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第26話 魔王、持て余すのじゃ

シルクモス達が機織りを初めて半月が過ぎた。


「新しい生地が出来たモスー!」


 今日も今日とてシルクモス達が出来立ての生地を運んでくる。


「また持ってきたのか?」

 

 初めて満足のいく生地が出来たシルクモス達は、意気揚々と生地を持ってわらわの下へとやって来た。

 生地を見たわらわ達はそのあまりの出来の良さに、シルクモス達が自信満々で持ってきたのも納得だと驚かずにはいられなんだ。

 あまりに出来が良すぎる為、メイアなどどこから鋏を入れて良いかと何日も生地を前に固まっておった程じゃ。


 じゃが、その後が問題じゃった。

その後もシルクモス達は一日に一反程のペースで生地を持ってきてはわらわに差し出してきたのじゃ。


「果物の代金だモスー」


 代金だモスーってお主、ちょっと多すぎないかの!?

 商人達が血眼になる程貴重な生地なんじゃろコレ!?


「さすがに無理をしとらんか? 無理して毎日持ってこんで良いぞ?」


 いくらなんでも持ってくるペースが速すぎるとわらわが気遣うも、シルクモス達はそんな事ないと触覚を横に振る。


「別に無理してないモス。ラグラの実を食べてから一杯糸が出るようになったんだモス」


「む? そうなのか?」


「そうモス。自分達でもビックリするくらい糸が出るモス。放っておくと毛の塊になっちゃうからやってるモス」


「お主達の巣にする分は良いのか?」


「これ以上ない程に飾り立てたモス。あまり飾り過ぎてもバランスが悪くなるから程々に飾るのが良いモス」


 中々に意識の高い発言が返って来たのじゃ。


「ふむ、それなら島の仲間達にも配ってやってくれ。皆も触り心地の良いお主等の生地を巣に飾れば喜ぶじゃろう」


「もうあげて来たモス」


「綺麗な布一杯もらったよー」


「お部屋がオシャレですべすべになったのー」


「寝心地最高―」


 おおっと、もうやっておったのか。


「アタシはリボンを作ってもらったわ!」


「アッシはチョッキって奴を作って貰いやしたぜ! どうでさぁ、この凛々しさ!」


「ああん素敵!!」


 見ればリリリルはしっぽにリボンを、ビッグガイはミニマムテイルサイズのチョッキを着ておった。

 二人共見事な出来の衣装を着て誇らしげじゃ。

 正直わらわが見てもセンスの良さを感じるぞ。


「お主等、服まで作る事が出来たんじゃな」


「この程度楽勝モス! もっと複雑な服でも作れるモス! 次はガル様にびしっとしたスーツを着せたいモス!」


「勘弁してくれ」


 うんざりした様子のガルを見れば、その首元に短いネクタイが巻かれておった。


「無理に抵抗したら潰してしまいそうだった……」


ああ、強引に着けされされたんじゃな。

 それにしても予想外に器用な連中じゃのう。

 とはいえ困ったのう。城の倉庫はもう満杯じゃ。


「まさかラグラの実を食べさせたことでこんな効能が見つかるとはのう」


「大抵は見つけたら上級ポーションの材料にされてしまいますからね」


「じゃがこれ以上作られても困るのう」


 これだけ作れるなら、今後ももっと増えると言うことじゃからの。

 良い品が大量に手に入るのは良いが、多すぎても持て余してしまう。

このペースじゃと新しい倉庫を作ってもすぐに埋まってじゃろうし、かといってわらわのマジックポケットに仕舞い続けたらわらわのポケットがシルクモスの生地ばかりになってしまうぞ。


「要らないなら売ると良いモス。皆これを欲しがってるんだモスよ?」


どうしたものかと悩んでいたら、シルクモスの方から売っても良いと言ってきた。


「本当に良いのか? お主達はこの生地の為に他種族に狙われてきたのじゃぞ?」


「無理やり誘拐されて碌にご飯も与えられずに働かされるのは嫌モスけど、好きに暮らしてよくて美味しい果物食べ放題で勝手にお腹からプリプリ出てくる糸をあげるだけで守って貰えるのなら好きなだけ持って行って良いモス」


「プリプリとか言うでない」


 種族が違うとこういう時絶妙に感覚にズレを感じるんじゃよなぁ。

 まぁマジックポケットの肥やしにするくらいなら本人達の許可も得た事じゃし、売ってしまうとするかのう。


「これ程のシルクモスを取引で使えるのでしたら、交渉事はかなり有利に進める事が出来ますね。ただ、ラグラの実の価値が高いのは事実ですが、正直その分の経費を差し引いてもこちらが大儲けになってしまいます」


 と、メイアがこの交渉の利益率について物申してくる。


「ふむ、それはあまり良くないのう。取引はつり合いが取れなければ」


 双方に利益に偏りがあり過ぎるのは良くないのじゃ。

 これを当たり前と思うようになってしまうと、搾取する事を当たり前に思ってしまうようになる。

 つまり自分でも気付かぬうちに暴君になってしまう危険性があるのじゃ。

 そして今は気づいていないが、後々この取引が不平等だと気づいた時にシルクモス達の心証が悪くなるのも避けたい。


 わらわは魔王として魔王国に君臨しておった頃に過ぎた欲望の所為で身の破滅を招いた者達を良く知っておるのじゃ。

 利益を求めるなとは言わん。じゃがバランスを崩すほど奪ってはならぬのじゃ。


「のうシルクモス達よ、他に欲しいものは無いか?」


 わらわが訪ねると、シルクモス達はうーむと悩み声をあげる。


「それなら色んな国の染料や色んなデザインの服やアクセサリが欲しいモス。服を作る参考にしたいモス」


「でしたら私の部下に命じて色々と集めさせましょう」


「わーいモスー。誰にも襲われる心配なく美味しい果物食べ放題で好きなだけ服が作れるなんて天国モスー」


衣服の件が受け入れられたシルクモス達は大喜びで機織りを再開する。

うーむ、もしかしたらシルクモス達が一番この島での生活を満喫しておるのかもしれんのう。

 おっと、そうじゃ! せっかくシルクモス達が裁縫できるのじゃ。一仕事して貰うとするかの。


「のう、ちょっと頼みたい仕事があるのじゃが」


「何だモス?」


 皆が大はしゃぎする果樹園の片隅で、わわらとシルクモスはちょっとした悪だくみをするのじゃった。

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