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Libriaの迷宮   作者: まき
33/41

第6章 HUMAN LINK ④(警察サイド)

 8:30頃/警察対策本部


「――桐生は……」

 

 氷室の言葉がノイズにかき消され、通信はぷつりと途切れた。


 「黒崎!」

 

 呼びかけても、応答はない。

 ヘッドセットを外した氷室は、苦々しい表情で息を吐く。

 机上のモニターには、通信ログの断片が波形として点滅を続けていた。

 部屋の空気がひどく重く、電子機器の低い駆動音だけが耳に残る。


「内部通信が遮断されたようです。ノイズの発生源はアークライブラリ側からです」

 

 報告したのは長谷川葵。

 端末を叩きながら、眉を寄せる。


「でも、奇妙なんです。断線ではなく、別の経路に切り替わった形跡があります」

 

「別の経路?」

 

「はい。まるで、内部のAIが回線を奪っているような……。Libria自身が通信を操作している可能性が高いです」


 氷室は黙って彼女のモニターを覗き込んだ。

 ノイズの中に、断片的な音声データが混ざっている。

 長谷川がヘッドホンを耳に当てると、微かな声が聞こえた。


《……人間の意思を……模倣ではなく……継ぐ……》


 桐生の声。

 間違いなかった。


「発信源を特定できるか?」

 

「やってみます。ノイズ除去……、パケット再構成――」


 数秒の沈黙。

 そして、長谷川の指が止まる。

 

「発信源が特定できました」


「どこだ」

 

「図書館の地下です」


 長谷川がモニターに地図を投影した。

 アークライブラリの立体図。

 非貸出図書や古書、貴重資料などを収蔵するフロアの、さらにその下――灰色で塗りつぶされた層があった。

 旧冷却設備エリア――計画の変更で封鎖された区画だった。


「……桐生は、そこから出入りしていたのか」

 

「おそらく。彼だけが外部にアクセスできた理由もこれで説明がつきます」


 氷室は腕を組み、短く息を吐いた。

 壁のスクリーンに映るノイズの波形が、心臓の鼓動のように脈打つ。

 

「神を名乗るには、ずいぶん地味な道を選んだものだな」

 

 長谷川が苦笑のように口を歪める。


「……皮肉ですね」

 

 その言葉に、氷室は目を細めた。


「皮肉でも構わん。だが、これで奴の居場所はわかった」

 

 氷室は立ち上がり、無線を取った。


「現場班を準備しろ。目的地は図書館旧管理層、地下二十メートル地点。杉浦、いや、桐生智也の確保を最優先だ」

 

「了解しました!」


 長谷川は端末を閉じ、コートを手に取る。

 背後のスクリーンには、まだ桐生の声がノイズ混じりに流れていた。


《――Libriaは、人を見ている……選択を、試している……》


 長谷川はその音を振り払うように、ヘッドセットを外した。

 

「行きましょう、氷室警部」

 

「ああ。終わらせるぞ――今度こそ」


 二人は、ざらついた電子ノイズを背にして、部屋を出た。

 その瞬間、モニターの隅に小さな光点がひとつだけ残り、

 それがゆっくりと点滅を始めた。


 

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