松葉剣・風斬り一閃
その日、俺はとんでもない“過去”と再会した。
街角のカフェの前、すれ違った男が俺を振り返り、ニヤッと笑った。
「……あん時の風間じゃねぇか?」
その顔を見た瞬間、脳内に当時の記憶がフラッシュバックする。
高校時代。喧嘩上等。暴れ放題だった頃。
俺が――ぶちのめした相手だった。
「やっと会えたわ。ケジメ、つけさせてもらうぜ」
抵抗できないほど一方的に、殴られる。
俺はもう、あの頃の俺じゃない。
戦う理由も、力も、置いてきた。
(やばい……意識飛びそう……)
そのとき――
カッ……カッ……(乾いた、重い音)
地面を蹴る松葉杖の音が、響いた。
「……風間くん、
彼女待たせてなにしてんのよ……」
声がした。
地面に倒れる俺の目の前に、ギプスの足、そして――右手に松葉杖を構えた梓さん。
「……お前、誰だ?」
「……あたし?風間くんの彼女だけど?」
そして、構えた。
まるで竹刀。まるで、剣道の“中段”。
「おいおい、松葉杖で喧嘩かよ、笑わせんな――」
ズバァッ!!!!!!!!
一閃。
風を切った松葉杖が、真横から相手の肩にクリーンヒット。
「――痛っっっ!?なに!?硬くない!?これ松葉杖!?」
「なめんなよ。医療用って結構重いし、
私は剣道五段だからな!!!!」」
もう一撃、上段から振り下ろす!
避ける相手!逃げる背中に――
「ていッッ!!!」
スネに直撃。転倒。
彼女は、ギプスの足で仁王立ちして、宣言する。
「うちの彼氏に手出すとか――
許可制だって、知らなかった?」
相手はガチで逃げていった。
*
その後、梓さんはゼーハー言いながらも松葉杖を支えに俺の前にしゃがみこんで、
「風間くん、メンタル折れてない?骨は?頭ぶつけた?」
「……全部無事です。ていうか、あなたに惚れ直して、心臓がやばいです」
彼女は、ドヤ顔で言った。
「全治6週間?なにそれ。私の心はもう完治してるんで」
松葉杖――今やそれは、ただの医療器具ではない。
それは、彼氏を守る最強の武器だった。