を送る。すると魔法使いは、魔力を強めた。
一層の魔力の籠った眠りの術を仕掛けてくる。ヤモが途中で魔力を込めてはじき返す。
今の所その繰り返しだが、ヤモは自分の魔力が出て行くので、用心のために最小限の生命維持的魔力を残して、自分の魔力を全て別に置き、魔法使いの段々強くなる攻撃魔力をはじき返すのに、自分の魔力をじわじわと強めて行った。どちらの魔力が先に尽きるのか、力比べと言える。
側でその様子を察して、リューンは、
「ヤモは奇妙な技を出せるんだな。セーン癒しよりヤモにお前の磁気パワーを分けてやりな。ヤモに必要なのはお前の磁気パワーだぞ」
リューン爺さんの奇妙な指図に、セーンはへえと思いながら、言われた通りに磁気パワーをヤモに注いでみた。
すると、気を失ったはずのヤモはにやりと笑い、セーンの手からパワーを吸収しだした。不思議な感覚になるセーンだ。
「本当だ、リューン。ヤモは俺のパワーを吸い込んでいやがる。きっと魔法使いと魔力の押し合いをしているんだな」
そしてわずか数分で、ヤモはぱちりと目を開け、
「あの魔法使い、終わったな。今頃はどこかできっと燃え出している。ざまあみろだ」
辺りを見回したヤモは、
「この辺りの木も燃えているが、どうしたのかな」
言いにくいが、セーンは報告するしかない。
「ヤコとヤッヤモが加勢しているつもりで、燃やしたな。追っ手も燃やしていたが、木の方が多いかな。ヤモが気付いたと分かって、慌てて逃げ帰っちまった。消火すると言う知恵はまだ無い」
そう言いながら、海水を飛ばして消火するセーン。
「くそう、逃げ足だけは早いのかー」
「ははは、俺はもう用なしだから帰るぞ」
リューン叔父さんが帰ると言うので、セーンは、
「キャイちゃんを構ってくれないかな、リューン。あの子、拗ねているのが見ていて痛々しいんだ」
「何だ、そっちで構ってやる奴はいないのか、ベルメリちゃんが相手では不足なのか」
「不測じゃないけれど、リューンおじさんにも構ってほしいらしい」
「やれやれ、思うんだが、お前らは使い魔と思っていないなあいつらを。いっそお前が養子にしたらどうなんだ、ヤコみたいに。俺は小さいガキの相手は苦手でな。勘弁しろや。他の頼みなら聞いてやらんでもないがな」
そう言ってずらかった感のあるリューンである。彼が居なくなって、セーンはヤモにも聞いてみる。
「キャイちゃんは、俺のとこに養子に来るかなぁ」
「来るんじゃないか、セピアに留学したそうだぞ」
こちら獣人国滞在の皆は、ベルメリちゃんの実況報告によって、状況を把握している。
ヤモさんが気付いたのが分かって、叱られる前に慌てて戻って来た二人に、ベルメリちゃんは一言、
「そんなに慌てなくてもいいじゃない。カッコ良くて可愛いのに」
と残念な様子だが、ヤッヤモ、
「そう言ってもね、ベルメリちゃん。きっと人事だと思っているね。最近ヤモさんの圧はすごいんだよ。パワー、前はあんなに無かったと思うんだ。俺ら小物は逃げるしかないんだ」
ニキ爺さんは、
「セーンもヤモも、前のお館さまの様だね。セーンの磁気パワーと、シンクロしているようだな。ヤモのは魔力のパワーだけど。セーンの磁気能力が増して、ヤモも魔力が増している状態だな。あの二人は不思議なコンビだね。使い魔と主人の関係と言うより、えーと相棒だと他人のように聞こえるし、何かなー、ぴったりの関係は」
チーラさんも内心思う。『種が違うから他人よりも遠い関係のはずだけど、まるで双子みたいね』
ベルメリちゃん、チーラさんの思いが察せられ、『うん、心の双子。精神的に繋がった二人』
ニキ爺さん、ベルメリの思っている事を察しているらしく、ふふんと笑っている。
ユーリーンは気になって爺さんを追求する。
「何クスクスしてるの。ニキったら最近リューンみたいになって来てない?あたし思うんだけど。セーンって、同居してるみんなの能力開発までしている感あると思わない。暇だと、奇妙な技出てくるのよね。セーンって。それで、メイドさん達が奇妙な合唱を始めるじゃない、コックさんによるとその歌聞くと、飼ってる牛さんがよくミルク出すんだって、それで最近のデザートは生クリーム多いでしょ。えーと、セーンまだ戻ってこないの、あたし達ニールに戻って良いんじゃないの。ぼやぼやして居たら、今日のお茶の時間に戻れないわ。きっと、生クリーム多めのケーキが、あたしの分が、無くなりそうよっ」
