第1話・リゼル
「リゼル、おはよう」
元気いっぱいの声で後ろから肩を叩かれ、
「クレイ、おはよう」
癖っ毛の黒い髪を後ろで束ねた、メガネが似合う小柄な少女、リゼルも笑顔でそう返していた。
学校へと続く道を2人並んで歩く。
だが、それも今日で終わりだった。
これから初等学校の卒業式なのだ。
そして卒業式が始まり、卒業証書をもらった生徒が1人ずつこれまでの感謝や将来の夢についてスピーチしていき、リゼルの番がきた。
「私は中等学校には進学せずトリトンにある国立図書館に就職します」
それを聞いて生徒や保護者の間からどよめきが起こった。
「なぜなら私は本が大好きで、その中でも特に魔導書が大好物だからです」
それを聞いて、今度は“どっ”と笑いが起こる。
「皆さんご承知の通り、私達にとって魔法はなくてはならない存在です。ですが今、魔法がどんどん使われなくなっています。文明の進歩で魔法に変わる技術が次々に生み出されているというのもありますが、その最大の理由は、魔法は厳しい修行を経ても誰もが平等に使えるものではなく、しかも発動させる為の詠唱に時間がかかるということです。
だから私は、魔導書の所蔵数世界一のトリトンの図書館で、かの大魔導士、赤き伝説の魔女と呼ばれたアメリア・ルーシェルが残した偉大な遺産を研究し、皆がもっと身近に、もっと簡単に魔法を使えるようになる世界にしたいと思っています」
そう言って“ぺこり”と頭を下げると、体育館内は割れんばかりの拍手に包まれていた。
その夜、クレイはリゼルの家に招かれ、同じベッドで一緒に寝ていた。
そして窓から見える3つの月明かりに照らされながら色んな話をした。
「リゼル、本当にいっちゃうんだね」
「うん」
「魔法の研究はリゼルの夢だった。・・・だから猛勉強して国家試験に合格したんだもんね」
「うん」
そう笑顔で返すリゼルに、クレイは思いをぶつけるように抱きついていた。
「私のこと忘れないで」
そう言って泣くクレイを、リゼルは受け止めるように抱きしめていた。
「うん。絶対に忘れない」
「手紙書くから」
「私も書く。いつか必ず、それを魔法で届けるから」
「待ってる」
そして次の日、リゼルは皆に見送られながら馬車乗り、生まれ故郷を後にした。
春が訪れ、リゼルはトリトンにいた。
トリトンはミラゼリア大陸最大の港湾都市で、彼女が働く国立図書館もここにあった。
普段は来館者への対応や本の整理や修復、更には色々な国の言葉で書かれた本の翻訳などに加え、寝る間を惜しんでの魔導書の研究は多忙を極めたが、それはリゼルにとって充実した日々だった。
そんな日曜のある日、トリトンの開港記念日で多くの観光客が訪れ、街は賑わいを見せていた。
吹奏楽隊が奏でる音楽や花火の音を遠くに聞きながら、リゼルは図書館にいた。
こんな日に図書館を訪れる物好きはさすがにおらず、お昼にしようとした彼女は、あまりの天気のよさにお弁当を外で食べることにした。
図書館の裏は公園になっていて、ちいさな礼拝堂もある。
公園で遊ぶ子供達がかくれんぼを始め、何人かが礼拝堂の中に入っていくのを見ながら、リゼルはベンチに座ってお弁当を食べ始めた。
“どっごおぉぉぉぉぉ~~~~~~~んっ”
その瞬間、何が起きたのかリゼルには分からなかった。
空から超高速で回転しながら落ちてきた、ヨーヨーみたいな形をした巨大ななにかが彼女のすぐ近くに激突し、その全身を巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃波に、リゼルはベンチごと吹き飛ばされていた。
「・・・・・・」
どれくらいの時間が過ぎただろうか?
