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第5日−4 スキップ

「敵って……は? どういうことだ」

「生き埋めになったときのことです。警備課の初動捜査前に単独で場所を突き止め、潜入していました」


 こっちの驚きもよそに、冷静に語り始めるリュウライ。

 なんでも局長は、最近の違法発掘の様子から、オーパーツを発掘する際に使われる〝オーパーツレーダー〟が使用されているのでは、と疑っていたらしい。だが、〈未知技術取扱基本法(FLOUT)〉の関係から、そのレーダーを所持しているのは、オーパーツ監理局かオーパーツ研究所のみ。そこから局長は、レーダーがO監かO研から横流しされているのではないかと疑ったのだ。


「レーダーの流出?」


 アーシュラが怪訝そうに眉を顰める。


「遺跡に到達するまでのオープライトなども残さず発掘されていたので、これは何か感知するものを持っていないと無理だろう、という話になりました。まさか外部の組織にレーダーを製造する知識と資金力があるとは思えなかったので、真っ先に内部からの流出が疑われたんですね」


 それでリュウライは、特捜として、警備課の正規の出動命令が出る前に、密かに発掘現場を調査したらしい。内部の犯行が疑われている以上、正規の命令がでてしまえば、証拠隠滅の可能性がある。それを未然に防ぐため、ということだ。


「どうだったの?」

「流出の事実はありませんでした。ただ、敵がレーダーを持っているのは確かだと思います」

「どうして?」


 リュウライは服の袖をまくって左手に装着されていた指ぬきのグローブを見せた。シールドを発動させるオーパーツ《クレストフィスト》。リュウライが唯一持っているオーパーツ。

 ……を、なんで今も着けてんのかな。オーパーツは基本的に勤務時間外では保管庫に入れるのを義務づけられているんですけど。まだ勤務中なのか。ちゃんと手当出てるのかな。ハードなことしてるみたいだし、お兄さん心配になります。


「潜入時、あらゆる電子機器はオフにし、何の痕跡も残さず侵入しました。身につけていたのは、この《クレストフィスト》だけ。ですが敵は僕が中にいることを察し、僕が誰かを確認することもなくいきなり攻撃してきた。オーパーツが反応したことで、敵は僕がO監の人間だと、そう判断したんだと思うんです」


 オーパーツを持っているのは、世間的にはオーパーツ監理局の人間だけ。違法発掘者にとっては、自分たちのしていることがバレたら困るから、さっさと始末してしまおうと考えた。そういうことか。

 ……ずいぶん、過激な判断をするものだ。確かに〝敵〟と呼ぶに値するかもな。


「それって、裏を返せば、レーダーを製造する知識と設備と資金力がある組織が背後にいるということになるわよね?」


 さっきのリュウライの発言に戻る。リュウライは『外部の組織にレーダーを製造する知識と資金力があるとは思えなかった』と言っていた。だから内部からのレーダーの流出を疑ったが、それが調査により否定される。つまり、最初の仮定も覆されるということだ。

 だとすると、それはわりと規模のでかい組織じゃなかろうか。しかも、それを隠し通すこともできる組織だ。


「その、敵って奴? どんな奴だったの?」


 チンピラみたいな素人に毛が生えたようなやつか、それともマフィアみたいな危なくても社員といった感じか、それとも殺し屋とかに分類されるような完全アウトローか。

 リュウライの話によれば、両手ナイフ使いのひょろ長いビジネススーツを着た男。身元は不明なので、やっぱり裏社会の人間と推測される……って、どれだけ危ない目に遭ってるんだ、こいつ。


 溜め息を吐いて、椅子に持たれてチャコールの天井を仰ぐ。

 こいつは昔っから危なっかしい。見た目からはなかなか想像できないが、一度戦い出すと夢中になって、自分の身を(おろそ)かにすることがある。実習で組んでいたときも、その所為で怪我したことが何度もあって、その度に叱り飛ばしていた気がするな。


「それから、ここ数日、オーパーツ研究所の前所長、アルフレッド・ワグナー氏の護衛任務に就いていたのですが……列車での護送中に、例の男にまた会って」


 って、まるで昔の友達に偶然再会しました〜みたいな感じで言っちゃってるけど、まさか何事もなく終わったはずがない。

 列車、と聞いて、昼間の駅の慌ただしい様子が思い起こされる。臓腑が冷えていくような、嫌〜な予感。


「まさか、あの脱線事故って……」

「ああ、それです。奴に爆弾を仕掛けられたんです」

「爆弾……」


 もうヤダこの子、どれだけ危ない目に遭ってるのよ。しかも、『お弁当のおかず取られた』くらいの、なんでもないことのように言いやがる。爆弾じゃ大騒ぎすることじゃないとでも言いたいのか。交通網に混乱をもたらすくらいの騒ぎだったはずなんだけれどね。


