第151話 魔王、獣の部下と従者の対面に首をかしげるのじゃ
午前中にゴタゴタしていたので更新が遅れました。
「ワフ」
「「……」」
朝食を終えのんびりとしておると、何やらパルテームが住人に絡んでおった。
「何を……ああ、あの子供等か」
あの子供達はエプトム大司教の呪いで魔物に姿を変えられた獣人の子供達じゃな。
「わふぅ~クンクンクン」
「「あ、あの……一体何を?」」
パルテームは獣人の子供達をゆっくりと回りながら観察? をしておるが、ジロジロと見られておる子供達は居心地が悪そうに困惑しておった。
ふむ、自分以外の獣人が居る事に興味を抱いたか?
「そういえばあの子供達の親はまだ見つかっておらんのじゃよなぁ」
メイド隊が情報を集めておるが、あの子達は幼いがゆえに説明も要領を得ず、故郷探しは難航しておった。
とはいえ、元人間の国からそれほど離れた場所にあるとは思えんのじゃがな。
「そうじゃ、パルテームの伝手が使えるかもしれんな」
パルテームは狼獣人の中でも特別な存在とされる月狼じゃ。
その立場と魔王国の幹部の地位を使えばあの子達の家族なり親戚なりを見つける事が出来るかもしれん。
「パルテームよ」
「ワフ? 魔王様!」
わらわが声を掛けると、パルテームはあっさり子供達への興味を失い、パタパタと尻尾を振りながらこっちにやって来る。
「よしよし」
「わふぅ~ん」
ふふふ、こうしておると大型犬に懐かれているような気になるのう。
「ちとお主に頼みたいことがあるんじゃ」
「ワフ? 何ワフ? パルにお任せワフ!」
うむ、頼りになる奴じゃ。
「実はこの子達なんじゃが、邪神の眷属の所為で親と離れ離れになってしまったのじゃ」
「ワフ!? 家族と離れ離れになったワフ!? 可哀そうワフ!」
群れを大事にする狼系の獣人だけあって、パルテームは子供達に同情のまなざしを送る。
「じゃからな。お主の伝手を使ってこの子達の家族を探してほしいのじゃ」
「ワフ? パルの伝手ワフ?」
「うむ。お主の伝手で獣人達に協力を仰いでほしいのじゃ」
「ワフ……」
しかし何故かパルは困惑の表情を浮かべる。
「どうしたんじゃ? 月狼であるお主なら種族の違う獣人達も耳を傾けてくれると思うのじゃが?」
もしかして種の違う獣人相手じゃと月狼の権威が通じんかったりするんかのう?
「ワフ、魔王様……」
パルテームは困ったようにキューンと鳴くとわらわに告げる。
「この二人、獣人じゃないワフよ」
「「っ!!」」
「……なんじゃと?」
この二人が獣人ではないとな!?
じゃがこの二人には獣の耳と尻尾が生えておる。
どうみても獣人ではないか、そう反論しようとしたわらわは見てしまった。
「「……」」
獣人ではないと言われた二人が明らかに動揺している姿を。
「……まことなのか?」
「ワフッ、この二人の匂いは仲間じゃないワフ」
遠く離れた遠方の島にいるわらわの匂いを嗅ぎつけるパルテームが目の前にいる者の匂いを嗅いで否定した。
ならば疑う理由はない……か。
「ではお主達はいったい何者なのじゃ?」
見た目は獣人であるにも関わらず獣人ではない。
そのような種族は聞いたことも無い。
「お、俺達は……」
と、男児の方が絞り出すように声をあげる。
「……ぁ」
「大丈夫だ。俺が言う。俺が言うべきなんだ」
と、心配の声を上げた女児を宥めて再びこちらに視線を戻す男児。
ふむ、何やら訳アリのようじゃな。
「俺達は……人間だ」
「人間とな?」
しかし人間ならばその姿は一体。獣人との間に生まれた子供だとしても獣人の血を引く者と認識されるはず。
「俺達は人間だった。けれどエプトム大司教に呪いをかけられて魔物に変えられた。そしてアンタに救われて呪いが解けたと思ったら、こうなっていたんだ」
