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元魔王様の南国スローライフ~部下に裏切られたので、モフモフ達と楽しくスローライフするのじゃ~  作者: 十一屋 翠
第一章 魔王、辞めるのじゃの章

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第17話 魔王、移植をするのじゃ

 ミニマムテイルのリリリルが追われておった理由、それはラグラの実の種が原因じゃった。


「成る程のう、そう言う事か」


「姉御、ラグラの実って何ですかい?」


 ラグラの実の種を初めて見たらしいビッグガイが尋ねてくる。


「ラグラの実は上級ポーションの材料になる果物じゃよ」


「ポーション?」


 ビッグガイが何だそれはと首を傾げる。

 ふむ、無人島育ち故、ポーションも知らぬは当然か。


「ポーションとは傷をあっと言う間に治してくれる水の事じゃ」


「マジですかい!? そんなスゲェ水があるんですか!?」


「クスクス、貴方ポーションも知らないのね」


「し、しょうがねぇだろ。俺の島には無かったんだからよ」


 リリリルは人族の町が近いだけあってポーションの事を知っておるようじゃの。


「でもそんなところも可愛いわ」


 はいはい、末永くお幸せになるのじゃ。


「どうやら領主はこの森の奥にラグラの木がある事を知り、それを独占する為に森を封鎖したみたいじゃな。上級ポーションは貴重じゃし、ラグラの実自体が美味じゃからのぅ」


 ちゅーても物凄く貴重と言うほどではない、平民や下級貴族が手に入れるのは大変じゃが、上級貴族や腕利きの冒険者ならそこまで入手が大変と言う訳でもないの。


「リ、()()()が封印されたと言う情報が広まり始めておりますから、この勢いで魔族との決戦に挑む為にポーションを用意しておきたいと言うのもあるでしょうね。上級ポーションを大量に供給できれば戦後の褒賞を期待できるでしょうし」


 直接兵を出さずとも、重要な戦略物資を提供したとなれば戦後にデカい顔が出来るからのう。


「まー、そうは言っても今の人族の戦力ではいかに上級ポーションがあろうともジリ貧なんじゃがのう」


 なにせ人族の戦力を過剰に減らさぬためにわらわ達は戦いを調整しておったくらいじゃし。

 攻撃力と機動力と防御力と指導者と指揮官が足りんのじゃよー。うむ、全部じゃな。


「となると困りましたね。ラグラの木が目当てでは森の封鎖を解除させる事も出来ません」


「いやそうでもないぞ」


「とおっしゃいますと?」


「この森にラグラの木がある事を大々的に公表すれば良いのじゃ。さすれば領主は森に無断で侵入してくる連中の対処に追われることになる」


「はい? それでは意味がないのでは?」


 メイアはわらわの意図が分からぬと首を傾げる。

 ふふふ、メイアは真面目に考えすぎなんじゃよ。


「じゃからその前にわらわ達がラグラの木を持ちだすのじゃ。それも明らかに何者かに持ち出されたと分かる形での」


 そこまで教えると、メイアは納得がいったと手を叩く。


「成る程、そうなれば領主の疑いは森に侵入した者達、そしてその雇い主に向かう訳ですね」


「うむ、しかし問い詰められた方も身に覚えが無い故、当然返還要求には応じぬと言う訳じゃ」


「ですが盗まれた領主がそれを信じる筈もない」


 封鎖した森に無断で入り込んだ訳じゃからの。後ろめたい事をしているのは間違いないと断定するじゃろ。


「結果この国の貴族達はお互いを疑いあい、場合によっては領地間での小規模な戦争すら起きるじゃろう。何せ貴重な上級ポーションの材料を産み出し続ける金の卵じゃ。なぁなぁで済ませられる訳が無い」


「リンド様の手を煩わした貴族に罰を与えるだけでなく、人族の国に長期的な不和の種を蒔くとは流石リンド様です。木だけに」


 いやそれは上手くないぞメイアよ。


「ちょっと待って!」


 しかしそこでリリリルから待ったがかかった。


「この種の木は私達にとって大事な食べ物よ。それを持っていかれたら困るわ」


 まぁそう言いたい気持ちは分かる。

 他種族同士の争いが原因で飯の種を取られては堪らぬじゃろうしの。


「姉御、あっしからも頼みます。あっし等にとって木の実は大事な食いもんでさぁ」


 更にビッグガイもラグラの木をそっとして欲しいと頼んできた。

 しかし安心するがよい。ちゃあんとその辺りも考えておるわい。


「うむ、それなんじゃがな。リリリルよ、お主等わらわの島に引っ越さぬか?」


「え!?」


 突然の提案にリリリルがキョトンと尻尾を揺らす。


「お主達の大事な木は人族に狙われておるのは分かったじゃろう? そして木の実を食べるお主等も狙われた。このままこの森におっては木もお主達も危ない。そこでこの木ごとお主達もわらわの島に引っ越すのじゃ」


