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Libriaの迷宮   作者: まき
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第3章 異変の発覚 ②

 午後十一時を回ったころ、アークライブラリの周囲はすでに異様な熱気に包まれていた。


 第一報を受けてからおよそ一時間。SNS上では「図書館に閉じ込められた」「連絡が取れない」という書き込みが雪だるま式に増えていた。

 ハッシュタグ〈#アークライブラリ封鎖〉が急速に拡散し、数万人が同時に注視するトレンドとなっていた。


 地方局のテレビクルーが中継車を横付けし、すぐにアンテナを立ち上げる。

 照明が点り、カメラが赤いランプを灯すと、群衆の注目は一斉にそこへ向かった。


「はい、ただいま臨時ニュースが入りました。市の中心部にあるアークライブラリで多数の利用者が帰宅できず、安否不明となっている模様です」


 リポーターの女性がカメラに向かって深刻な表情を作り、背後には規制線と、その奥に沈黙する巨大な建物が映り込む。

 無機質な金属シャッターは、テレビ画面を通すとさらに冷たく、恐ろしく見えた。


 群衆の中から「うちの子も中にいるんです!」という母親の声が拾われ、マイクが突きつけられる。彼女は涙ながらに状況を訴え、レポーターは頷きながら言葉を引き出す。すぐさまそれは全国に流れ、視聴者の不安と好奇心が一気に膨れ上がった。


 やがて、大手のキー局も次々と到着する。

 複数の中継車が並び、強力なライトが夜の図書館を昼間のように照らし出す。

 その光景は一層異様で、まるで巨大な要塞が包囲されているようだった。


 ニュース速報のテロップが流れる。

 

〈速報 市立アークライブラリで利用者多数が安否不明〉

〈図書館が突然封鎖 警察が調査中〉


 それを見た人々は、さらに現場へ駆けつけた。現場周辺の道路は渋滞し、近隣住民も外へ出てきて騒ぎを見守る。

 報道関係者と野次馬、泣き叫ぶ家族、規制線を維持しようとする警察官。その場は一大混乱と化した。


 警察本部からは、広報担当の幹部が慌ただしく駆けつけた。規制線の内側でマイクを握り、報道陣に向かって繰り返す。

 

「現在、図書館内部に関して確認を進めています。詳細は現時点では不明ですが、警察として全力で対応してまいります」

 

 そう繰り返すが、記者たちの質問は矢継ぎ早に飛んだ。

 

「中に何人取り残されているんですか?」

 

「人質事件の可能性は?」

 

「封鎖はテロによるものでは?」


 幹部は表情を硬くしたまま「調査中です」を繰り返していた。

 その歯切れの悪さに、家族の苛立ちが募る。


「ふざけるな! 中に子どもがいるんだぞ! 今すぐ開けろ!」

 

 怒鳴り声に呼応するように、他の家族も泣きながら訴える。

 警官が必死に押しとどめるが、規制線は押され、今にも崩れそうになっていた。


 その時、テレビ局のヘリコプターが頭上を旋回した。

 サーチライトが夜空を切り裂き、屋根を白々と照らす。光の円が図書館をなぞり、金属の外壁を鈍く光らせる。

 

 その様子を下から見上げながら、誰かがぽつりと呟いた。


「……まるで、SF映画に出てくる宇宙船みたい」


 空にはヘリのプロペラ音。地上には人々のざわめき。

 それでも、図書館の中からは一切の応答がなかった。


 ――沈黙。

 

 外の世界がどれほど騒ぎ立てようと、建物は無言で人々を見下ろしていた。

 その静けさが、群衆の胸をいっそう強く締めつける。


 その頃、規制線の内側では、周囲の喧騒など気にも留めず、スーツ姿の男が部下に問う。

 

「犯行声明は出ていないのか」

 

「はい、まだそのようなものは確認されておりません」

 

 男は建物を見上げた。表情に焦りも驚きもない。ただ、状況を冷静に見極めようとする鋭い眼差しだけがあった。


「……封鎖解除の手段は?」


 部下が首を振る。

 

「館内のシステムにアクセスできません。外部制御は不可能です」


 男は短く息を吐き、静かに腕時計を見下ろした。


「……こりゃ、今夜は帰れそうもないな」


 部下が顔を向けた。

 

「えっ、何かおっしゃいましたか?」


 男は視線をシャッターに戻し、わずかに首を振った。

 

「いや、何でもない」


 夜風が吹き抜け、バリケードのテープがかすかに揺れた。

 その静かな音だけが、喧騒の中で妙に耳に残った。

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