第20話
ベルメリとヤッヤモはひょろひょろと館内に戻ってみると、ヤコはユーリーン婆の癒しで手が生えてきていて、凛々しくお出かけしようとしている。
しかし、ヤモは反対意見の様だ。人型になって、かなり不機嫌なご様子。ベルメリはヤモさんをあまり見た事が無かったのだが、かなりな魔力持ちに見える。そしてかなり怖い感じがして、ヤッヤモに隠れるようにして、様子を見る。
「いかれカーピンなんかに命かける必要など、無かろうが」
「別に命かけやしない。ヤモは、考えすぎじゃないか」
「あの剣にやられて、さっき死にかけて無かったか」
「リューンさんが来たじゃないか」
「言いたかないけど、俺らより人は短命だし、弱いんだが。奴を頼るのはやめておけ。魔法使いがからむと魔物でも危険なんだ。カーピンには魔法使いが居るじゃないか。奴に任せてセピアなんかに行くんじゃない。危険だ」
「でも、約束したし」
「未成年者と契約は出来無いんじゃなかったかな、な、セーン」
「うん、未成年者は親の承諾がいる。ヤモが承諾できないって言うと良いんじゃないかな」
「あたくしには、親は居なくってよ。ヤーモはあたくしを拒否してるの」
キャイちゃんが言い出す。言っている事は切ないが、気丈なキャイちゃん。
「リューンが命名したからな。リューンが親だろう」
ニキ爺さんが、キャイちゃんに教えている。
「でも、リューン様はあたくしにちっとも構ってはくれないんです」
「そうかい、あいつは最近能力が冴えわたっていて、気鬱気味でな。キャイちゃんも、冴えている所があるから、リューンが知っている事を、キャイちゃんに知られたくないんだろうな。だから会わないんだよ。でも親代わりで間違いない。法律は公爵も率先して守るべき立場だからな。きっと断れば承知せざるを得ないだろう。儂がリューンに言っておこう。もう察しているだろうけどね」
ニキ爺さんの言う事はごもっともだが、ベルメリ、『いかれカーピンの二つ名を持つ公爵のいかれぶり、ニキ様お忘れではないだろうか』と思う。ヤッヤモも、『慣れちまったな。皆、あれはセピアの最も高位の位の奴って事、失念している。奴が法律なんだけどな。奴がイヤと言えば、通るはずの法律も無いようなもんだぞ』
二人で話していると、ヤモが察して、
「セーン、セピアじゃカーピンが法律だって言う意見もあるぞ」
とセーンに言いうと、
「ははっ。だなー。そういう場合は俺ら得意の『ずらかり』って奴しかないな。しばらく地下で様子見ってとこさな。レンにずらかり場所を手配してもらわないと」
「またレンか」
ヤモがふてくされて言う。
セーンは、
「ヤモはレンの事、昔別れた相手っぽく言うな、何だか。いつたいふたりのかこになにがあつたのでせうか」
「どあほー、ふざけるな。そういう事ならセピアに断りに行ってくるから。セーンはあいつにずらかり先の手配しとけって言っておけよ」
と言って瞬間移動して行ってしまった。
「すごい、セーンさんに命令して行っちゃったよ。ヤモさんって、この館取り仕切る存在か何かなの、ヤッヤモ」
「んー、そうかもな」
ヤコも、
「強面ママになったなヤモ。前は優しかったのに」
と昔を思い出している感じだ。
セーンはレンとコンタクトしているようで、
「とりあえず、チーラ達のママの実家に移動しておこうか。ベルメリちゃんも来てね。カーピンが恨みをぶつけて来られないように、一緒に行こうね」
「えー、あたしもー」
ヤッヤモ、『俺らが元凶だったろ、ベルメリちゃん』
ヤッヤモのコンタクトで思い出したベルメリ。
「あ、忘れかけてた」
セーンがベルメリやキャイちゃんやら、家族達も、ずらかるときはずらからせる面々を連れて、ノスさんも居候する獣人国のお宅へ瞬間移動した。
行ってみると、ベルメリちゃんを見て、ノスさん何故か狼狽える。ベルメリ、うさんくさいパパを見て、
「どうしたのパパ、様子が変」
ヤッヤモも『俺も最近気にはなっていたんだ』
