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僕の彼女はやばい  作者: 脇汗ベリッシマ
2/23

お試し交際、始まりました(地獄の始まりとは知らずに)

「……マジでしつこいよね、風間くんって」


 


 再会してから、何度連絡先を聞いたかもう覚えてない。


 駅前でナンパから助けたあの日から、俺はずっと彼女を追ってた。

 SNSもやってない。住所も聞けない。職場も教えてくれない。

 唯一わかったのは――彼女が、有名商社に勤めているってこと。


 


 スーツを着てるのに、あの人だけは自由だった。

 駅前で笑う顔が、俺の記憶の中の“先生”よりも、ずっと綺麗になっていた。


 


「一回くらい、ご飯くらい……どうですか?」


「断るって言ってんのに、毎日誘ってくるとか、もはやストーカーでしょ」


「真剣に恋してる人間のこと、ストーカーとは呼びません」


「……その言い分、なんかむかつくんだけど」


 


 苦笑いしながらも、彼女はどこか楽しそうだった。

 ――と思いたかっただけかもしれない。


 


 そして、十回目の誘いのあとだった。

 桜が少しだけ咲き始めた、そんな夜。


 


「じゃあさ、風間くん」


 ベンチに座って缶チューハイをあけるその姿は、やっぱり“大人”だった。


「3ヶ月。“お試し”で付き合ってみる?」


 


 言葉の意味が、一瞬、理解できなかった。


「……お試し?」


「うん。なんか、勢いだけで告白してきてる気がして」


「勢いじゃないです。これは……長年の片思いのガチです」


「はいはい。でもさ、私のことちゃんと知って、それでも平気だって思える自信ある?」


 


 風が吹いて、桜の花びらが舞った。

 彼女の横顔は、相変わらず綺麗だった。


 


「いい? 風間くん。

 ついてこれなかったり、嫌になったら、すぐにお別れしようね?

 私は、“無理して続ける恋”とか、面倒だからさ」


 


「……嫌になんて、なりませんよ」


 


 その時は、本気でそう思ってた。

 いや、違う。わかってたはずだ。

 “彼女は本当に、それで終わらせる人だ”ってことを――


 でも、その時の俺はただ、


 


「……よろしくお願いします。七瀬さん」


「……ふふ。はいはい。

 じゃあ、さっそく――今からカラオケ行こっか!」


 


「……は?」


 


「明日お互い休みでしょ?せっかくだから、思い出作りたいじゃん!」


 


 その夜。

 社会人一年目、元不良の俺・風間樹は、

 “お試し交際初日で、カラオケ10時間ヘドバン地獄”にぶち込まれることになる。


 もちろん、まだ知らなかった。


 


 これが、“やばい彼女”との本当の始まりだってことを――


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