「それで、そのとき瞬間移動を使われて、逃げられたんですよ」

「瞬間移動~?」


 もう頭の中がぐちゃぐちゃして、クリームになって蕩けそうなんですが。なんなの、これ映画の話? そのくらいリュウライの周りで有り得ないことが起こっている。

 その中でも、キアーラは冷静だ。


「そう見えた、ということね。であれば、何らかの時間操作のオーパーツの可能性があるわけね」

「おいおい、時間を操るって」

「だいぶ話が逸れてしまったけれど、RT理論の話をしたのって、そういうことでしょ? 実用段階にあるって言ってたし」


 パチン、と頭の中で泡が弾けて、溶けてたクリームが固まりだす。

 そういえば、キアーラが「なんで時間操作のオーパーツを実用化されていると判断できたのか」って訊いてたんだった。敵なんてもんに気を取られて、すっかり忘れてた。

 という俺に気づいたんだろう。斜向かいからキアーラが白い目を向けてくる。


「えーと、で、なんで瞬間移動が時間操作?」

「RT理論によると、時間操作のオーパーツは使用者の時間には影響を与えないらしいわ。時間を止めてる間に移動した、という事でしょ」

「すんません、もーちょい詳しく」

「そうね……ストップウォッチのラップボタンを押すようなものかしら」


 この場合のストップウォッチは、スポーツ関係者が重宝する高機能なものではなく、時間表示が一つしかない安物のイメージだ。

 タイマーが動いている最中に、ラップボタンを押す。そうすると、表示はボタンを押した時点で止まっている。だが、実際のところ、タイマーはバックグラウンドで動いている。ラップボタンをもう一度押すと、止めた時点の時間の表示は解除され、それまでに経過した正しい時間を表示し始める。

 さて、一つしかない時計表示を見ていた者には、どのように映るだろう。


「時間がスキップしたように見える?」

「その通り」


 そして、表示が停止している間に動いたものは、スキップした時間と同様に、観測者には瞬間的に移動したように見えるのだという。


「ストップウォッチと違うのは、観測者側が表示が止まったことや、そのバックグラウンドで流れていた時間を認識できないというところね」


 それは唯一ボタンを押せる者――オーパーツの使用者だけの特権だ。使用者だけは、時間が止まった中でも好き勝手できる。


「本当にそんなことができたら、強盗でも殺人でも、何でもアリになっちまうぞ」

「いえ、敵の移動はせいぜい三メートルぐらいだったので、ほんの数秒だと思います」


 オーパーツも完璧じゃない。効果時間には限りがある。そのオーパーツの場合、時間を止めるという作用を出せるのは使用者換算でほんの二、三秒のことだろう、とリュウライは言いたいのだろうけど、その数秒でも充分命取りだっつの。


 それより、とキアーラはさっきからずっとだんまりだったアーシュラのほうに首を向けた。


「アーシュラ。レーダーの話がまだ引っ掛かってるんでしょう?」

「……ええ」


 眉を顰めて俯きっぱなしだったアーシュラは一つ頷くと、顔を上げてリュウライを見つめた。


「リュウライくん、繰り返すけど、レーダーでリュウライくんのオーパーツが察知されたのよね」

「推測ですが」

「でも、O研からも、O監からもレーダーが紛失されてはいなかった」

「それはラキ局長が内偵を進めた結果、『なかった』と断言されたので、間違いありません」

「なんだよ、何を気にしてるんだ?」


 矢継ぎ早にリュウライに質問するアーシュラの意図が、俺には全然汲み取れない。


「貴方たちが使っているような支給のオーパーツと、発掘されたばかりの出土オーパーツではね、レーダーで検出される波形が違うの」


 レーダーは、一般的に電波を発射し、モノに当たって跳ね返ってきた波を検出することで、そのモノの距離や位置を確かめる。オーパーツレーダーの場合も同様だ。まあ、名前の割に、実のところ測定対象はオープライトのほうだったりするらしいのだけど。

 さて、二人の話によれば、俺らみたいな捜査員や警備員に支給されるオーパーツは、だいたい技術部によって調整されているらしい。俺のオーパーツもそうだ。で、そうして調整されたオーパーツは、レーダーから送信されたパルスを未調整のものとは違った波形で返してくるのだという。

 オーパーツの回路に手を加えたことで結晶の振動の仕方が変わってくるのだとかアーシュラが言っているが、俺にはよく解らん。

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