意識を取り戻すと、彼女は芝の上に寝転がっていた。
まるで夢でも見ているかのように全ての景色がスローモーションで流れる中で起き上がると、頭や肩から何かが“パラパラ”と落ち、それでリゼルは自分が土まみれなことに気付いた。
それらを払いながら“ふらふら”と立ち上がった彼女の目に飛び込んできたのは、壊された礼拝堂だった。
「えっ!?なに、これ?」
あまりの出来事にリゼルはワケが分からなかった。
辺りを見渡すと、先程の巨大なヨーヨーみたいな物体が超高速で回転しながら次々に降りそそぎ、街中の建物に激突して全てを破壊していくのが見える。
半ば放心状態のリゼルは、その様子を呆然と見つめていた。
が、逃げ惑う人々の中に、さっきかくれんぼをしていた子供の1人を見つけた彼女は、“はっ”と我に返り礼拝堂を見た。
「さっきの子供達は?まさか、まだあの中に?」
リゼルは慌てて立ち上がった。
すると、視界の半分が赤く染まっていた。
頭のどこかを負傷したらしく、血が顔を流れ落ちていく。
が、何故か痛みは全く感じず、彼女は“ふらふら”と礼拝堂の中に入っていった。
礼拝堂は壁も天井も崩れ落ち、ステンドグラスも粉々に割れて、床が瓦礫に埋もれていた。
「どこにいるの?返事して」
そう呼び掛けながら瓦礫の上を歩き回ったが、返事もなく子供達は見つからない。
「もう逃げたのかな?」
それでも懸命に捜そうとする彼女は、瓦礫に足を取られてバランスを崩し、転びそうになった。
「わっ!?」
彼女は踏ん張ることが出来ず、目の前にあった巨大な神の像の台座にもたれ掛かるようにして身体を支えた。
すると、天井の崩壊に巻き込まれボロボロになっていた神の像は、台座ごと倒れてバラバラになっていた。
「ひぇ~~っ、ごめんなさい」
慌ててその場から立ち去ろうとした彼女の耳に、
『待って、私を助けて』
突然、助けを求める女の子の声が聞こえた。
「誰?どこにいるの?」
辺りを見渡すが、どこにも姿は見えない。
『あなたの足の下よ』
「足の下?」
リゼルが足元を見ると、さっきまで神の像が置かれていた場所に隠し扉があった。
隠し扉には魔法陣が描かれていたが、リゼルの血が落ちて、その一部が消えていた。
「隠し扉!?まさかこの中にいるの?」
『そうよ。中に閉じ込められてるの。早く助けて』
「分かった。すぐ助けるから」
リゼルは扉を上げた。
が、そこには誰もおらず、地下へと続く階段があるだけだった。
「いない!!どこにいるの?」
『階段の奥よ』
「階段の奥。そんなところに?」
『そう。身動きが取れないの。早く助けに来て』
「分かった。すぐ行くから待ってて」
リゼルが階段を下がり始めると松明に次々に火が灯っていく。
階段は長いうえに何回も左右に折れ曲がり方向感覚を奪う。
どれくらい歩いただろうか?