「な、何でもないよ。大勢さんで逃げて来たな。あのカーピンだろう、わがままが高じていて、パパも前からどうなる事やらとは思っていたんだが。セーンさんのお宅が矢面に立たされたのか。しかし、セーンさんのポケットにいつもいる使い魔の姿が無いが、大丈夫かな。向こうには魔法使いの優れ者も居て、こっちに来れなくなっているんじゃないかな」
ベルメリのパパの言う事にぎょっとするセーン。
「あの魔法使い、能力有りって?」
ベルメリのパパ
「カーピン家専属魔法使いなんだが、奴は利口者で、目立たないようにしているが、魔法使い同士での評判によると、今生のヤツでは並ぶ者無しの能力と聞いている。例の公爵を狙う方の魔法使いより強いんじゃないかな。意識して目立たないようにしているがな」
セーンは少し厳しい顔をし出した。
「セピアにヤモの様子を見に行きますから、ノスさん、皆を見ていてもらえますか」
「ええ、喜んで、レンさんも時々様子を見ておいでですから、こっちの方は気にせずにいても大丈夫ですよ」
パパはセーンさんにやけに愛想よく言っている。
セーンがセピアに行ってしまい、パパは作業途中の蔵書の管理を今日はやめるから、片付けに行くと言って居なくなった。
その後ベルメリは何だかつくづく落ち込んで、軽はずみな自分のお口をぎゅっとつねっておいた。
『ベルメリちゃん、お口そんなにして、あざになりゃしないかな。ほら、色が変わったじゃないか、やれやれ』
「ふぇーん、それもこれも、あたしの言った事から始まっていない?」
「気にしないでよ、ベルメリちゃんからじゃないよ。いかれカーピンからだよー」
ヤッヤモに慰められている内に、どなたかがやって来た。
どなたかと言うと、美人の老婦人と言った感じの、イーとこの御婦人感あふれるお方が、メイドさんと、何かしら美味しい匂いのするカートを押す人を引き連れてお出ましになった。
「皆様、ごきげんよう。こんな田舎で退屈でしょうね。もうしばらくの御辛抱ですわ。レン達が城勤めが終われば、こちらへ来てくれるそうなので、きっと楽しいお話が訊けますよ。私たちは『コンビレンミー』と呼んでいますの。お城のお勤めを面白おかしくレンさんが話してミーラが突っ込みますのよ。おほほ」
「あのう、もしやあなたはチーラさんやミーラさんのお母様?元王妃の?」
「あら、自己紹介して居なくて失礼しました。でも、元王妃とかじゃないのよ。別れた後にあいつが国王に成り上がったの。ヴァンクから聞いて言るのかと思っていましたが、まだのようですね。仕方のない方。何処へ行ったのかしらね。近々、私達式を上げますでしょう。お嬢様をお呼びしないとと、何度も言うんですけど、何だか気恥ずかしいらしくて」
ベルメリは、実の所『このお方、上品過ぎてお年の方かと思ったけれど、まだ若そう。なんだかパパと同年代かも』などと感じた矢先のこのお言葉である。
ショックで泡吹いて倒れそうな気分のベルメリだが、ここは踏ん張りどころだ。
キャイちゃんがすかさず、
「おめでとうございますぅ」
と可愛くご挨拶し、ヤコくんもキャイちゃんの台詞を聞いて、取ってつけた感じなのは仕方ないとしても、
「おめでとうございます」
と言うしで、ベルメリも何か気の利いた事を言わねばならない。もたつくうちに、ヤッヤモが人型になって、驚くご婦人に向かって、
「おめでとうございます、ベルメリちゃんの使い魔候補、ヤッヤモです」
と言うしで、最後に残ったベルメリ、
「パパは何にも言わなくて、そわそわしたりして何だか変だと思っていましたけど、娘のベルメリです。よろしくお願いします」
何とかあいさつし終わり、紅茶やケーキなどを皆でいただく事にする。
そんな時、ベルメリはきっとセピアでは不味い事になっていると感じた。ヤコ君が急に下を向いて、プルプル状態になった。ベルメリの観察では、きっとドラゴン化してセーン達の所へ行きたいけど、今更感もありそうだ。
「助けに行きたいの?ヤコ君」
ベルメリは聞いてみる。ヤッヤモは、
「行ってみようよ、ヤコ」
