深夜ラーメンと、バイバイの先にある謎
金曜の夜――
踊り狂った俺たちは、ディスコを出て、夜風に当たっていた。
「はー、踊った踊った!これぞ金曜日って感じ!」
「俺……人生で一番汗かきました……」
「だよねー!今なら3kgは減ってる!」
「多分、胃に入ったビールとポテトで帳消しですけどね……」
そして彼女は、ふいに立ち止まった。
「……あー、もうこの時間か。
じゃ、シメいこっか」
「シメ……?まさか――」
「ラーメン!!」
彼女が指差した先には、
商店街の外れにある、ひっそりとした屋台のラーメン屋。
赤ちょうちんがふらふら揺れて、
“夜だけの居場所”って感じがして――正直、めちゃくちゃうまそうだった。
「え、あそこ……やってたんですね……?」
「うん、たまに来る。てか、今日あの人いるかな……」
屋台ののれんをくぐると、
「おっ、梓ちゃんじゃねぇか。久しぶり!」
「やっぱ煮干兄ちゃんだ〜!やってたんだ!ラッキー!」
「へへ、今日は“煮干し爆弾”仕込んでるから覚悟しな!」
「おーっ、出た爆弾!風間くん、これマジで感動するよ」
「えっ、兄ちゃん……?爆弾……?」
情報過多。
そして明らかに“常連”すぎる彼女。
俺は思った。
(この人、どこにでも知り合いがいるんだけど!?)
――それでも、ラーメンは最高だった。
煮干しの香りが濃くて、でも雑味がなくて。
スープひと口で、胃袋が膝をついた。
「……うま……これ、敵だ……」
「でしょ?」
「これ以上の金曜、存在しないかもしれない……」
「はっはっは、まだ帰ってないよ〜?」
そして――時計を見れば、0:45。
「あ、終電……」
「ないね〜、もう。帰ろっか」
「じゃ、送ります。歩きですけど」
「えっ、いいよ。私、全然歩くの平気だし」
「でも、さすがに……彼氏なんで」
彼女がちょっと黙ってから、笑った。
「……変なとこ真面目だよね。
じゃ、ありがたく護衛されますか」
ラーメン屋の親父に手を振って、
2人で歩き出す。
夜風が気持ちいい。
でも、足取りはゆっくり。
しばらくして、彼女が立ち止まる。
「――ここだよ」
見上げたその建物は、
黒ガラスに包まれた高層マンション。
エントランスの奥には、警備員。
そして、住民専用のエレベーター。
「え……ここ、ですか?」
「うん」
「ここって……あの、有名な、なんかタワーってついてる……」
「うん、“億”ってやつね。多分今、そこに住んでる人の9割、名刺見せられても職業わかんないと思う」
「えっ、えっ、えっ……」
彼女は、何も言わずに笑った。
「じゃ、今日はありがと。風間くんも、無事に帰ってね」
手を振って、エントランスの中へ。
自動ドアが、静かに閉まる。
風間くんは――しばらく動けなかった。
「……いや、え……ちょ……
なに……この人……」
その夜、
恋はまた、少しだけ混乱した。