やっと見えた突き当たりには8畳ほどの部屋があった。
ただ、中は真っ暗で何も見えない。
「ここ、なの?」
彼女が恐る恐る足を踏み入れた瞬間、頬を伝う血が、顎から床へと落ちていた。
すると、床に紋様のようなものが浮かび上がり紫色の光を放ち始めた。
そして、彼女が手探りて歩みを進めるのに合わせて床に血が落ちる度に、紋様が輝きを増し、その形がハッキリと分かるようになっていく。
それは魔方陣だった。
そして、その中心になにかが置かれていた。
「どこ、どこにいるの?」
魔方陣の輝きに照らしだされる部屋の中を見渡すが、人の姿などどこにも見えない。
『ここよ、ここ』
その声に導かれるように魔方陣の真ん中まで行くと、そこに1冊の分厚い本が置かれていた。
しかもそれには、開けられないよう鎖が巻かれ鍵が掛けられていた。
「本?なんでこんなところに?」
リゼルがその本を手にとると、顎から垂れる血が鍵穴に落ちていた。
その瞬間、鍵が開き鎖が飛び散っていた。
「!?」
しかも本が勝手にパラパラと捲れ、真ん中のページがあらわれると、そこには見開きで魔方陣が描かれていた。
そして、そこに彼女の血が落ちた瞬間、魔方陣が真っ赤な輝きを放ち、リゼルは眩い光に飲み込まれながら意識を失っていた。
『あはははははっ。やったぁ。ついに身体を手にいれた~~~~~っ』
(んんっ。うるさいなぁ)
耳元に、いや、頭の中に直接響く笑い声にリゼルは目を覚ましていた。
「もう、誰?」
寝ぼけ眼で周りを見るが誰もいない。
すると、
『え!?ちょっと待って!?あなた、なんでここにいるの?』
そう困惑する声が聞こえていた。
「待って待って!?これってどういうこと?」
そしてそれは、リゼルも同じだった。
そう。彼女は理解していた。
もし仮にこれが幻聴でないのなら、自分の頭の中に誰かがいるのだと。
『千年振りに復活したのに、なにこれ?』
「えっ!?千年?」
『普通身体を乗っ取られたら、魂は私の意識に飲み込まれて消滅のが普通でしょ?それがこの魔法のわびさびと言うか正しい礼儀作法よね?・・・封印されてた年月が長すぎて魔力が落ちたのかな?』
「て言うか、あなた誰?なんで私の頭の中に・・・えっ!?」
リゼルが困惑するのも無理なかった。
どこからそんな物があらわれたのか?
彼女は自分が斧を握りしめていることに気付いた。
「な、なんで?」
しかも彼女の左手は、自分の意思とは関係なしに杖状の魔装具を握っていて、しかもそれはいかついハンマーへと姿を変えていた。
そして、それを自らの頭に振り下ろしていた。
「あぶないっ!!」
リゼルは咄嗟にハンマーの柄を右手で握り、それが頭を直撃するギリギリで止めていた。
「あっぶなぁ!!なにするのよっ」
そう。それはリゼルの頭の中にいる誰かの仕業だった。
『私ね、魔導書に封印されたの』
「は?」
『この千年、なんとか身体を取り戻そうと、ありとあらゆる手を使って張ったわ。でもどれもダメだった。そして気がついたら千年過ぎてたのよ。いい?千年よ・・・』
「はぁ」
『だからね、もうこれしかないの。一生のお願い。この魔装具であなたの頭を殴らせて・・・・』
「まさかそれを使って私を頭の中から追い出すつもり?そんなのダメに決まってるでしょ?あなたバカなんじゃないの?」
『あ~~~っ、バカって言った。知らないの?バカって言った人がバカなんだからね』
「バカにバカって言って何が悪いのよっ」
“ミシっ”
その時、何かが軋む音がしたかと思うと、次の瞬間には天井が崩落していた。
「くっ、こんなバカなことが・・・」
全身を鎧に包み剣を構えた男が、悔しさを滲ませながらそう呟いていた。
男を含む数名の騎士達が、1人の少女を守るように囲み、大勢の人が避難する図書館のエントランスに陣取っていた。
そして、入り口の扉の内側まで迫る骸骨兵士達と対峙していた。