と言って立ち上がった。
「でも、2人から来るなって」
「何もなければだろ、嫌な予感しかないだろ、今は」
二人は外に走って出ると、そのままドラゴンになって飛んで行った。
ベルメリはハッとする。で、叫んでおく。
「あんたらー、ドラゴンの格好でセピアに近付いたら、撃ち落されるよー。手前で人型になってねー瞬間移動して-現場近くでまたドラゴンに-」
指図するにつれて細かくなる。聞こえてるかなーと訝るベルメリだ。
キャイちゃん、
「なるほどねえ。ベルメリちゃんって知恵っ子―」
「前にニュースで放送していたのよ。思い出したの」
パパの婚約者であり、チーミーママも、
「ベルメリさんはその能力できっと、ご存じの方々のご様子が同時中継風にお分かりなんでしょう。素晴らしいわ。で、セピアの皆さんはどんなご様子なんですの」
上品なご婦人かと思っていたベルメリだが、このお言葉で、割とワイドショーをお昼時に見る好奇心増し気味のおばさんではないか、と思えるベルメリだ。
「えーと、ヤモさんはヤコさんの契約が無効だとカーピンに説明しかけて、魔法使いに眠らされてどこかのお部屋に閉じ込められましたの。セーンさんはヤモさんがどこに居るかご存じの様で、ヤモさんを連れてこちらに戻ろうとしていたんです。でもー、セピアの公爵の城にあたし達が行った時に、会った事のある公爵の護衛に取り囲まれて-。何だか押し合いへし合いしていたら、魔法使いがセーンやヤコに変な薬を巻いて、火をつけたの。二人は火傷を負いながら城から出るとー。ヤコとヤッヤモ、そこへ来てー間に合いました。
セーンは
「ニキ爺さんの館にひとまず逃げるぞ。ヤもの治療が先だ。ずらかろう」
と二人に言うと、瞬間移動してー、残った2人もドラゴンのまま瞬間移動してー、失敗したヤコとヤッヤモ、人型にならなきゃー。もう一度試して移動できたのかしらーーー。居なくなったからーー、戻れたのね」
『ニキ爺さん達だって、こっちに来たのにどういう事と』ベルメリが思っていると、パパが作業が終わったからとやって来た。
「ベルメリちゃんの実況良かったよ。セーンさんは追手が来るから、ここには戻れなかったんだよ。あっちで決戦だろうな」
「そんな、あたしだってー」
ニキ爺さんとユーリーン婆さん、今度こそは止めたい。
「さっきはうまくいったからって、今度も都合よく出来るなんて、保証なんか無いのよ。ベルメリちゃん」
「今度こそ、大人しく待っていようね」
「そうなのかしら、あたしはお邪魔かしらー」
ベルメリ、皆は瞬間移動して、館に戻った挙句の決戦だし、心配だがこうなっては行った所で邪魔なだけだと分かっていたが、たまらなくなる。
「ヤッヤモー。頑張ってー」
大声で叫ぶ。
チーラさん、
「まるでお婆様。そっくりじゃないの」
キャイちゃんも、
「みんな似てるって噂していたけれど、見かけじゃなく心が似ているのねー」
ニキ爺さんの館は今は使用人しかいないのだが、みんな心は一つの応援状態である。
次々に追ってくるガタイの良い魔人風の傀儡らしき物を二人の古のドラゴンは咆哮をあげつつ、火も吹くしで、辺りの木々は延焼で燃え出し、ニールの館の異変は遠くまで知れる事となる。
セーンはヤモを癒すのに集中した。魔法使いから奇妙な攻撃を受けて、気を失ったままのヤモ。どういう魔法なのかあまり詳しくはないセーンは焦る。段々弱って行くのが見て取れ、絶望さえ感じてしまう。
いつの間にか、リューン大叔父が横に居るのに気付いたセーン。
「リューン、ヤモは一体どうなってしまったんだろう」
「セーンに攻撃しようとする魔法使いと、戦っているな。魔法使いを見かけないだろ。こいつが側に来させない」
「そう言えばカーピンはどうなったかな。見かけないけれど」
「セピアに捨て置かれている。結局狙いはセーンの水晶真っ黒割り的、魔力狙いだな。自分では気付かないのか。魔力がかなり溜まったな」
「そんなに溜まったって。どうすれば良いのかなー」