「木ごと引っ越すなんて、そんな事出来るの?」


 自分達よりも何倍も大きな木と群れの仲間達を安全に連れて行くことが出来るのかとリリリルは疑いの眼差しで見つめてくる。

 じゃがそんなリリリルの肩をビッグガイがポンと叩いた。


「姉御なら信用できるぜ それに見たろ? 姉御は滅茶苦茶強いからな! あっという間に島に君臨する長達を手下にしちまったんだぜ!」


「そんな凄い人なの!?」


 アレらを降した事は自慢にもなにもならんのじゃがのう。


「分かったわ。群れの仲間達に話してみる。皆も人族に襲われていたから、賛成してくれると思うわ。付いてきて」


 リリリルは少しばかり悩んでいたが、どのみち人族に狙われているのならとわらわの提案を受け入れた。

 そして群れの仲間達の下にわらわを案内する。


 ◆


「キキッ、ようこそ魔族の方。同胞を助けてくれて感謝いたします」


 ミニマムテイルの群れが隠れ暮らす場所にやって来たわらわは、長を始めとしたミニマムテイル達に迎えられた。

 見ればミニマムテイル達は騎士達に追われたのか、怪我をしている者が少なくない。


「なに気にする事はない。それよりも怪我人の治療をしてやろう。メイア」


「畏まりました」


 わらわの指示を受けたメイアがすぐさまミニマムテイルたちの治療を始める。


「傷の手当てを致します。まずは子供達から治療します」


 メイアは警戒するミニマムテイル達を説得する時間も惜しいと問答無用で回復魔法を使い治療してゆく。


「うわぁ、痛くなくなったよ」


「ありがとうお姉さん」


「どういたしまして」


 実際に傷が治れば説得の必要は無くなる。

 次いでメイアは傷の深い者から順に治療を開始していった。


「おお、怪我人の治療まで、ありがとうございます」


「なに、大したことではない。それよりもじゃ……」


 わらわは先ほどと同じようにラグラの木ごと引っ越す提案を長老達にする。


「それは願っても無い事ですが、何故そこまでしてくださるのですか?」


「まぁ道理じゃの。理由は二つじゃ。森が封鎖されているとわらわ達も森で採取などが出来なくなるのじゃよ。それは人族を含めた他の者達も困るのじゃ」


「人族がやっているのに人族が困るのですか?」


「人族も一枚岩ではないのじゃよ」


 戦争による利益を求める貴族と生活の糧を得たい平民では意思の統一など出来る訳がないしの。


「ではもう一つの理由とは?」


「それはコヤツじゃ」


 わらわはリリリルに寄り添われるビッグガイを指差した。


「え? アッシですかい?」


「うむ。わらわに従う者の頼みじゃからな。その同族を守るのはやぶさかでない」


「姉御っ!!」


 自分の為と言われたビッグガイがキラキラした目でわらわを見つめてくる。

 まぁ本当は説得するのが面倒じゃから、同族であるビッグガイを理由にしただけなんじゃがの。


「おお、なんという慈悲深い……分かりました。我等ミニマムテイルの運命、貴方様にお預けします」


「うむ。それではさっそく引っ越しを始めるかの。まずはラグラの木の回収からじゃ!」


 ◆


 リリリルに案内されて森の奥へ向かうと、騎士達が物々しく護衛する木が見えて来た。

 騎士達が守るラグラの木は三本か。