一瞬の油断も躊躇も許されない、空気が痛いぐらい“ピン”と張り詰める。
その刹那、それは起きた。
“ばふっ”
鈍い破裂音と共に、騎士達が守る少女の、足首まであるスカートが舞い上がっていた。
「!?」
その瞬間、周りにいた全員が、そう、対峙する骸骨兵士達までもが少女を凝視していた。
「ち、違います。私、そんなはしたないことしません」
それに気付いた少女が顔を耳まで真っ赤に染めながら、自分の無実を証明すべく慌ててスカートをたくしあげる。
すると、彼女の足下のレンガが幾つか抜け落ち、そこから土まみれの顔が飛び出ていた。
「『あ~~~、死ぬかと思った」』
それはリゼルだった。
「えっ!?」
そんな彼女を驚きの表情で見おろす少女の声に導かれるように、
「なに!?」
リゼルも上を見た。
結果、リゼルの視線の先には少女のすらりと伸びる脚の付け根の、刺繍が施されたシルクの布地があった。
そして、たくしあげられたスカートの上の、豪華なドレスに包まれた発達途中の胸の膨らみの向こうからこちらを覗く少女と目が合った。
「「えっ!?」」
見つめ合ったまま実際には数秒、けれど2人には永遠とも思える時間が流れ、
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
少女が叫び声をあげたのを合図に、骸骨兵士達が一斉に襲い掛かってきた。
「アンジェ、姫様と逃げろ」
騎士隊のリーダーらしき男がそう言うと、
「はい」
アンジェと呼ばれた女性兵士が少女の手を引いて後ろに退く。
「後の者は私に続け。騎士隊の誇りにかけて奴らを討つぞ」
「おぉ~~~~~~~~~~~~~~~っ」
騎士達も自分たちを鼓舞するかのように雄叫びを上げながら骸骨兵士目掛けて駆け出した。
その時だった。
骸骨兵士達の心臓にあるコアに次々に矢が刺さっていた。
しかもその穂先は、黄金の輝きを放っていて、その光によってコアが内側から破壊されると、骸骨兵士達はその場に崩れ落ちバラバラになっていた。
「ジーク隊長、姫は無事ですか?」
声が聞こえた方を見ると、図書館の入り口の向こうに弓を構えた兵士達が見えた。
そして、骸骨兵士達が消えたことで、その影に隠れていた1人の男の姿があらわになっていた。
「!?」
フード付きの黒いマントで全身を覆い隠すその姿に、皆の間に再び緊張が走る。
それは、その人物がかなり上位の魔導士であることを示していた。
「お初にお目にかかります姫様。私はバルバドス。以後お見知りおきを」
「魔導士か?動くな、動けば射つ」
背後から弓で狙いを定める兵士達が魔導士を威嚇する。
その瞬間、彼らの足下に魔法陣があらわれ、兵士達はそのまま中に沈むように引きずり込まれ始めた。
「!?」
「チャーリー、エドモンド、ジル、逃げろっ」
ジークが叫ぶが兵士たちはどうすることも出来ず、その身体が赤く輝きながら回転する魔方陣の中にみるみるうちに沈んでいく。
「貴女がいけないのですよ姫様。こんなところに逃げ込まれたらアラストールも使えない。彼らではこの建物ごと貴女を潰してしまいますからね」
そして弓の使い手達の姿は魔法陣の中に消え、そこから再び姿をあらわした時、彼らは魔界の弓矢を持つ骸骨兵士になっていた。
「チャーリ~~~~~~っ」
ジークが怒りと絶望に絶叫する中、
「姫様、何故私が貴女の周りの騎士達を我が下僕にしなかったか分かりますか?」
魔導士は冷徹な笑みを浮かべながらそう語り掛けた。
「貴女にチャンスを与えるためです。貴女が逃げれば逃げるほど、大切な部下の皆さんが、いや、ここに避難している無関係の人達も、皆骸骨になっていきますよ」
そして、新たに姿をあらわした骸骨兵士達が弓矢を構え、騎士達は盾を構えて少女を囲んだ。
彼女を逃がすと狙い撃ちされる恐れがあったのと、仮に逃がしたら避難している人たちに流れ矢が当たる恐れがあったからだ。