ニキ爺さん、
「儂の館にお前のケーキを食う勇気のある奴はいないな。心配ない」
「どうかしら」
そう言って、ユーリーン婆は立ち上がり叫ぶ、
「セーン、セーン。片付いたなら早くあたしをニールに戻してっ。あ、その前にあたしのケーキ食べてる奴が居たら、断固阻止しなさいっ。今日のケーキは誰にもやれないのよー」
ベルメリは、
「すごい、あたしがこの方に似ているって?さっき誰か言っていたんじゃない。この圧は無理よ」
疲労感でぐったりのヤッヤモ、
「似てるよー、そっくり。そして、俺はまだ動きたくない。ヤモに会いたくないし。ニールの庭の木、燃えていたのに消さずに帰っていたんだ、きっと叱られるし」
『あたしのポケットに入っていればいいでしょ。あたしもケーキ食べたいの。コックさんが朝からケーキを作っていたの』
『ケーキの事を思い出し、騒ぎ出す所もそっくりだ』と内心思うヤッヤモ、ブロックしているはずだったが、ポケットの上からベルメリにつねられた。『イダイ』
そして言う。『ヤッヤモの考えなんて、あたしには筒抜けなの』心なしか圧も感じるヤッヤモだ。
そんな時、セーンが例のケーキを持って戻って来た。
「セーン、なんて良い子なの。あんたは皆の期待を裏切らないねー」
「こっちでもお茶していたろ。きっと2度もケーキ食ったら太るよー。デブになるのを俺は期待しているんだ。笑ってやろうと思ってねー」
「あんた細かい事も察し過ぎよー。見て見ぬ振りが礼儀ってものよ。ところでまだ戻ったらダメなの」
「うん、セピア公国カーピン公爵の地位争いも絡んでいるらしくてね。犯人は分かっているんだけど。今の公爵の伯父が公爵の位を狙っているそうだし、一方で、俺らのヘキジョウさんっ子も、カーピン公爵に使い魔にするつもりで狙われている。面倒だからしばらくこっちに居よう」
そう言った後、セーンはリューンに言われていたしと思い、キャイちゃんを見てにこっっと愛想笑いをして、
「キャイちゃんは察しが良いからねー、俺の考えている事、もうわかって居そうだけど」
キャイちゃん、何故か狼狽し出す。ベルメリはキャイちゃんの狼狽ぶりを見て、『これは、キャイちゃんの急所に命中しちゃった感じ』と思う。
「で、でも、あたくし、何だかひとり特別扱いみたいな扱い。少し、えーと、如何なものかと。他のヘキジョウさんっ子の方々に対して、どう申し上げて良いのか、と、特別扱い等、あたくしが受ける立場ではございませんのよ。私はヘキジョウさんっ子の間でも、さしたる地位ではございませんでしょう。私は、えー、昔風に言いますと、たかがー、みなしご一兵卒?ですの」
とうとうキャイちゃんは自分の気持ちを、みんなの前にさらしてしまった。それに自分で気付いたキャイちゃん、顔色が悪くなる。そして、皆気持ちが痛くなってくる。
「キャイちゃん、キャイちゃんが特別扱いされたってかまわないと、きっとみんな思っているんじゃないか。他の子だってキャイちゃんと同じように特別だよ。でもキャイちゃんは自分で自分を貶めているからね。だからそろそろ俺が持ち上げてやらないと、もっと落ちていきそうで、心配なんだ。きっと他の子もそう感じているだろうな」
「うそ、そんなはずありませんわ。あたくしは決して、そう思ってはいませんわ」
ベルメリは、『今、自分でばらしちゃったのを誤魔化そうとしてるわね』と思っていると、その思いに感付いたキャイちゃん、
「でも、あたしはー、誰にも可愛がれない子だしー」
ベルメリは、
「違うでしょ、皆に可愛がってもらっていたでしょ。でも、親に可愛がってもらいたかったけど、他の子の親ほどじゃなかったんでしょ。それはキャイちゃんの所為じゃないの。自分を低く見なくて良いのよ。セーンさんの養子になって、セピアのハイスクールに行けばいいじゃないの。ヤコ君だってそうしているんだもん。自分で言っていたじゃない。ヤコ君より利口だって」
ヤコ、『何だか僕は、自分が惨めな感じがするけどー』
ヤッヤモ、『この騒ぎが終わったら、もっと惨めにさせられるよ。今じゃないから』




