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第2話 「神社キャトルミューティレーション」

 公園から少し離れた林の中、雑草や蜘蛛の巣をかき分けて奥に進むとそれは昔から姿を変えることもなくそこに存在した。僕が子供の頃に『秘密基地』と呼んでいたそれは朽ちた小さな神社だった。

 壁や屋根がほぼ木々と一体化しており鳥居も半分ほど砕けておりこの町に何十年、何百年前からあるのだろう?、言えるのはかなりの年代物なのだろうということだ、このボロボロっぷりも相変わらずで懐かしい。この歴史的ボロ家を写真にでも収めておきたいが僕は携帯電話を持っていない、あるのはこの腕時計だけなのだ。

 ただいまの時刻十一時三十分、ここまで来るのに結構歩いたが懐かしさと嬉しさで疲れはどこかへ吹き飛んでいた。


「よく残ってた物だな……いつ倒壊してもおかしくないって感じだったのに、まあありがたいけどね」


 木々に飲み込まれ苔にまみれはっきり言って形を保ってるのが不思議なくらい、むしろ木々が一体化することでこの太い木の幹がどっしりとした柱となってこの神社を支えてるのだろうか。

 いつ建ったかも知らないこの建物の名前すら知らないそんな僕だがこの神社に祀ってあるものだけは知っている。


「じゃあおじゃまします…っと、おっあったあった」


 ここにまだひょっとしたらいるかもしれない神様に軽く頭を下げ神社の本殿に足を踏み入れる、罰当たりかもしれないが子供の頃からここは僕の居場所なのだ、それに罰を与える神様がここにいるかどうかなんて考えるまでもないだろう。

 本殿の奥にはぽつんと一つ石像が置いてあった、いや祀ってあった。この町の人が忘れ去ってしまってもここにぽつんと一人佇んでいた、石像に一人なんて数え方をするのは変なのだけれど一個と数えるには妙な存在感があって、どちらかというと一匹が正しいのかもしれない。

 なぜならその石像は狐の石像なのだから。しかも普通というには変なところがある。


 「ひいふうみい……うん、やっぱり十本ある、普通一本か九本じゃないのかな?」


 その石像は尾が十尾の狐なのだった、九尾なら聞いたことがあるが十尾なんて聞いたことがない。しかしそれでも現にこうして目の前におかしな尾を持つ狐の像があるのだから仕方がない。


「石像作る業者さんが一本間違えたのか、一本オマケでもしてくれたのかな、なんて」


 石像の周りのコケや枯れ葉を払いのけ僕は石像の前に座る、そうそうこんな感じ、ここが僕の秘密基地だった。しん、と不思議なくらいに周りの小さな雑音も聞こえなくなりひんやりと肌に伝わる気温も引き締まるような、なんだか朽ちてもなおこの像の周りはその神秘性を失っていないようなそんな感じがして子供の頃からここが好きな場所だった。


「よく昔は石像に話しかけたりしたっけ…」


 なんとなく手で狐の像の苔を払い落としてやった、なんだかそうして欲しいと思ってるような気がして、友達もいなかった僕はこの石像が話し相手だったりした。もちろん返答など返ってくるわけもなく僕がただ一方的に話しかけていただけだ、学校であったこと、家であったこと、辛いこと悲しいこと、嬉しかったこと話したいことは胸に抱え込んだものは全部話していた、壁に向かって話すよりかはずっと良かったから。

 家を転々とする前から悩み多い子供だったなと我ながら思う。


「……久しぶり、また僕この町に帰ってきたんだ……全然あの頃とお前は変わらないね」


 石像は当然何も答えない、それでいい僕もその方が胸の内を吐き出しやすかった。ぽつりぽつりと言葉が溢れる。


「家にさ、居場所がなくってね……クリスマスイブの夜だってのになんか笑っちゃうよね、いや全然気になんてしてないんだよ?ほら僕ってよそ者だからいないくらいの方がいいんだよ、な?」


 何を僕は孤独に慣れたフリを、誰に言い訳をしてるのだろう月くらいしか僕のことを見ていないだろうに。

 うまく生きる(すべ)なんて身についてやしないのだほんとは、ほんとは寂しくて悲しくて胸がはち切れそうなのに。


 話し始めてから、何分が経っただろう。

 僕の強がりも長くは続かなかった、ぽたりぽたりと頬を伝った雫が床に吸い込まれていって泣いているんだとその時気付いた。


 「あれ……なんでだろ……止まらないや」


 僕はこのまま何もなすことなく何も残すことなく来年も再来年もと、大人になってそのまま終わるんだろうか、クリスマスを誰と過ごすこともなく、ずっと自分に仕方ないと言い聞かせていくのだろうか、居場所がなく生きてくんだろうか。


「嫌だ、そんなの嫌だ」


 ドクンと心臓が跳ねた、湧き出るのは秘めた心の本音。

 僕は初めてこの秘密基地でいやこの神社で誰かに祈った、神かそれとも狐か。


「どこでもいい……どこかに僕の居場所が欲しい」


 もうひとりぼっちのになることもないように、と。静かに目を閉じてそう願った。

 クリスマスイブの夜、僕は確かにそう願った。


「……ありがとう、話を聞いてくれて」


 時計は十一時五十九分、あと一分でクリスマスだ。そろそろ一家団欒も済んだことだろう、あの『家』に戻ろうと立ち上がった時だった。

 ──ぐらぐらぐらっ!と地震が起こった。立ってられないほどの揺れで思わず尻もちをつく。

 柱がきしみ埃が舞い、何事だと床に手を付きながら這いずるように本殿から縁側を目指し、やっとのそこから神社の外を見ると。


「うぇ……う……浮いてる!?」


 その()()()()()()()()()()ように僕は建物ごと浮遊していた。

 みるみる高度が上がって町を見下ろせる高さまでに達するころに、縁側から呆然と夜の空を浮遊するさまを見ていた僕の頭に浮かんだのはサンタクロースの奇跡でもなくて海外の牧場の牛が円盤に吸い込まれるアレ、キャトルミューティレーションだった。


「い、居場所が欲しいっていったけど宇宙!?宇宙人!?もし宇宙ならさすがに生きていけないって!」


 僕の願いを叶えてくれたのは宇宙人だったのかと馬鹿な考えが浮かび、最もそう思っても仕方のない馬鹿な状況なので混乱していた、ただ、宇宙人の仕業でも円盤に乗せられるわけでもないようで。

 縁側にしがみつきながら真上を見上げてみると僕を、神社を吸い上げていたのはUFOじゃなくて。


「ま、魔法陣……?う、うおおぉぉぉぉ!?」

 

 昔、アニメで見たような魔法使いが扱うような幾何学模様の魔法陣。それが僕を、建物を吸い上げていた。

 クリスマスの十二時ちょうど、どこか違う居場所を願った僕は円盤ではなく大空に浮かぶ魔法陣に神社ごと飲み込まれるキャトルミューティレーションでこの現世での幕を閉じた。

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