ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 004
「うおー!」
オレは力の限りペダルを漕いだ。
スキルを発動させているとはいえ、発動機を積んでいる自動車に人力の自転車で追跡しようなどなかなか無謀な策だと言えた。
しかも、後部の荷台には女の子を一人乗せているのだ。
「ちょっとあんまり揺らさないで!」
女の子も振り落とされないように必死でオレの腰の辺りにしがみつく。
そのせいで本当は立ち漕ぎをしたいのに、身体を浮かすのを制されて余計に自転車の車体を右に左に振るしかなくなる。
整備されていない道もまた、女の子がつかむにの力を入れさせる要因だった。
「でも、ほら急がないと」
オレは後ろを向かずに顔を前に向けたまま行った。
「なんかないの、重ね掛けできるようなスキルは?」
「わからないよ。今のこのスキルも君にきっかけをもらって突然ひらめいたわけだし」
後方で「これだからメンティー(支援される人)は」とボヤく声が聞こえた。
異世界にとばされるのがこれで三回目。
しかし、オレはその規則を把握していなかった。
過去二回も同じように突然飛ばされ、そして、何かしらの出来事に巻き込まれ、何らかの結末が出たかと思った矢先、元の現実世界に戻された。
夢と思うにはあまりに現実味を帯びた異世界体験。
そして、後ろに乗せたこの女の子はこの異世界体験に関する情報を少なくともオレよりは持っている様子だった。
だから、この子に力を貸すことで少しでも彼女からこの異世界体験に関する情報を得たいとオレは思ったのだった。