部屋でいちご狩りすな
金曜の夜、仕事終わり。
俺はまた、梓さんの部屋に呼び出された。
「風間くん、来たー?……見て!」
部屋に入った瞬間、俺は目を疑った。
いちご。
いちご。
いちごの箱が4箱分。
そして、天井からぶら下がった紐と、洗濯バサミ。
吊るされてるのは……本物のいちご。
「さぁ!いちご狩りしよー!」
「……ここ、屋内ですけど」
「いいのいいの!人混みとか並ぶの嫌だし。
家の中でやった方がぜったい楽しいって思ってた!」
「……あの、これ、もしかして全部1人で吊るしたんですか?」
「うん。ギプスついてるからちょっと大変だったけど、やりきった!」
(“ちょっと”のレベル超えてるんですけど)
「じゃあ、風間くんはこれ!“いちご農園スタッフ”役!」
「俺、何屋さんに雇われたんですか……」
吊るされた真っ赤ないちごを、俺はおそるおそる“もいで”口に入れる。
「……あま……」
「でしょ?スーパーの中で一番高いの選んだ!」
「この甘さ、俺の労働に見合ってない気がします」
そのあとも、ふたりでひたすらいちごを“狩って”は食べる。
床にレジャーシート敷いて、梓さんはテンションMAX。
ギプスなのに、なぜか片足ジャンプで動いてる。
「……風間くん、楽しい?」
「正直、何してるのかよく分かんないですけど、
まぁ、楽しいです」
「ふふ、よかったー」
いちご狩りが終わったあと、梓さんがふと手を叩いた。
「よし!じゃあ、次は――」
「次?」
「いちごケーキ作ろっか!」
「まさかの2段構え……!」
「ほら、ショートケーキってさ、スポンジの間にいちご挟むじゃん?」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ、さっきのいちご、“中の人”になるってことだよ!」
「いちごに人格与えるのやめてもらえますか」
そのまま、俺はホイップを泡立てさせられ、
梓さんはギプスの足でぐらぐらしながら、いちごを切っていた。
「だいたいね、恋人とケーキ作るって一回やってみたかったんだよね」
「もう、それ言われると断れないんでやめてください」
しばらくして、完成した“部屋で採れたていちごケーキ”は、
ちょっと不格好だけど――
ふたりで笑いながら食べるには、ちょうどいい味だった。
「風間くん、スポンジは微妙だけど、生クリームの立て具合は天才だと思う」
「俺、プロ目指していいですかね……?」
――金曜の夜。
疲れも、日常も、全部いちごでごまかされた夜。
でも、彼女が笑ってるなら、なんでも“アリ”だと思えるんだよな。