初報酬
町に戻ったライネルと葛葉は、まっすぐ冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、夕方の光に照らされた室内は、喧騒と金属の響きで満ちていた。
受付の職員が手際よく白露草を確認し、帳面に記し、革袋を差し出す。
「これで依頼達成だ。ご苦労さん」
袋はずしりと音を立てるほどではなく、掌に収まる程度の重みだった。
しかし、それでもライネルの胸の奥には小さな達成感が灯る。
彼が受け取ろうとしたその瞬間、横から葛葉の手が伸び、袋をひったくった。
「ほぉ、これが“報酬”ってやつか。さて……酒にして何杯分だ?」
紫煙を吐きながら、袋を揺らして音を確かめる。
その表情は、どこか子供のように期待に満ちていた。
だが中を覗いた途端、顔が引きつる。
「……は? あんな目に遭って、たったこれっぽっち?」
ライネルが苦笑する。
「新人の依頼はこんなもんです。危険度も低いはずだったので」
「低いはずだった、ねぇ……」
葛葉は煙管を鳴らし、すっかり拗ねた声を出した。
「命懸けで山賊に追われて、酔いも覚めて、汗までかいて……で、この小銭かよ。
妲己様のもとで客引きしてた頃のほうが、よっぽど気楽に稼げたぜ」
その妙な名に、ライネルは思わず眉をひそめる。
「……妲己様?」
葛葉は「あ、しまった」という顔をして紫煙を吐き、笑ってごまかした。
「気にすんな。ただの昔話よ」
⸻
「お、もう報告は済ませたか?」
背後から声がして振り返ると、ハリス・ジャン・フランの三人が受付を終えて歩み寄ってきた。
ライネルは深々と頭を下げる。
「さっきは助かりました。改めてお礼を申し上げます」
ハリスは片手を振って笑う。
「礼なんていらんさ。俺たちはついでだしな」
そう言いながら、懐から革袋を取り出し、ジャラリと音を立てる。
「それはそうと――山賊退治の報酬だ。俺たちだけで片づけたってことになっちまってるが、
実際はお前らも巻き込まれた。だから少しだが分け前を渡す」
ライネルは慌てて手を振った。
「とんでもないです。助けていただいただけで十分ですから」
「遠慮すんな。こういうのは気持ちだ」
ハリスは笑いながら袋を押しつけた。
ジャンも無言で頷き、大きな手で軽く背を叩く。
その一撃は重くも優しかった。
フランは静かに微笑み、言葉を添える。
「新人のうちは一枚の銀貨でも助かるでしょう? 受け取っておくのが正解ですよ」
その眼差しは穏やかだが、どこかで葛葉を一瞥していた。
――あの“妖術”を思い出しているのかもしれない。
葛葉はその視線をすり抜けるように笑い、
「おう、ありがたくいただくぜ。……お、こっちは酒十杯は軽いな!」
と、さっさと袋を掴み取った。
ライネルは額に手を当て、思わずため息をつく。
ハリスが笑いながら肩に剣を担ぎ直した。
「ちょうどいい。酒場で話でもしようじゃないか。
報酬も入ったことだし、今夜は奢るぜ」
葛葉の目が一気に輝く。
紫煙の向こうで、にやりと笑った。
⸻
こうして、初めての依頼は幕を閉じた。
わずかな報酬と、ひとときの安堵。