「あれが私達のご飯の木よ!」


 騎士達に取られた木を目にしたリリリルが悔し気に鳴く。


「ふむ、大した人数ではないな。リリリルよ、他の場所にも同じ木はあるか?」


「無いわ、あそこにあるだけよ」


「それは手間が省けるの。メイア、わらわが削る故、お主は狩り残しを頼む。ただし殺すなよ」


「畏まりました。生き残った騎士も領主の不信の種にするのですね」


 流石わらわの側近、話が早い。

 この程度の人数であればわらわ一人でも殲滅はたやすいが、リリリル達の大切な木じゃからな。万が一にも傷つけたくはない。

 わらわ達にとっても大事なデザートになるしのう。


「ではやるぞ。ダークバレット!」


 わらわが放った闇色の球が、薄暗い森の木陰に紛れて騎士達を襲う。


「うっ!?」


「おっ!?」


 闇の球を喰らった騎士達が次々に崩れ落ちてゆく。

 これぞわらわが得意とする制圧型闇魔法ダークバレットじゃ。

 この魔法は精神にダメージを与える事で肉体を傷つけることなく対象を無力化できる便利な魔法なのじゃ。

 精神に対するダメージなので周囲の自然や建造物を傷つけないのも使い勝手が良いのじゃよ。


「ぐぅっ!? 敵襲か!?」


 欠点としてはゴーレムなどの無機物に対して効きが悪いのと、気合の入った連中は気絶まではいかんことがあると言う事かの。

 あんまり威力を強めると廃人にしてしまうゆえ、力加減が難しい所はあるのう。まぁそれはどの魔法でも同じじゃが。

 

「総員戦闘態勢! 気絶した者を叩き起こせ!」


 指揮官と思しき騎士が倒れた部下を蹴り起こしながら剣を構えて周囲に油断なく視線を送る。

 ほう、耐えただけでなく指揮をするだけの気力があるか。

じゃが甘い。わらわのダークバレットは眠りの魔法ではない故、精神の傷が癒えぬ限り目覚めぬよ。


 そして警戒の視線が水平方向にしか動かぬのも未熟。

 既にお主達の敵は真上に迫っておるぞ。


「ぐっ!?」


「がっ!?」


「ごっ!?」


 空を飛んで真上から降り立ったメイアによって意識を刈り取られる騎士達。

 わらわが攻撃を放って僅か数秒の事であった。


「凄いわ! 私達が敵わなかった人間達がこんなにあっさり!!」


「ひゅー! さっすが姐さんだぜ!」


 わらわ達の迅速な対処にビッグガイ達が歓声を上げる。

 ふふふ、凄かろうわらわ?


「指揮官の練度は悪くなかったですが、上に注意が向かない当たり魔族と戦った経験の無い騎士だったようですね」


 ふむ、普通人族の騎士なら我等魔族と戦う為に一度は前線に出ておる筈なんじゃが……ああ、成る程。


「こやつ、抗魔の首飾りをしておるな」


「魔法防御力を上げるマジックアイテムですか」


「うむ。これのお陰で意識を刈り取られずに済んだようじゃ」


 こやつの気合が入っておった訳じゃなかったようじゃな。

 特別高い品ではないが、さりとて一介の騎士が持つ品でもない。


「ふむ、ミニマムテイルの慰謝料兼治療費として受け取っておくかの。さて、それではラグラの木を掘り起こすとするか」


 わらわは土魔法を使って地面をほぐすと、念動魔法を併用してラグラの木を宙に浮き上がらせる。


「私達の木が浮いた!?」


 はははっ、驚いたか!


