表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/155

第33話 魔王、妨害大作戦なのじゃ

「ではゆくとするか!」


「うむ!」


 グランドベアの子供と毛玉スライムを乗せたガルが森に向かって駆けだす。

 森の中じゃと移動速度が遅れるが、聖女に姿を見られないようにするにはやむをえまい。

 そして森を抜けて見晴らしの良い平地に出たところで説得を行わせる予定じゃ。


 その間わらわ達は見通しの悪い森の中で勇者達を足止めする事になる。

 グランドベアの説得を見られぬようにせぬといかんからの。

ガル達が森に入って暫くすると、グランドベアの動きに変化が見られた。

 進路が町から森へと逸れたのじゃ。



「よし、上手くいったようじゃの」


 グランドベアの後を追うように人族の騎士団も森へと侵入してゆく。

 みればその中には騎士らしからぬ者達の姿もあった。


「上位の冒険者を強引に参加させているみたいですね」


「ああ、ギルド長が言っておった件じゃな。まぁ今のわらわ達に出会ってもバレはせんじゃろうが、あまりグランツとは会話を交わさぬようにするか」


「そうですね」


「む? なんじゃ? 冒険者が前に出るのか?」


 しかしそこで馬に乗っている騎士達は後方に下がり、冒険者達が先行する形になった。


「どうも冒険者を盾にして自分達は安全に現場まで行きたいようです。報告では騎士達は冒険者達を使い捨ての兵隊として使い潰すつもりのようですね」


 部下から受け取った情報をそのままわらわに伝えてくるメイア。

 しかし酷い話じゃのう。


「軍人としての連携を積ませておらぬのに何を考えておるのか。現場指揮官は無能じゃのう」


「冒険者は個の戦力なんじゃから、下手に組織に組み込んで動けなくするよりも、本来のパーティで纏めて方針だけ伝えて自由に動かした方が良いと思うんじゃがのう」


「人族は実力よりも権威主義ですからね。彼等が自分達より劣っていると根拠なしに信じているそうですよ」


「冒険者達が憐れじゃのう」


 そこらの雑兵などよりもよほど有用な上位冒険者をただの兵隊使い方するとか馬鹿すぎじゃろ。


「ならば冒険者と騎士団を分断してしまうか」


「それだと冒険者が独自の判断で動いて効率的になるのでは?」


「いや、無能を利用させてもらう」


 わらわは冒険者と騎士団の位置が完全に分かれた事を確認してから魔法を発動させる。


「ヒドゥンスワンプ!!」


「うわぁ!?」


「な、なんだ、こんな所に沼!?」


 発動させたのは沼を産み出す土属性魔法じゃ。

 沼の深さや広さ、状態を自由に設定できるので一見すると普通の地形に見えるが、足を踏み込むと沈みだす隠れ沼を装った沼を作り出したのじゃ。

 これなら連中も自然の罠と勘違いしてわらわ達の存在には気付かぬはず。


「隠れ沼だ! 重装備の奴は気をつけろ!」


「成る程、金属鎧を着て馬に乗っていれば沼に沈む速度も速くなるというものですね」


「お、おい、お前等助けろ!!」


 騎士団は魔法で作った沼を底なし沼と勘違いして冒険者達に助けを求める。

 よしよし、これで暫く時間を稼げるじゃろう。

 沼があるかどうかの確認しながらでは時間もかかるというものじゃ。


「軽装の者を先行させろ! 足止めするのだ!」


 しかし騎士達は身の軽い者達に先行し足止めを行えと言いだしおった。

 おいおい、軽戦士だけで魔獣に挑むとか正気の沙汰でないぞ!?


