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後日談はオークションの後で。


『決着が付いたようですね。リアリティのある余興でした』

 完全な沈黙を貫いていた主催のアナウンスが、不意に会場に鳴り響いた。

 リアルもなにも、実際に骨の王が殺害されているのだから当然だろう。

『今回は特例として、敗者にはおしおきが必要でしょう』

 言い終わるや否や、機械生命体の体がギシギシと軋む。徐々に大きく乱雑な音を立てコンパクトになっていく。

「な、そこまでしなくても……!」

 俺の小言など、上位世界には届いてさえいないようだった。

 亀裂の入った少女の表情に、見慣れない焦りが浮かんでいる。当然だろう、体がわけもなく壊され、縮小していくのだから。

「た、す……」

 声を発しようとする頃には、故障し投棄された鉄塊へと成り果てていた。

 原型も分からぬほどになったソレは、等速で小さくなっていき、やがて消えた。

 俺はその空間から目を離せないまま、誰かが堪えきれず吐瀉する音を聞いていた。

 彼女が使用していたポータルの明かりも消滅した。それは彼女の異世界が終焉を迎えたのだと、暗に意味するようだった。

 目には目を歯には歯を。いや、あれの本来の意味はやられた分だけの報復はしていいが、それ以上の過剰な報復はしてはいけない、という意味だったか。

 上位世界にとって一つの異世界の消滅など、些末なことなのだろう。

『それでは予定どおりオークションの続きを。7番、魔族の者は壇上へ』

ベリアルは苦い表情をする。先ほどの顛末を見せられては、同情せざるを得ない。

「おいおい、この空気で演説しろっていうのか……。仕方ないな」

 文句を交えつつ、絶対的なアナウンスの言葉に逆らう術はない。ベリアルは壇上に登ってマイクを手にした。

 事件などというものが起きながらも、代表達のプレゼンは滞りなく再開させられた。

 中には衝撃が未だ澱のように心に溜まり、発言がたじたじの者もいたが、不運だったとしか言えない。それに、代表は如何なる時も冷静でいなくては務まらないという経験になったのではないだろうか。

『査定の結果は後日。なお、十番の代表は残るように』

 ついに、ここまできた。

 俺は波乱の第二人生を顧みる。

 転生先の名はリオール・ディ・シュワルス。王族の第二後継者として生まれ、本当の意味で何でも受け入れ生きてきた。我が王国は第一王子以外に継承価値はなく、男は騎士団に、女は他国への政略結婚として、政治的価値を惜しまない家柄だったからだ。

 北方の蛮族との戦いを任命されれば、騎士団長として命懸けで遠征に出向いた。疫病が蔓延した村を焼き払えと言われれば、心を無にして命乞いをする女子供を皆殺しにした。

 だが、当然ながら言われるまま過ごしたわけではない。

 元の世界に帰るためには情報が必要だ。それには権力がいる。圧倒的な権力が。

 人脈を作り、中立の者共の心を掌握し、果てには忠臣に暗殺を命じた。

 俺はいつしか第一後継者となっていた。

 そして、あまりにも大きな転機が訪れたのが、この異世界オークションだった。

 ……巡り合わせだと思った。

 元の世界へ帰るべく、王族という立場を利用し、異世界の文献も口承文学もありとあらゆる伝を頼って探したが、地球に帰る術は欠片も見つけることは叶わなかった。

 失意のどん底にいたとき、そしてこの話を聞いたとき、俺の心中にどれだけの希望が湧いたか想像が付くだろうか。

 ……チキュウ。それは俺が確かに存在していた地球なのだろうか。

 そうであって欲しい。

 AIが発達し、加速度的に文明が進んでいっった時代、そこから、何年、何十年経ったのだろう。人類はどう進化したのだろう。

 なぜ俺は殺されなければならなかったのか。ただ真相が知りたい。その一心で艱難辛苦を乗り越えて、ようやく足掛かりを得たのだ。逃がすものか。たとえ帰る場所がなくなっていたとしても、しがみついてやる。上位世界のチキュウという存在に。



