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呼び出し 2

 放課後。ここは喫茶店。看板の通りなら、『花梨』という名前。目の前には2杯のお茶とあんみつ1つ。それから同じ制服を着た少女。


「ありがとうございます。わざわざお時間をいただいて」


 水月海珠(みずつきうみ)。私と同じく4月に花峰高校に籍を置いたばかりの学生、高校1年生だ。背中の中程まで綺麗に伸びた髪を背中に流し、目鼻立ちの整った、所謂美少女。

 顔をほころばせながらあんみつをほおばる彼女を前に、私は「早く帰りたい」という言葉を、冷たいほうじ茶と共に何とか飲み込んでいる。態度には出ているんだろうけど。

 

「天崎さんは本当にお茶だけでよろしかったのですか?」


 そんな私の様子などお構いなしに、あんみつの抹茶アイスを1口食べて水月さんが問うてくる。1口食べるごとに、本当に幸せそうな顔をする。


「あー、まあ、はい」


 そんなことよりも早く帰らせてくれ。それにこんなところでお金を使うわけにはいかない。

 他校がどうなのか知らないけど、うちの高校は基本アルバイトは禁止だ。長期休暇中は届けを出せば可能らしいが、まだ高校1年の6月。高校に入って長期休みはゴールデンウィークの2週間にも満たない期間だけしか高校生活で体験していない。しかも1週間後にはテストがある。先生たちの目が鋭くなっている。

 夏休みはバイトをするつもりだが、それまで学生の自分に収入はない。親が月の初めにお小遣いをくれるけど、月終わりに欲しい本をまとめ買いしたいから節約している。

 

 この間に本を読みたいなあと思うが、ちびちびお茶を飲んで我慢する。その代わりに、今月は何冊本が買えそうか、残りのお小遣いを思い出しながら、頭の中で計算する。

 


「さて、本題ですが」


 そうこうしているうちに、あんみつを平らげてお茶で一息ついていた水月さんが、目を合わせてくる。


「何の話か、わかっているとは思います」


 実は、彼女があんみつを食べている時、心の奥でちょっとした引っ掛かりを覚えていた。それは最初、昼休みに澄香に引きずられるように彼女の前に行った時と似ている感覚だ。


(やっぱり、どこかで見た気がする)


 自慢できることではないが、私は興味ないことはとことん覚える気がない。というか、覚えられない。私の中では、大きく分けて興味関心を持っているから呼吸をするかの如く自然と覚えてしまうこと、興味はないけど覚えなければならないから覚えること、必要そうではないから覚えないこと、興味を持てなくて必要性が見いだされないことから努力しても覚えられないことと、大きく4つに分けられる。ただ、そんなことを知らない他の人から見たら、私は変なことは知っているくせに、誰でも知っているようなことを知らない変な人、という認識を持たれる。他人にどう思われようが、どうでもいいから気にしていないけど。

 この中で、学業は興味はないけど覚えなければいけないから覚えることに当たる。そして人に関しては、努力しても覚えられないことに当たる。つまり、私はヒトの顔はおろか、名前も性別も、その人個人のことは全く覚えられない。相手から脅されたり、何度もしつこく来られない限り。実は担任の顔も未だ覚えていない。

 その私が、何故彼女を見たような気がしているのだろう。いや、確実に見たことがあると、確信しているのだろう。

 どこで、という疑問は、彼女が発した次の問いで解消された。


「ですが、あえて問います。あの時、何を見ましたか?」


(ああ、あの時、ねえ)


 思い出した。あの時、先週の金曜日の、放課後だ。私は彼女を、水月さんを、放課後の夕日の差し込む教室で見た。

 あの時は見間違いだと思っていたけれど、本人がこうして確認してくるからには見間違いではないだろう。ただ、どう答えたものか。


「‥‥‥水月さんです」


「‥‥‥」


 悩んだ結果、正直に答えた。嘘を言ってもしょうがない。こんな人気のない喫茶店に来てまであの時のことを聞かれるのだから、彼女は私が見てしまったことは知っているんだろう。

 それでも、「そうじゃない」という圧を感じる。感じながらも、気づいていないふりをする。


「まあ、あの時は私もいましたね。それから?」


 このまま黙っていても埒が明かないと判断したのか、口を開いた彼女は、やはり先を促してくる。ごまかせると思っていたけれど、だめだった。

 正直に答えはしたけど、すべて答えたわけではない。当然彼女の望む回答になっていないことは承知していた。確かにあの時、放課後の教室には水月さん以外にもいた。


「まあ、そうですね。あなた以外にもいたかもしれないですね」


 どちらが折れるのが早いか。そんなの、読書時間を犠牲にした私が先に決まっている。こうしている間にも時間は進んでいるのだから。


「‥‥‥魚、です」


 絶対に面倒臭くなると分かっていたけど、大事な読書時間のため、諦めてすべて白状する。

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