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僕の彼女はやばい  作者: 脇汗ベリッシマ
14/23

彼女の城と、クレープパーティー

先週、スケート場で彼女が放った「フィギュア〜」という一言の直後、

 俺の世界は一度、静かに終わった。


 音を立てて転び、彼女は骨折。救急車。病院。ギプス。


 全治6週間。


 


 そして今日――


 


 俺は、人生で初めて、

 “億”がつく場所に足を踏み入れようとしていた。


 



 


「……え、これ……あの有名なタワマンですよね……?」


 


 玄関前に立つだけで、空気が違う。

 ドアの先に“異世界”があるような、そんな感覚。


 


 けれど、一歩も入れない。


 


「すみません、お名前とご用件を」


 


 フロントの警備員さんに止められた。

 当然だ。俺、一般庶民。


 


「あっ、風間です。梓さんに……呼ばれて……で、彼氏で……」


 


 自分で言って、ちょっと照れる。

 そもそも“彼氏です”って億ションで言うセリフじゃない。


 


「確認いたします。少々お待ちください」


 


(……なんだこの緊張感。これから就職面接か?)


 


 数秒後、警備員が微笑みもせずに一言。


 


「どうぞ、お入りください」


 


 扉が、静かに開いた。


 冷房の風すら、なんだか金の匂いがする。


 


(この時点で、すでに緊張で汗が出るんだけど……)


 



 


 そして、○○階。超高層。

 玄関のドアが開くと――


 


「やっほー!風間くん、いらっしゃーい!!」


 


 笑顔で手を振る彼女は、足をギプスで固定し、

 コロコロ付きの椅子にちょこんと座っていた。


 


「お、おじゃまします……」


「はい!まず荷物置いて、エプロンして!」


「えっ!?えっ!?何ごと!?!?」


「今日はクレープパーティーだから!ほら!焼くよ!」


「えっ!!?骨折してる人が仕切ってる!!??」


 


 部屋の中は――


 大理石の床、巨大な窓から見える東京の夜景、

 そして、ダイニングテーブルには業務用クレープミックス・フルーツ・チョコ・クリームの山。


 


「買いすぎでは!??」


「いやー、通販って便利よねー!冷凍いちごとか1kg届いたし!」


「いや1kgて!!どんな規模でやるつもりだったんですか!!」


 


 その後、

 俺は人生初、**“恋人の城で、2人だけの量産型クレープパーティー”**を経験した。


 


「風間くん、焼くの下手すぎ!丸くない!」


「ギプスで寝てて暇だった人に言われたくない!!」


「でもこのチョコバナナ風間スペシャル、うまい。合格!」


「やった!称号“クレープ騎士”ください!」


「え?じゃあ正式に付き合った記念、クレープ契約ってことで?」


「なんすかその儀式!?」


 


 夜景を背景に、笑い声が響く。


 


 あの日、スケート場で骨折した恋人は、

 今、自宅でクレープと笑顔を量産している。


 


 恋の形は人それぞれだけど――


 “甘くて、ときどきド派手で、でもちゃんと幸せ”


 俺たちは、きっと、いい関係を続けている。


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