 シュワルス城の一角にある書斎。書見台の隣にあるインク壺に何度も先を浸しては、慎重にはねペンを動かす。諸侯への手紙を書いている最中だった。

 俺のいる世界に消しゴムや修正テープなどは当然存在せず、書き間違いは簡単に直せない。ナイフで削るという非常に煩瑣な手続きが必要となる。

 だから集中力が大切なのだが、こういうときに限りなぜか、煩わしいのが入り口の扉を開けてやってくる。

「ねぇねぇ、リオール王太子。オークションはどうだったんですかぁ? 聞かせてくださいよー」

 使用人として雇っているニュクスだ。今日も執事やメイド長の目を盗んでまで、俺の下へ馳せ参じたようである。

「分かった、分かったから腕に巻き付くのはやめろ。見られたら面倒だぞ。話すから」

 斯く斯く云々。

 つぶさに事件の顛末を伝えた。

「へぇ、……もう少しで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、勿体なかったですねー」

 話を聞いたニュクスは率直すぎる感想を言った。

「……」

 やはり、見抜かれたか。

 正直な話をすれば、例の機械生命体の推理に対して、俺は博打を打っていた。『キャットドアが防音だから、音は聞こえなかった』という件だ。

 確かに防音だったことは確かかもしれない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 片手でドアを開いた状態で、ボールを押し込むとすると、犯人はその行く末、つまりきちんと壁に当たって上手く割れたかどうかを見届けないはずがないのだ。

 勝機を見いだしたのは、少女の推理中。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()つまり彼女の頭の中のトリックでは、室内側にキャットドアが開いていたか、糸が切れたときに手で支えていなかったか、どちらかのパターンで考えていると確信した。

 だから俺は押し切れると判断し、実際に機械生命体はそのことに執着せず、最終的に敗北を認めた。虚構の推理だからこそ、強気な反論でねじ伏せることが可能となったわけだ。

「危なっかしいことをするんですね。第一王子としての自覚はあるんですかぁ?」

 なれなれしいことこの上ない使用人の彼女は、普通なら即刻解雇の憂き目にあっているだろう。

 端的に話すと、彼女も転生した人間の一人である。諸々の複雑怪奇な経緯があって、今はシュワルス城の使用人として働かせていた。

「勝ちは勝ちだ。上位世界に気に入られ帰ってきたのだから、どこに文句がある」

「別にないですけどー。そんな楽しいゲームになるんだったら、私も参加したかったなーって」

 口をやや尖らせ、頭のいかれたことを平気で言うが、彼女は本心から言っているのだと長年の付き合いで分かる。それに、見かけによらずこの使用人は賢い。俺の博打を一度話しただけで見破ったのが、何よりの証拠だろう。

「次のオークションには侍従を連れて行っていいか聞いてやるよ。まぁ、殺人事件など起きるはずないがな」

「あっ、それってフラグっていうんですよ! ふふ、楽しみにしておきます」

 ニュクスは後ろ手で組んで微笑む。都合よく事件など起きるわけないのに、本当に期待しているようだ。

「王族連中にも、お前を同行させる納得のいく理由を考えなきゃならんな。全く、仕事が増えるばかりだ」

 やれやれと俺は頭を掻いた。

 オークションの後、残った俺にアナウンスが告げたのは、さらなる次のオークションの参加権という苦笑せざるを得ない内容だった。プレゼン出来る内容はほぼ変わらないだろう。

 ただただ上位世界の余興に付き合わされているだけのように思えるが、次は参加しないという選択肢はそれこそ俺の胸中に存在しなかった。地球に帰還出来る糸口を見出したのだ。醜く足掻いてでも、手を伸ばし続けてやるさ。俺が殺された真相の解明、もとい、なぜ元の世界で俺とニュクスが殺されなければならなかったのかを知るために。


       了


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