第150話 魔王、魔物達のお嬢の実力を示すのじゃ
「ワフ!」
「キュウ!」
「ピー!」
「ポン!」
パルテームが一咆えすると、島の魔物達が号令に応じるように鳴き声をあげる。
「よーし皆、冒険にいくぞー!」
「「「「おおーっ!」」」」
「あっという間に馴染んだのう」
パルテームと島の魔物達はすっかり仲良しになっておった。
ビッグガイ達の様な島固有の好戦的な魔物達は一勝負しない事には納得せんと思って負ったのじゃが……
「ヘヘッ、俺達も馬鹿じゃありやせんからね。戦って勝てない相手くらい分かりやすぜ」
いや、初対面の時思いっきりわらわに挑んできたよな?
もしかしたら獣人が相手の場合、強さを感じ取れるのかもしれん。
野生同士の共鳴でもあるのじゃろうか?
ともあれ仲良くなるのは良い事じゃ。
「師匠師匠」
とテイルがわらわに手招きしてくる。
「どうしたんじゃ?」
「いえ、パルテームさんって師匠の国の幹部なんですよね?」
「うむ、その通りじゃ」
「って事はあの人も強いんですか? 何か凄い魔法が使えるとか」
ああ、魔法大好きのこ奴としてはパルテームが何か珍しい魔法を使えんか気になったのか。
「一応使えるぞ」
「おお! やっぱり!」
「パルテーム!」
「ワフッ!」
わらわが呼ぶと、魔物達と遊んでいたパルテームが一瞬でわらわの下へとやって来た。
「はやっ!? 全然見えなかったんですけど!?」
「魔王様、ご用ワフ!?」
「わらわではなくこっちのテイルがお主の力を見たいそうじゃ」
「ワフッ! パルの力を知りたいワフ!?」
「は、はい。パルテームさんの魔法を見てみたいなって」
「ワフ? パルは魔法なんて使えないワフよ?」
「ええ? でも師匠が……」
パルテームの言葉にテイルがどういう事かと目を丸くして見つめてくる。
「パルよ、お主の得意なアレを見せてやると良い」
「ワフッ! 分かったワフ!」
「おっと、ここでやるではないぞ。砂浜で海に向かってやるのじゃ」
「分かったワフ! ついてくるワフ!」
言うや否や猛スピードで砂浜に向かって駆けてゆくパルテーム。
「わわわ、待ってくださいよー!」
そうしてわらわ達が到着すると、パルテームは待ちきれないとばかりにピョンピョンと飛び跳ねておった。
「師匠、パルテームさんは魔法を使えないって言ってましたけど……」
「それは今からする事を見ていれば分かる」
わらわは百聞は一見に如かずとパルテームを指さす。
「それじゃあいっくよー!」
そう言うとパルテームは腰を沈め、力を貯めるように呼吸を深くする。
「すぅーーーーー、フンッ!」
次の瞬間、パルテームの肉体に膨大な魔力が宿った。
「これは!?」
「身体強化魔法の一種じゃ。ただし密度はその比ではないがな」
パルテームの発動させた身体強化は、通常の魔法の数十倍の密度を誇っておる。
普通の身体強化が布の服を纏うとしたら、パルテームの身体強化はミスリルの鎧で身を固めるに等しい。
「あれは……魔力が集まり過ぎてまるで物質になったかのようです……」
おお、察しが良いな。高密度の魔力は物質になったかと錯覚するほどに物理的影響を及ぼすようになる。
それを一瞬ではなく発動中ずっと影響するのじゃから圧縮された魔力の量たるや推して知るべしじゃ。
じゃが、パルテームの力の真価はこんなものではない。
「それじゃあいくワフよーっ!」
パルテームが態勢を変え、前傾姿勢になり、片足が地面を引きずりながら後ろに下がる。
そうして獣が獲物を狙うかのような体制になった瞬間、その体が光になった。
「ワフッッッッ!!」
ボンッという爆ぜる音と共にパルテームの体が光を帯び水面を割って前に跳んで行く。
前方に向かって行われた跳躍はもやは飛翔と言っても差し支えの無い速度じゃ。
そうして、パルテームの体が海の上に飛び出すと、更に激しい爆発音とともに海面がはじけ飛んだ。
パルテームを中心に海が円弧を描いで消失したのじゃ。
「え!? 何が!?」
「パルテームが身に宿した属性魔力に触れた水が吹き飛んだのじゃ」
「水が吹き飛ぶ?」
「うむ、パルテームの体が高密度の身体強化魔法で圧倒的強化をされておるのは見てわかったな? では体に纏う魔法に触れた物質はどうなる? それがあの光景じゃ」
「あっ、もしかしてあの魔法の状態って……」
おお、分かったようじゃな。テイルもなかなか成長しておるようじゃ。
「あれだけ高密度の魔法を身に纏っているということは、実質大威力の放射系魔法をその場に留めているという事ですよね」
「うむ。攻撃的な属性を帯びた魔力とは、言ってみれば刃が埋め込まれた鎧に等しい」
つまり今のパルテームはただつっ立っているだけで常時周囲に攻撃している事になるのじゃ。
「攻撃と防御を高度なレベルで両立させる魔法の鎧、それがパルテームの魔法の正体じゃ」
自分の周囲の水を吹き飛ばし、海の中に水の無い空間を維持し続ける事は、常にそれだけの魔力を消費しているという事でもあり、それ故にパルテームの異常さが目に見えて分かる。
「でもパルテームさんは魔法を使えないって……」
「うむ、本人に魔法を使っておる自覚が無いからの」
「へ?」
「魔法の才がある獣人には魔法を理論ではなく感覚で使う者がおるのじゃ。発動も無意識に行っておるゆえ、自分が魔法を使って居る自覚が無いんじゃよ」
まぁそれだけでは説明がつかないことも多いのじゃが、パルテームの魔法のからくりはだいたいこんなものじゃ。
「ワフン! パルの業はどうだったワフ?」
戻って来たパルテームがえっへんと自慢げに胸を張る。
「えっと、凄かったです……」
「ワフッ! そうワフ! パルは凄いワフよ!」
褒められてご満悦のパルテーム。
一見するとほほえましい光景なんじゃが、一国を統治していた者としては感覚で大魔法級の魔力を身に宿す連中が気分で大暴れするのは本当に厄介なんじゃよな。
実際パルテームが本気で喧嘩を始めると、被害がとんでもなかったからのう。
「しかも他の属性も使えるんじゃよなぁ」
不幸中の幸いじゃったのは、パルテームが本気を出して喧嘩をするような相手なぞ、そうそうおらんという事か。
ああ、そう考えるとこの島に来たのはパルテームが大暴れせずに済むと言えるかもしれんのう。