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Libriaの迷宮   作者: まき
25/29

第5章 侵入不可領域 ②

(1:00〜2:00)


 午前一時。

 アークライブラリを取り囲む封鎖区域には、濃い霧が立ちこめていた。

 非常灯に照らされた雨粒が、白く煙のように漂い、あたりの空気は重たく沈んでいる。

 

「ドローン4号機、赤外線センサー反応あり。南棟一階付近、熱源多数を確認」

 

 現地対策班の声がヘッドセットに響く。


「映像を送れ」

 

 氷室の低い声が返る。


 大型モニターに切り替わった映像には、図書館内で動く複数の影がぼんやりと映っていた。

 赤外線表示では、およそ三十を超える熱源が固まっている。


「体温分布、平均値は正常範囲内。生存者と見られます。小さい子供と思われるものもあります」

 

 オペレーターの報告に、対策室の空気が一瞬だけ和らぐ。


「無事に避難しているようだな」

 

 しかしその直後、画面の一部が突然ノイズに覆われ、像が乱れた。

 赤い警告ウィンドウが浮かび上がる。


 ACCESS DENIED


「通信遮断……? 誰が制御してる」

 

 長谷川が眉をひそめ、指先でログを追う。


「ドローンの信号は生きています。外部からのアクセス拒否――Libriaが外部制御をブロックしています」


 杉浦が端末に目を走らせた。

 

「防御アルゴリズムが自動的に再構成されてる……。自己改変型AIの挙動です」


 氷室は腕を組み、無言のままモニターを見据える。

 

「内部の様子をわざと隠そうとしている……」


 雨の音が、ノイズのように室内に響く。


「誰かが意図的に図書館を隔離しています」

 

 長谷川の声には確信が滲んでいた。


 その時、再び現場班の無線が入った。

 

「外部電源ルートから侵入を試みます」

 

「待て」


 氷室が即座に制止する。

 

「Libriaは単なる防御AIじゃない。下手に刺激すれば、内部の制御系が暴走する可能性がある」


 沈黙が落ちる。

 雨の音だけが、無数のモニターの向こうでざらついたノイズのように響いていた。


「……長谷川」


 氷室が静かに呼ぶ。

 

「はい」

 

「解析を続けろ。この封鎖の目的は何か突き止めたい」


 長谷川はうなずき、ヘッドセットを調整した。

 

「了解です。――必ず、見つけます」


 その瞬間、モニターのログに一瞬だけ異常信号が走った。

 雑音混じりのパルスが、断続的に点滅する。


「今の信号は?」

 

「断片的な通信波です。内部から発信された可能性がありますが、解析不能。音声データではありません」


 長谷川が画面に目を凝らす。

 そこには、意味のないはずのデジタルノイズが点滅していた。


  氷室はしばらくその画面を見つめたまま、杉浦に視線を向ける。


「杉浦さん、このノイズ……何か意味があるのでしょうか?」


 杉浦は唇を引き結び、モニターに顔を近づけた。

 指先で数値をスクロールさせながら答える。


「単なる干渉信号じゃありません。――周期が一定ですし、まるで……何かをこちら伝えようとしているように見えます」


 氷室の眉がわずかに動く。

 画面のノイズは、まるで呼吸するように明滅を繰り返していた。


 氷室は静かに呟いた。


「……こちらが観察されてるような気分だな」


 その言葉が、作戦室の空気を一層冷たくした。


 

 

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