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僕の彼女はやばい  作者: 脇汗ベリッシマ
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また、あなたに会いにきました

家庭は、最悪だった。

 酔った父親の怒鳴り声、泣いてばかりの母親。

 テレビの音より皿の割れる音の方がよく響く家だった。


 


 学校も好きじゃなかった。

 授業を真面目に受ける理由なんて、どこにもなかった。

 早く大人になって、家から出たかった。

 そう思って、何にでも噛みついて、俺はただの“不良”になった。


 


 そんな俺に、初めて真っ直ぐ接してきたのが――

 教育実習生だった、**七瀬 ななせ・あずさ**先生だった。


 


「風間くん、また購買でアンパン? 他にも買えってば」

「……金ないんで」

「……ほら、あげる。今日の昼、甘いのしか買ってないから半分でちょうどいい」


 


 うっとうしがられると思ってた。

 目を逸らされると思ってた。


 なのにあの人は、俺の目を見て話してくれた。

 ちゃんと、名前を呼んでくれた。


 


 その日から、俺の世界は変わった。


 


 どこか違う場所に住んでいる人みたいだった。

 同じ教室にいるのに、輝き方が違っていた。

 綺麗で、頭が良くて、自由で、優しくて、ちょっとぶっきらぼうで。


 俺には、なにも持ってなかったけど――

 彼女の後ろ姿だけは、追いかけたいと思った。


 


 実習が終わる前に、何度も連絡先を聞いた。

 全部、断られた。

 「教師と生徒でしょ」って、笑って流されて。

 でもそれでも、好きだった。


 


 最後の日、俺は言った。


 


「先生じゃなかったら、俺……絶対好きになってました」


 


 七瀬先生は、少し困った顔で笑って、こう言った。


 


「……じゃあ、大人になったらまた言いにきなよ」


 


 俺は、その言葉を冗談だとは思わなかった。


 



 


 奨学金を借りて、必死に勉強した。

 誰にも言わなかったけど、目指したのは――彼女が通っていた大学、都内の私立T大学。

 俺には場違いだって言われた。でも関係なかった。


 ただ、追いつきたかった。

 隣に立てるくらいの人間になりたかった。


 


 けど、大学で彼女を見つけることはできなかった。

 先生に聞いても、「もう卒業したよ」とだけ言われた。


 連絡先も知らない。

 フルネームしか知らない。

 それでも、心のどこかでずっと探してた。


 


 結局、俺は一度も会えないまま、大学を卒業した。


 


 だけど、あきらめたくなかった。

 だから俺は、就職しても東京に残った。

 同じ空の下にいるかもしれない、彼女を――まだ、探していたかった。


 


 そしてある日。

 駅前でナンパされている七瀬梓を、俺は見つけた。


 


 あの瞬間、胸がぶっ壊れるかと思った。

 息が詰まって、何も考えられなかった。

 でも――身体が勝手に動いてた。


 


 彼女の腕を引いて、間に割って入った。

 「彼女、困ってるんで」って、誰かみたいなセリフを吐いてた。


 


 目を丸くした彼女が、ゆっくり俺を見て――


 


「……風間くん?」


「はい。……また、あなたに会いにきました」


 


 ずっと、ずっとずっと、探してた。

 俺の名前は、風間 かざま・いつき

 世界で一番、七瀬梓という女性を追いかけてる男です。


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