「リンド様、他の木は私が掘り起こしますので、リンド様はミニマムテイル達を呼んで転移魔法の準備をお願いします」


「うむ、任せた」


 残りの木をメイアに任せると、リリリルに頼んで森中のミニマムテイル達を集めさせる。

 そして森中のミニマムテイル達が集まった頃、メイアも戻って来た。


「リンド様、遅くなって申し訳ございません」


「いや、丁度ミニマムテイル達が集まった所じゃ」


 メイアも帰って来たので、さっそくミニマムテイル達をわらわの傍に集める。

 そして転移魔法を発動すると周囲の景色が暗い森の中から一転して明るい平原へと変わる。


「え!? 森が無くなったわ!?」


 突然森が消えた事にリリリル達ミニマムテイルが動揺の声をあげる。


「へへっ、ここが俺達の暮らす島さぁ!」


 幸いビッグガイがすぐにミニマムテイル達を宥めてくれたお陰で、そこまでのパニックにはならなんだ。


「それではリンド様、さっそく畑に木を移植しましょう」


「うむ、わらわの畑はこっちじゃ」


わらわが城の裏手にある畑に皆を連れてゆくと、そこに毛玉スライム達が合流してくる。


「魔王様おかえりなさーい」


「おかえりー」


「うむ、今帰ったぞ。そら、あそこがわらわの畑じゃ」


「これが……!?」


 わらわの立派な畑を目にしたメイアは大きく目を見開くと、早足に畑へと足を入れる。

 そしてしゃがみ込んで畑をじっと見つめると何やら小さく呟いた。


「……こんな事だろうと思っていましたよ」


「んん? どうしたんじゃ?」


「いえ、なんでもありません。畑については後程私が手入れをしますので、まずはラグラの木の移植を致しましょう」


 何やら強い眼差しになったメイアは、畑の一角に穴を掘るとラグラの木を設置する。

 そして掘り起こした土を埋め直すことなく、マジックポケットから取り出した土で木の周囲を埋め始めたのじゃ。


「何でわざわざ別の土を使うんじゃ?」


「これはラグラの木を掘り起こした時の土です。植物を移植する際には、元々生えていた土地の土を使った方が馴染みやすいのです」


「ほー、そういうものか」


「はい、そういうものなのです」


 そう言うとメイアは残りのラグラの木と土を地面に置く。


「ではリンド様、同じようにこちらもお願いします」


「え? わらわがやるの? あとなんかコレ、ラグラの木以外も無いかの? 何か明らかに木ですらないモノが混ざっとるんじゃが?」


「それは森で採取した果物の木や山菜です。せっかくですのでラグラの木以外も採取してきました」


「戻るのが遅れたのはそれが理由か!」


「その通りでございます」


 えーい、しっかりしておるわ。


「っていうかそれ、拾ってきたお主が自分でやる事でないかの?」


「私にはリンド様が作った畑もどきを手入れし直す作業がありますので」


「畑もどき!?」


 その言いぐさは酷くないかの!?


「失礼しました。畑と言うのもおこがましい土の塊ですね」


「もっと酷くなったんじゃが!?」


「リンド様、畑とはただ土を掘り起こすだけではだめです。ちゃんと畝を作って、種は土の中に優しく埋める必要があります。ですがこの種は土の上に放置されていた所為で大半が鳥に食べられたか、栄養が足りずに枯れてしまっております。あと水も碌に撒いておりませんね」


「え? そうなのか?」


「はい、畑とは作ったばかりの頃が一番手入れが大変なものなのです。本来なら何年も土を慣らして畑に適する様に改良し、肥料や水も定期的にかけてやらないといけません。更に鳥や虫から種や芽を守らないといけないのですよ」


 そ、そうじゃったんか……わらわ知らんかった。


「と言う訳で私はこれから土魔法でこの畑を作り直しますので、リンド様は私がやったように木々の移植をよろしくお願いしますね」


「あっ、はい」


 いかん、うっかり書類を間違えた時の怒り方じゃコレ。

 こういう時は素直に謝っておくに限るのじゃ。でないと後がコワイからのう。


「毛玉スライム達、手伝ってください。種の傍にこの特製液体肥料が入った瓶をこう土に差し込むのです」


「まかせてー」


「植物魔法で種を成長させますので、合図をしたら新しい肥料を差し込んで下さい」


「はーい」


「あっ、これ美味しいー」


「ホント? 僕も飲むー」


「肥料を飲まないでください。後で分けてあげますから」


「はーい」

 

 メイアの指示に従って毛玉スライム達が畑作業の手伝いを行う。

 わらわは一人で作業なのにあっちは楽しそうでないかの?


「姉御! あっし等は姉御を応援しますぜ!」


「おお、嬉しい事を言ってくれ……」


「ミニマムテイル達もこちらを手伝ってください」


「へい! 任せてくだせぇ!」


 この裏切者ぉーっ!


 ◆


 ふいー、ようやく畑作業が終わったわい。

 メイアの奴、終わったと思ったら何度もお代わりを出してきおったわ。

 お陰で城の裏手は畑どころかちょっとした農園に変貌しておった。


「これで移植は完了しました。あとは木々の健康状態を見ながら適時肥料を追加して島の土に馴染ませていきましょう」


「木の様子を見るのは私達に任せて! 伊達に長年この木と過ごしてきた訳じゃないわ!」


 するとリリリル達ミニマムテイル達が木の管理に立候補する。


「うむ、ではお主等をこの木の番人に任命するのじゃ!」


「「「「はーい!!」」」」


 ふぅ、一気に賑やかになったのう。

 色々と働いて疲れた故、暫くは町でのんびりするとしようかの。

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