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第154話 魔王、感動の再会を取りなすのじゃ

 勇者の母を見つけたわらわ達じゃったが、当の勇者は幼い頃に親元から引き離された

為に実の母をそうと断言できんかった。


「おーいそこのお主!」


 じゃから直接聞くことにした。


「お主勇者の母親かの?」


「え?」


「ってなに聞いてんだー!」


「お主が断言できんのなら本人に聞くのが一番じゃろ」


「だからってノータイムで聞きに行くやつが居るかよ! もっと様子を見てからとかあるだろ!」


 こっちの方が手っ取り早いではないか。


「あ、あの……」


 と、いかんいかん、こちらから声をかけておきながら失礼じゃったな。


「勇者というのは……」


「おお、それでは分からんかったか。カイルじゃ。この村で生まれ、勇者の素質があるからと国に連れていかれた子供の事じゃ」


「っ!?」


「だからお前!!」


 わらわの言葉に勇者の母は息を飲む。


「カイルの事を、知っているの……ですか?」


「うむ、勇者からお主の事が気がかりと言われての。安否を確かめる為に来たのじゃ」


「っっっ!!」


 わらわの言葉に、勇者の母は感情の爆発を抑えようと口元を手で隠す。


「本当に、本当にカイルが……生きて」


 ポロポロと涙をこぼす勇者の母。うむ、これは当たりじゃの。


「カイルはどこに……」


「っ……」


 目の前に自分が居るのに気づいてもらえないもどかしさに勇者が拳を握る。


「安心せい。勇者ならわらわのところで保護しておる」


「保護?」


「うむ。人族の国はこんな事になってしまったじゃろ? じゃからまぁ面倒に巻き込まれないようにの」


 本当は成り行きで保護しとったんじゃがな。


「ああ……そうだったのですね」


 しかし事情を知らない勇者の母は感涙でむせび泣くばかりじゃ。


「あの子は元気なのですか?」


 やはり母として息子の安否が気にかかるのじゃろう。


「それも心配要らん。今は嫁とイチャイチャしながら暮らしとるわ」


「まぁ!」


「違うっ!! 彼女はそういうのじゃない!」


 んん、違うのか? というかそこでお主が否定すると母親にバレるぞ?


「あの、この子は?」


「はっ!?」


 ほら気取られてしまったではないか。まぁ良い。


「こやつはわらわのところで保護しておる子供じゃ。幼い頃に生き別れた母を探しておる」


「まぁ! 貴方も家族と離れ離れに!?」


「そ。その……はい」


 流石にこんな姿になってしまった自分が息子だとは言えず、勇者はしどろもどろに答える。


「まぁまぁ、大変な思いをしたのね。貴方もお母さんに会えると良いわね」


「……はい」


 母親に頭を撫でられ、勇者は涙を堪えるように俯き拳を握りしめる。


「それでじゃな。お主息子に会いたくないか?」


「会えるんですか!?」


「おぉぉぉぉぉい!」


「うむ、お主の望む形かは分からんが、息子に合わせてやるぞ」


「いやだからお前!」


 わらわは抗議してくる勇者を無視して勇者の母を見つめる。


「カイルに、会わせて頂けるんですか?」


「ただし、この村に帰っては来れんぞ。それでもいいか?」


 流石にわらわの島を自由に行き来させるわけにもいかんからのう。


「かまいません。両親も夫もすでに亡くなっていますから、この村に未練なんてありません。息子に会えるなら、全てを捨てても構いません!」


「……だ、駄目だ!」


 母親の躊躇いの無い言葉に耐えられなくなった勇者が叫んだ。


「そんなことすれば絶対後悔する! 絶対に!」


「後悔……?」


 突然勇者、いや見知らぬ獣人の子供が息子と会ってはいけないと叫んだ事に勇者の母は戸惑う。

 当然じゃろう。ずっと探していた息子に会ったら後悔するなどと言われたのじゃから。


 しかし勇者の様子が尋常でない事から何かがあるのだと察したのじゃろう。

 勇者の母は静かに膝をつくと、幼い獣人の子供の肩に手を置く。


「貴方の言う通り、息子に会ったら後悔するのかもしれない。もしかしたら息子はもう死んでいるのかもしれない。行ってもあるのはお墓かもしれない。でもね、それでも私は息子に会いたいの。あの子に会いたいの」


