第5話:猫神様に会う方法
数日後。
“ゆづ”の保護任務が無事終わり、私は再び猫会議に呼び出された。
「よくやったな、人間」
> 「いや、もう“半猫”か」
「あいつが壊れなかったのは、お前のおかげだ」
猫たちは前回よりも柔らかい雰囲気だった。
──ただし、一匹を除いて。
> 「……だが、お前の中の“猫化”は進んでいる。自覚はあるな?」
「うん。最近、普通の人の会話が、ちょっと遠くに聞こえる感じがしてて……」
「逆に、猫の気配がすぐ分かるようになった」
> 「それは“変化”が進んでいる証拠だ」
「あと数週間もすれば、完全に“猫の脳”に切り替わる」
言い換えれば──人間としての思考が失われるということ。
「……じゃあ、もう戻れないってこと?」
すると、くーちゃんが前に出た。
> 「一つだけ方法がある」
「“猫神様”に会えれば、願いを選ぶことができる」
「人間として生きるか、猫として生きるか──どちらかを、完全に選び取ることが」
「……猫神様って、本当にいるの?」
> 「いる。ただし、“会えるのは一人だけ”」
「この世界で、たった一人。猫と人の間に揺れる者に、猫神様は現れる」
> 「そして──“契約”を結ぶ」
契約。
言葉の響きが重くのしかかる。
選び直しはできない。どちらかを選んだら、もう戻れない。
「猫神様に会うには……どうすればいいの?」
> 「“猫の夢”を見ろ。そこに案内がある」
「猫の姿で、猫の記憶をたどり、猫として迷子になれ。
その果てに、猫神様の“鈴の音”が聞こえたら、選択の時が来る」
つまり、夢の中で“猫の人生”を生きるということ。
もしそのまま帰ってこられなければ──目が覚めても、もう人間じゃないかもしれない。
「……やるしかないんだよね」
> 「ああ。選ばれた者の宿命だ」
その夜、私は部屋の明かりを消して、静かに目を閉じた。
心の中でひとつだけ願った。
“ほんとうの自分”に、会いに行こう──と。
耳元で、かすかに“鈴の音”が鳴った。