「それじゃあ守りが足りなくるぞ!」


「どのみちあの巨体相手に守りなぞたいして役に立たん! とにかく攻撃して我々が追いつくまで足止めするのだ! 避け続ければ攻撃なぞ当たらん!」


 当たらなければ問題ないとはまた極論を言ってくるのう。

 それが出来るなら盾なんぞいらんわ。


「無茶苦茶だ」


「命令だ! 行け!」


 しかし命令には逆らえなかったのか冒険者達は渋々と動き出す。


「国からの依頼を途中で投げ出せば悪評が立ちますからね。断る方が難しいと言えるでしょう」


「やれやれ、愚かな選択じゃが、わらわ達にとっては面倒な展開じゃの」


 何せ折角の足止めが一部しか効果が無かったじゃからな。


「グランドベアは森で足を取られているのに対し、彼等はグランドベアがなぎ倒した森の後を追えば良いので追いつかれるのは時間の問題ですね。どうなさいますか?」


「ふむ、一度戦わせるか。そこで魔獣の攻撃に合わせて連中を無力化する」


「承知しました」


 わらわ達は方針を変えて冒険者達が攻撃を行うのを待つことにした。


「いいか! 無理に攻撃するな! もうポーションも無いんだ。相手の攻撃を回避する事を優先しろ!」


 冒険者達の中に居たグランツがポーションが無い事に気をつけろと指示を出す。


「む? ポーションが無いと言うのはどういう事じゃ? 町が近かったんじゃし、騎士団もおるから補充は出来ておるのではないのか?」


「どうも騎士団が強制的に商店から徴収したようですね。お陰で冒険者達はポーションの補充が出来ず、治療して欲しいのなら騎士団の指示に従う事を強要されている様です」


「なんじゃその無能ムーヴは。適切なタイミングで回復出来ねば思い切った攻撃も出来まいに」


 いちいち後方に戻っていたら包囲もへったくれもないではないか。


「おっしゃる通りの状況になったらしいです。しかもポーションの提供は騎士団の判断によって行われるため、気に入らない相手、大した傷ではないと判断した場合はポーションの提供がされなかったそうです」


「おいおいおい、それ普通に死人が出るじゃろ!?」


「はい。重傷を負って戦線を離脱した冒険者が続出との事です」


「この国はどんだけ無能なんじゃ……」


「国ではなくこの領地の騎士団の判断のようですね。まだ国王軍が動くほどの状況とは判断されていない為、領主の自治権に任せているようです」


 聞けばグランドベアがこれまで通って来た領地が侵攻阻止に失敗した事で、ここで討伐に成功すれば周辺の貴族に大きな顔が出来ると欲をかいたのが原因らしい。

 そこで考えたのが大量に回復手段を用意して負傷を恐れずに攻撃に転じる戦略だったそうなのじゃが、結果は無残なものじゃった。


 冒険者達を見下す余り本来の作戦とは真逆の状況になり、重傷者は通常のポーションでは治しきれぬ為戦力は減る一方。

 作戦ミスで仲間達が重傷を負った事に怒る冒険者達に対し、失敗を認めず意固地になって更にポーションの配給を絞る騎士団と、もうしっちゃかめっちゃかじゃ。


「そんなじゃからわらわ達に勝てぬのじゃぞぉ……」


 これ、他の領地も身内同士の足の引っ張り合いが原因でここまで討伐失敗を繰り返したとか言わんよな?


「メイア、部下に命じて重傷を負った冒険者を治療するのじゃ。恩を売っておけ」


「畏まりました。既に治療チームが騎士団の目を盗んで冒険者達に接触中です。名目としては近隣の町の商会から恩人である冒険者の為に極秘裏に派遣されたとしておきました」


「良い仕事じゃ」


 さすがはメイア。わらわの指示を先読みして動いておったか。


「あちらももう限界じゃの。そろそろ行くか」


 見れば冒険者達は積極的にグランドベアに向かおうとはせず、せいぜいが弓や魔法による散発的な攻撃を繰り返す程度じゃった。

 まぁ身が軽いと言う事は大半は斥候役であって前線で戦う戦力ではないからのう。


「逃げるな! 戦え!」


 しかしその事に思い至らない軽装の騎士達は冒険者達を強引にグランドベアに向かわせようとしておった。


 その中で唯一前線に出て戦っておったのは、勇者とその仲間達じゃった。

 しかし勇者達の攻撃はグランドベアの巨体に対しあまりに小さく、ダメージを与えているだけマシといった感じじゃ。

 正直な話、技量だけならグランツ達上位冒険者の方が上なのではないかの?

 完全に装備のお陰でなんとか戦えている感じじゃ。


「くっ! やっぱり有効打にならない! 神器の力を開放しないと!」


 と思ったら勇者が馬鹿な事を言い出しおった。

 阿保かぁー! この程度の敵相手に神器の力を使うでないわ!


「そんな馬鹿な事させてたまるかい、グレートウォール!!」


 わらわはグランドベアが冒険者達に向けて腕を振り下ろすタイミングに合わせて魔法を放つ。

 地面から湧きだした巨大で分厚い壁がグランドベアと冒険者達を分断し、その一撃を阻止した。


「何だこの壁は!?」


 さぁて、時間稼ぎの始まりじゃ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