「……っっっ」


 そこまでハッキリと言われては止める言葉も出なかったようで、勇者は立ち尽くしてしまう

 まぁのう、分からんでもない。何せ今のお主は元のお主とは似ても似つかぬ獣人の子じゃ。

 自分こそが息子だと告げて信じて貰えなかったらそれこそ勇者は帰る場所を失ってしまうじゃろう。

 しかしじゃ勇者よ、お主は忘れておる。

 親の愛が、いかに深いのかを。

 幼い頃に引き離された事でお前は実感がないじゃろうが、母親は確かにお前を愛しているのじゃ。


「お願いします。私を、息子の下に連れて行ってください」


「うむ、承知した。ではゆくぞ」


 手招きで呼び寄せた勇者の母の手を取ると、わらわは転移魔法を発動して島に戻る。


「え!?」


 突然景色が見たこともないものに変わり、勇者の母の顔が驚きに包まれる。


「到着じゃ」


「ここは!? どこ!?」


更にわらわは勇者をぐいと母親の前に出す。


「あとお主の息子な、これじゃ」


「「え?」」


 お互いに、わらわの言葉の意味が分からなかったのか、勇者と勇者の母が揃って目を丸くして声を上げた。


「うむ、こういうところは親子じゃのう」


「ええと、この子がカイル? それはどういう? え? え? え?」


 驚きの連続で理解が追いつかない母親。


「お、お前! お前っ!! 俺は遠くから見るだけで良いって言っただろ!!」


 はははははっ、わらわは母親に合わせる事を承知したが、秘密にするとは言っておらんぞ。


「これなるはまことにお主の息子カイルじゃ。ちょっと見た目が変わっとるが中身は本人じゃぞ」


「この子がカイル? でもこの子は獣人で……」


「っ!」


 予想通りの反応をされ、勇者の顔が歪む。


「邪悪な者に呪いをかけられたのじゃ。今わらわの手の者が呪いを解除する方法を探しておるが、生涯見つからぬかもしれん」


「そう……なのですか」


「信じられんじゃろう。信じられなくとも無理はない。じゃが、信じられるものもある筈じゃ」


 わらわの言葉に、勇者と勇者の母がそれは一体何かと言葉なき問いの眼差しを投げかけてくる。


「思い出じゃ。お主等が共に暮らした思い出だけは信じられる筈じゃ」


「「っ!!」」


 二人はハッとなると互いの顔を見つめ合う。


「暫く二人きりで話してみると良いのじゃ。時間は沢山ある。この辺は危険な魔物もおらぬゆえ、散歩でもしてくるといい」


 それだけ言うとわらわは勇者達を置いて城へと戻る。

 これ以上はわらわが居ても邪魔なだけじゃからな。

 そうして暫く歩き、一度だけちらりと振り返ると二人はぎこちなくじゃが話をしておった。


「あとはなる様になるじゃろ」


 ◆


「カイル、はいあーん」


「や、やめろよ母さん! 俺はもう15だぞ!」


 翌朝、食堂にやって来ると母親に抱っこされて餌付けされる勇者の姿があった。


「おーおー、随分と仲良くなったようじゃのう」


「おい魔王! 助けてくれよ! さっきからずっとこの調子なんだ!」


「あら、おはようございます」


 渋面の勇者に対し、母親は満面の笑みで挨拶をしてくる。


「うむ、その様子じゃとお互いのわだかまりは消えたようじゃの」


「はい、あれから沢山お話をして、この子は間違いなく息子のカイルだと確信しました」


 おお、それはよかったのう。


「それによく見るとこの姿のカイルは夫の小さい頃によく似ています。呪いで姿が変えられていても似る所はあるんでしょう」


「ほう、そうじゃったのか」


 成程のう。呪いで別の姿に変えられたとはいえ、同じ人型ならランダムで変わるのでなく元になる何かがあるのかもしれん。


「これは呪いの解除に繋がるかもしれんな」


「それはいいんだけど、いいかげん子供扱いは止めてくれよ!」


 などと言っておるが、今のカイルは小さな子供。母親の膝の上にすっぽり良い具合に乗っておる。


「だってあなたと引き離されたのもこのくらいの頃だったし、そう思うともう一度カイルと親子をやり直せるのねと思っちゃって」


「うっ、それはまぁ、うん」


 それを言われると弱いのか、カイルの抵抗が弱まる。


「ほほう、成る程のう。その年齢になったのも何かしら過去の記憶が影響しておるのかもしれんな。これも興味深い」


「ってお前もいい加減にしろよ! 人の不幸を実験台みたいに言いやがって!」


「こーら、駄目よカイル。女の子をお前だなんて。ちゃんと名前で呼んであげなさい。本当にありがとうございます。マオウさん」


「もしかしてわらわ、マオウって名前だと思われとる?」


 ともあれ、勇者親子は無事さいかいを果たし、親子の絆を取り戻した訳じゃ。

 めでたいのう。


「あとは……あの娘じゃのう」

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