「ど、どうしよう?」
そしてリゼルは、あまりに突然の、そして信じられないほど残酷な光景に、今顔を出したばかりの穴に引っ込み、ただ怯えていた。
『どうしようって、防御魔法で防げばいいでしょ?』
それに対して頭の中の誰かは冷静だった。
「防御魔法?」
そう口ごもるリゼルの態度に、
『あなたまさか、魔法が使えないの?』
頭の中の誰かが驚きの声をあげる。
「だって、私の仕事は本の整理と修復と翻訳で・・・私、速読ができるから一応だいたいの魔法呪文は読んでるけど・・・」
そう話す間にも、骸骨兵士達が放つ魔界の矢があっけなく盾を貫き、騎士達の命を次々に奪っていく。
『しょうがないわね。今回だけ特別に私が助けてあげる』
「えっ!?ホント?」
『もちろんよ。こう見えても私、大魔法使いなんだから』
「こう見えてもって、どこにも見えないけど」
『と、とにかく任せなさい』
「うん、お願い。早くなんとかして」
『いくわよ。ほら、手を前に突き出して』
「えっ!?」
『いいから、敵に向かって手を突き出して』
「こ、こお?」
リゼルは言われるままに、穴から上半身を乗り出すと、矢を放つ骸骨兵士達に向かって左手を突き出した。
『よし、いくわよ~。・・・えぇっと・・・なんだっけ?』
「えぇっ!?まさか忘れたの?」
矢が“びゅんびゅん”飛んでくる中、リゼルは再び穴に潜り込んでいた。
『しょうがないでしょ?呪文は無限にあるんだから。全部暗記するなんてできる訳ないじゃない。だから紙に書いてもらって本にしてもらったんだから』
「そんなこと言ってる場合?」
リゼルはもう泣いていた。
『泣かない泣かない。そうね、魔界の矢を弾く防御系魔法の書かれた魔導書があればいいんだけど・・・』
「Aの棚の上から10段目、横8列目」
『えっ!?』
「だから、Aの棚の・・・」
そう言うリゼルが頭の中に、ここから目的の魔導書の所まで歩いて行き、本を手に取るイメージ映像を思い浮かべると、
『そこかぁ』
頭の中の誰かがそう叫んだ瞬間、リゼルの右手が勝手に動き、目的の本がある棚に向かって穴から突き出すように伸ばされていた。
『来いっ』
すると、目的の魔導書が青い光に包まれて本棚から勝手に抜け出し、青い光の尾を引きながら飛んできてリゼルの手に収まっていた。
「えぇぇっ!?」
そして、閉じたまま持つ本が青く輝き始めた。
『第3章、12番の呪文を見せてあげる。速読で詠唱できる?』
そう言われた瞬間、リゼルの頭の中その呪文が浮かび上がった。
「うん。でもどうするの?」
『時間がない。後半を速読で読んで。前半は私が読むから』
「後半?どこからが後半なの?」
『じゃあ前半を読んで。私が後半を読むから・・・』
「待って、1つの呪文を別々の人間が半分ずつ詠唱して魔法を発動できるの?」
『別々?なに言ってるの?今の私達は一心同体よ』
「えっ!?えぇっ!?そ、そうなの???」
『驚くのは後、死にたくなかったら急いで』
「う、うん」
リゼルは両手で魔導書を〝ぎゅっ"と抱きしめた。
そして2人は同時に、物凄い速さで呪文を詠唱し始めた。
「闇を照らす光の精霊たちよ、その力を集いて我が願いに応えよ。その力を光りに変えて・・・」
『魔を滅す力、それすなわち我が言葉が盾、我が血と肉と叡智が盾、その全てを持って魔を滅せよ・・・』
「『シャイニング・ウォール』」
その瞬間、光が焔のように吹き上がり、図書館にいる全ての人々と本棚を覆う壁となっていた。
そしてそれに触れた瞬間、骸骨兵士達は浄化されていた。
「くっ」
それを見たバルバドスは慌ててジーク達を骸骨兵にすべく呪文を唱えた。
が、呪文は防御魔法によって防がれ無効化されていた。
「これはシャイニング・ウォール。防御魔法と浄化魔法を組み合わせた高等魔法。そんなモノを使える魔導士がいるのか?
