表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の彼女はやばい  作者: 脇汗ベリッシマ
17/23

悪魔のドミノ倒し

金曜の夜、

彼女の部屋に呼ばれて入った瞬間、悪寒がした。


床一面に広がる――ドミノ。

しかも、ガチ勢が使うやつ。

2000ピース。説明書には「推奨制作時間:4時間以上」。


「……これ、まさか今から?」


「そうだよ!風間くん!今日のテーマは“忍耐と愛”!」


「いや待って、ドミノで語られる愛、聞いたことねぇ……」


 


さらに追い打ちの一言。


「ちなみに、これ全部並べ終わったら……ご褒美、あるよ?」


「ご褒美……?」


梓さんが、にやりと笑う。


「もしかしたら、初キス、しちゃうかもね?」


 


おいおいおいおい。

爆弾の扱いが軽すぎる。


 


「……そ、それって……本当に……?」


「どうかな〜?“かも”って言っただけ〜?」


「その“かも”のせいで俺の心臓が毎秒140超えてるんですけど!?」


 


そうして始まった、悪魔のドミノ地獄。


 


・松葉杖の梓さん、ギプス姿で器用に並べる

・俺、汗だくで0.1ミリのズレと格闘

・2時間経過、沈黙と集中が続く中――


「風間くん、そこ0.2ミリずれてる。やり直し」


「俺の集中力のドミノが一気に崩れました」


 


だが、悲劇は突然やってきた。


 


「くしゅんっ」


→ ザザザザザザザザザザァァァァ……


 


……音もなく、全てが崩れた。


 


「い、今……俺……」


「うん。風間くんのせいだね。

 でも大丈夫!4000個、買ってあるから!」


「なんで増えてんだよ!!!」


 


こうして、“悪魔のドミノ倒し”は、まだまだ終わらなかった。


(この先に、“かもしれないキス”が待っているなら――

 俺は、戦う。何度でも……!)






そしてついにドミノを並べ終わった時、

部屋の空気は、いつになく張り詰めていた。


俺と梓さんは、向かい合って座っていた。

ギプスの足を庇いながら、梓さんがそっと言う。


「……じゃあ、いこっか」


「……はい」


 


ふたりで手を伸ばして、最初の1ピースに触れる。


 


カタン。


静かに始まった連鎖。

まっすぐ流れて、曲がって、ループして。

LEDライトの光が反射して、ハート型の中央でピタリと止まった。


 


完成だった。


 


「……すごい……ほんとにできた……」


「……地獄の集中作業でしたけど、なんか……達成感ありますね」


「風間くん、マジでありがとう。

 足ケガしてなかったら、絶対途中で寝てたわ、わたし」


 


梓さんが、ほんの少し、俺に顔を寄せてくる。


距離が、近い。


その目がまっすぐすぎて、俺は息が止まりそうだった。


 


「ねぇ……風間くん」


「……はい」


「……さっきのご褒美の話だけど――」


 


(うわうわうわ……来る!?これ……ほんとに……!?)


 


「うーん、やっぱ“キスかも”は“かも”のままでいいかも……」


「……えっ」


「だって、ほら、こういうのってタイミングとか空気とかあるじゃん?」


「あ、はい……」


「風間くんの方からさ……“したい”って言ってくれたら、そっちの方が嬉しいかも」


「な……」


 


言葉が詰まった。


あかん、そういう爆弾、笑顔で置いてくのやめてくれマジで。


 


その時だった。


 


「……わっ!?」


梓さんが、バランスを崩した。

松葉杖がずれて、ぐらっと体勢が傾く。


反射的に俺が前に出た。


「危ないですって、梓さ――」


 


――ガンッ!!


 


「……んんっ!?」


 


顔面、クラッシュ。


そして、唇同士、ドッキング。


 


一瞬、時が止まった。


 


あった。

確かに、あった。

それはもう“触れた”とかいうレベルじゃなくて――


ちゃんと、キスしてた。


 


「……えっ……」


「ええええええええええええ!?!?」


 


叫んだのは梓さんだった。


顔、真っ赤。

耳まで赤い。

動揺MAXで、足バタつかせてバランス崩してる(やめて!ギプス!!)


「ちょ、ちょっと風間くん!?今のなに!?狙った!?事故!?どっち!?ねぇ!!」


「俺!?いやっ違……その、俺は支えようとして……結果的にっていうか……!」


「ちょ、え、初めてが……」


「すみません!……まじですみません!!!」


 



数分後、全身から湯気を出しながら落ち着きを取り戻した梓さんが、ぽつりと言った。


「……じゃあ……これもう、キス、済んじゃったってことになるのか……」


「はい、ええと、たぶん……」


「事故ってことにして……あんたの責任な」


「え、俺、ずっと謝罪する系ですか……?」


「……うん。でも」


梓さんが、顔をそむけながら小声で言った。


「事故じゃなかったら、もっとちゃんと受け止めてたよ」


 


……心臓が爆発するかと思った。


 



その夜、俺たちはドミノの横に寝転びながら、

スマホでラーメンのデリバリーを頼んだ。


 


「……あー……これ、“初キス記念”ってことになるのかな」


「言い方、やめてもらっていいですか。照れるんで」


「風間くん、チューされて照れるとか、かわいすぎかよ」


「やめてほんともう!そういう時だけ距離詰めないでください!!」


 


――恋も、ドミノも、事故から始まることがある。

でもその事故は、きっと運命だ。


 


ラーメン片手に、俺たちは初めてのキスを――

“事故ってことにして”、記憶に残した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