「なんじゃと!?」
呪い、そうか! エプトム大司教の呪いが原因であったか。
「呪いが解けたら人間に戻ると思っていた。けれどそうはならずにこんな姿になっちまったんだ」
「ふぅむ、呪いがのう。その様な事例は聞いたことも無いが」
「本当なんだ!」
「ああ、疑っているわけではない。ただ前例がないと言う話じゃ。通常呪いが解ける時はきれいさっぱり消えるものなんじゃよ。呪いも魔法の一種じゃからな」
わらわは男児に呪いについてかみ砕いて説明する。
「例外としては回復魔法があるが、これには2種類あって、生き物が本来持つ治癒能力を促進させて傷の治りを早くするものと、肉体が記憶している本来の自分の形に戻す変身魔法に近いものがある」
「回復魔法ってそんな仕組みだったのか?」
「うむ。ただ後者の魔法は一気に治す分使用者の生命力を大幅に削る為、病気の治療の際には前者の魔法が使われることの方が多いの。お主が知らんのもその所為じゃ。そして後者の回復魔法は形が変わるという意味では変身魔法に近いが、自分本来の姿に戻る効果の為魔法が切れても怪我をした状態に戻る事はない。これが呪いとの違いじゃな」
おっといかんいかん、話がズレてしまったな。向こうでテイルが話に加わりたそうにこちらを凝視しておるわ。
「ともあれそういう訳じゃから呪いが解けた際に中途半端に呪いが残るということは本来ありえんのじゃ」
「でも実際に俺達は……」
「う、うむ。おそらくは邪神の眷属の呪いだからじゃろうな。わらわ達も知らぬ何らかの効果を発揮し続けておるのじゃろう」
正直それがどのような効果なのかを知るには専門家の協力が必要なんじゃが、その為には本国に居るある者達の協力を仰ぐ必要があるんじゃよなぁ。
「あ奴らに協力を仰ごうとすると、最悪わらわの所在がバレてしまうしのう」
一応、魔法の専門家としてリュミエに協力を仰ぐという選択肢もあるが、あ奴に貸しを作るのは避けたいのう。
「その呪いってのは解かないとマズいのか?」
「ん? んー、そうじゃなぁ、専門家に調べて貰わんとなんともいえんが、現状では悪いものは感じぬしすぐに悪影響が出るようなものでもないじゃろう」
とはいえ、得体のしれんものが自分の体をおかしくしている事は気分が良くないじゃろう。
なるべく早いうちに詳しく調べた方がよいのう。
「分かった。なら俺達はまだしばらくこのままでいい」
「何?」
てっきり早く元に戻りたいと言うと思って居ったんじゃがな。
「俺達はエプトム大司教に呪われる前は無実の罪を着せらせて追われていたんだ。だから今元に戻っても戻る場所がないんだ」
「ほう、そうなのか?」
ふむ、無実の罪のう。一体何があったのやら。
この状況なら素直に教えてくれるやもしれんが、個人の事情を根掘り葉掘り聞きだすのも趣味ではないからのう。
「一つ頼みがある」
「なんじゃ?」
「俺達の正体を知っても、この子だけは助けてあげて欲しい」
「それはっ!?」
女児が何かを察するも、男児はそっと女児の口に指をあてて沈黙を促す。
「俺達に帰る場所はないし、素性を知られたらアンタも俺を生かしてはおかないと思う。でもこの子は違うんだ。生きる為に俺と一緒に居ただけなんだ。だから、見逃してやって欲しい」
「ふむ」
随分と覚悟が決まっておるな。
それだけ重大な秘密を抱えておるという事か。
「よかろう。その心意気に免じて、その娘は見逃すと約束しよう」
「感謝する」
さて、この男児の正体はいったい何者か。
人間であることとここまで覚悟を決めているということはおそらくエルフ国に滅ぼされた人族の国の貴族の子息といった所かの?
「俺は、いや僕の名はカイル。貴方達に勇者と呼ばれていた人間です」
「……なんじゃと?」
この男児が、勇者じゃと!?