・・ならば、力押しだ」
バルバドスが手に持った杖を掲げると、その先端に埋め込まれた宝石が血のような赤色の輝きを放った。
『まさか、あれって魔眼石!?』
「えっ!?魔眼石。魔眼石って、あの魔導書に載ってた?」
「こい、アラストールども」
バルバドスがそう叫ぶや否や魔眼石が光り、さっきの巨大なヨーヨーみたいな物体が、天井や壁を突き破って図書館内に突入してきた。
図書館は、シャイニング・ウォールで守られた空間は無事だったが、それ以外はアラストールの体当たりによって壁や天井だけでなく大理石の柱も折られ、次々に瓦解していった。
「『あ~~~っ、私の図書館が~~~~~~~~~~~~っ』」
その様子を見て茫然自失の2人をよそに、バルバドスは満面の笑みを浮かべていた。
「姫様、貴女がいけないのですよ?貴女がおとなしく捕まってくれてさえすれば、ここにいる人達は死なずにすんだのですから。さあ姫、皆の命が惜しければこちらに来なさい」
アラストールと呼ばれたヨーヨーみたいなものが超高速で回転しながらシャイニング・ウォールに次々に体当たりし、神々しい光の火花が飛び散る。
「・・・・・・」
あまりの出来事にリゼルは呆然としていた。
そんな彼女の近くにジークが膝を着き頭を下げて話し掛けた。
「名のある魔導士殿とお見受けする。お願いです、我々が盾になりますゆえ、姫を、ヒルダ様を連れて逃げてもらえないでしょうか?」
その思いがけない言葉に、ヒルダと呼ばれた少女は驚きの表情を見せた。
「何を言うのですかジーク!?皆を置いて私だけ逃げるなど、そのようなことできるハズがありません」
「ですが姫様。相手は悪魔を殺す地獄の処刑人、アラストールを召還できる程の上級魔導士です。残念ですがあれに対抗できる魔導士は我が国にはおりません。我々の力ではどうすることも出来ないのです」
「彼の目的は私です。私を差し出せば皆は助かります」
「!?」
絶句し、何かを言い返そうとするジークを姫は手で制止し、リゼルの隣に膝をついてしゃがんだ。
「魔導士様、皆を傷つけぬよう私だけを光の壁の外にだしていただけませんか?」
「おやめください姫様」
「しかし・・・」
「『・・・ゆるさない』」
だがその会話は、リゼルと誰かの、地の底から沸き上がるような呟きに止められていた。
「えっ!?」
「私の憧れの図書館をこんなにして・・・」
『私が作った図書館をこんなにして・・・』
「『絶対に許さないんだからぁ~~~~~~~っ』」
リゼルは穴から飛び出すと、仁王立ちになってバルバドスを睨み付けた。
「なんだ?お前は?慌てなくてもすぐに殺してやるから大人しく順番を待っていろ」
『リゼル、防御壁の向こう側にいるゲス野郎を絞める呪文が書かれた魔導書』
「Gの棚の上から21段目の横12列目」
『来いっ』
すると、天井まで届く本棚の奥から青い光りの尾を引いて飛んできた分厚い本を、リゼルが“がしっ”と掴んだ。
『第9章、15番の呪文』
「OK」
「天と地と宇宙の光よ。その輝きを1つに集め我が力とせよ。神が生みし悠久の流れの中で歪み生まれし・・・」
『全ての災いを、全ての罪を、神の雷から生み出されし絶対の力、裁きの矢を用いて貫かん・・・』
「『サンダー・アローっ』」
その瞬間、バーニング・ウォールの周りに雷鳴が轟くと、雷撃の矢がアラストールを次々に刺し貫ぬき、業火の焔に焼かれていた。
そして、対する敵の魔導師も防御魔法を使ったが、あっけなく蒸発していた。
「はぁ、はぁ、やったの?私達」
信じられないぐらい強力な魔法が使えたことにリゼルは嬉しさと戸惑いを隠せない。
『もちろん。て言うか、楽勝だったじゃん』
「そ、そうだね」
だが、喜びもつかの間、リゼルは突然猛烈な睡魔に襲われていた。
『どうしたの?』
「えっ!?う、ううん。なんでも・・・ない・・から」
けれど彼女は余りの眠さに立っていることも出来ず、あっけなく意識を失い、まるで糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちていた。
〈つづく〉