死刑?、絶対反対ですよ。
「死刑? 絶対反対ですよ。ええ、たとえあなたが、私の妻と、私の娘と息子を殺した奴だとしてもね」
彼は、寝ている男にはなしかける。
「裁判のときはホントに困りましたよ。世論が本当に湧きましたからね。あなたの態度ふてぶてしいといったらありゃしない。反省どころか、まるでおもちゃを手に入れた子供みたいに嗤ってた。ああ、腸が煮えくりかえってましたよ。ホントに」
彼は眼鏡をとってふきあげる。
「なんとか弁護士に連絡をとって、なんとか刑を軽くしてほしいと言うのにどれだけ手間がかかったか。金もかかりましたよ。ホントに」
彼は刃物を手に取る。
「あなたが刑を受け、出所してから、しばらくしてもその本質に変化がないこともわかりました。はあ、興信所も使いましたし、金もかかった。それにあなたも私が調べていたのは知っていたでしょ。だから、同意したのですから。生きるために」
彼は薬を準備する。
「復讐は、自分の手で行う。いや、私の地位と職業だからこそできることですよ。後悔はしない。むしろ嬉しい。多くの人を助けられるから。ああ、貴方に感謝の手紙も見せてあげますよ。感謝されることがどれだけ素晴らしいかわかります。では、始めますか」
彼は血を抜く準備をする。
寝ている男は左手を動かそうとするが拘束されているため動かない。
「ダメですよ。そちらも動かさせないようにされたいですか? 安心してください。殺すなんてしません。私、死刑、絶対反対なので」
彼は男から血を抜く。
「あなたが、わたしを信頼してくれるとは思っていませんでしたよ。いや、覚えているはずなのに、まさか忘れていたとはね。まあ、いいてす。復讐出来るのですから」
血を抜き終わると、今度は注射器を準備した。
「安心してください。私は貴方を殺しませんから」
彼は男に注射をうち、それから刃物を手にとる。
「わたしは患者を助ける義務がある。あなたも人助け出来て嬉しいでしょう。あなたの血も、臓器も、有効活用しますよ。ああ、皮膚も。角膜は、ああ、片眼があればいいか。でも、妻と、子供達を殺したんだ。それくらいは許容してほしいよな」
そして彼は、臓器移植の処置をする。
男はすでに利き手と両足は、動かせないように処置をされていた。
「ああ、同じような境遇の人がいたら、協力してするのもいいかもしれない。何せ結構手間だったし、協力してくれた人たちにお礼もしたいし。儲かるしな」
彼の顔は正義感で満載だった。
蛇足。
色々な協力者がいます。
男は、彼より若く、健康体です。外見的には罪の意識はないようにみえます。
何とか懲役刑にしてもらい、仮釈放してもらいました。その時点で病気が見つかったとして彼の病院に移してもらってます。その時点で色々な書類に記入しています。
彼の中には恨み辛みがたっぷりあります。そして正義感もたっぷりあります。
彼は多少大きな病院の医師です。開業医か、もしくは経営者の協力をうけてます。
男は、臓器移植で助かった人の手紙や画像をみせられてます。




