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第149話 魔王、部下の嫉妬に巻き込まれるのじゃ

「グルルルル! いじわるのリーメイア!」


「あらあら、意地悪なんてしていませんよ。魔王様の忠実な部下としての節度の話をしただけです」


 そうじゃった。この二人はすっごい仲が悪いんじゃった。

 かたや野生の強いルール無用の獣人系、かたや規律を重んじる城のメイド。

 仲が良くなる理由が無いんじゃよなぁ。

 しかもこやつ等……


「魔王様を嗅ぐのは側近中の側近である私のご褒美なのです」


「がう! 魔王様の匂いはパルのだー!」


 やたらとわらわに纏わりつくのが好きなんじゃよなぁ。


「ええい、いい加減にせんか」


「ああん」


「きゅうーん」


 わらわを挟んで喧嘩を始めた二人を引き剥がすと、揃って残念そうな声をあげる。


「それでパルテーム、お主何しに来たんじゃ?」


「魔王様に会いにきたワフ! 魔王様全然お城に帰ってこないから寂しかったんだワフ!」


 まぁそんなところじゃろうなぁ。

 パルテームは純粋にわらわの強さと魔力を好んで仲間に加わった獣人系魔族じゃ。

 完全に個人的な理由でわらわのそばにいるため、国への帰属意識は全くなく、権力欲などとも無縁の存在なのじゃ。


 ただ狼系の獣人のような群れを形成する獣人族は強さこそ全ての風潮がある為、最強を求めて上の者に下克上を挑む性質が権力欲に近いとも言える。

 しかしパルはそんな狼系獣人にとって信仰対象である為、下克上とも無縁なんじゃよな。

 まぁ戦っても負けない程度に隔絶した実力があるんじゃが。


「ではこれからどうするんじゃ? わらわの島は他の者には内密にしている故、帰るなら秘密にしておいてほしいんじゃが」


「ワフ! 魔王様と一緒にいるワフ!」


「そうかそうか」


「キュウーン」


 わらわがワシャワシャするとパルテームは嬉しそうに目を細める。


「ここで暮らすのは構わんが、部下達にはちゃんと誤魔化しておくんじゃぞ」


「ワフ! ちゃんと魔王様を探しに行くって言っておいたから大丈夫ワフ!」


「何じゃと?」


 わらわを探しに行くと言ったじゃと?


「ワフ! 魔王様の匂いは元気だから、探してくるって言ったワフ!」


「あっちゃー」


 それはイカン。パルテームの追跡能力はそこでワナワナしておるリュミエールも驚愕の天性の超越能力じゃ。

 そんなパルテームが断言したのなら、こやつに従う狼系獣人族は真実だと確信するじゃろう。


「まずいのぅ。噂が広がる前に口止めをせんといかんか」


「それでしたら魔王国に潜んでいるメイド隊を仲介役として遣わせましょう」


「おお、頼むぞメイア」


 流石メイアじゃ。自国にも部下を多数潜ませておくのはどうかと思うが、まぁ国家運営とはそう言う側面もある故何も言うまい。


「ふふっ、お任せください。そこの口の軽い幹部様のミスは私が尻拭いいたしますので」


「ガウ! パルはリーメイアにお尻を拭いてほしくなんかないぞ!」


 そう言う意味ではないぞー。


 ◆


 数日後、パルの部下達の下へ向かったメイド隊からの連絡が入った。


「リンド様、メイド隊からの連絡がありました。部下が接触したところ、パルテーム様に従う狼系獣人の幹部達はある程度察していたとの事です。そのうえで自分達はリンド様の事を吹聴するつもりはないとの事です」


「ほう、それはありがたいが何故じゃ?」


「彼等はリンド様程のお方が簡単にやられる筈がないと考えていたそうです。それも根拠のない勘ではなく、リンド様が宰相の謀反に遭った日に王城に居た者がリンド様の魔力の匂いを感じ取った事が理由だそうです」


「なんと」


 わらわの魔力の匂いを察知されておったか。わらわの匂いではないぞ。


「宰相の言う通り勇者に封印されたのなら、あの日にリンド様の匂いがする訳がない。だから何か裏があると考えて沈黙を保っていたそうです。そして今回のパルテーム様の件でリンド様の生存を確信、何か理由があると考えて箝口令を敷いていたそうです」


 おお、なにやら久方ぶりに真っ当な家臣の行動を見た気がするぞ。

 まぁパルテームの部下は天真爛漫なこやつに振り回されておるからな、その分気苦労が耐えんのじゃろう。


「これは改めて礼をしてやらんといかんな」


「でしたらラグラの実の差し入れなどどうでしょう。ダンデライポンやエルフ達の手入れによってラグラの実の効能は更に上がっていますから、彼等も喜びますよ」


「ああ、ラグラの実か。うむ、それはよいの。よろしく頼む」


「はっ!」


 しかしラグラの樹か、あれも不思議な樹なんじゃよなぁ。

 ただでさえ高級ポーションの材料になると言うのに、手入れをされるようになってから更に効能が上がった。なんなら普通に食べるだけでもちょっとしたポーションのような効果まで出るようになってきたからのう。


「できたらラグラの実を研究する人間も招致したいもんじゃ」


「それと、パルテーム様の部下から言伝が」


「む? 何じゃ?」


「わざわざ言伝とな?」


「吸血鬼系の幹部もリンド様がご健在である事を感づいている節があるとの事です」


「ああ、連中か。まぁあ奴等なら察してもおかしくないの」


 吸血鬼系の種族は色々と情報網を持っておるからの。

 何かしら気付いていてもおかしくなない。

 何より、今の一族の当主は一族随一の切れ者じゃからなぁ。別の意味でも切れ者じゃが。

 

「そして今現在次期魔王の座を求めて動いている者達は、魔王様生存の可能性を考慮できない短絡的な連中ばかりで、決定的な証拠を見つけるまでは中立を保っている者が多いとの事です」


 ほほう、意外と我慢が効く者が多かったんじゃな。

 昔はもっと短絡的に動く者が多い気がしたんじゃが、世代交代で落ち着きのある者が増えたのかのう。


「ですので獣人系の種族で勝手に動いている者達に自分達は一切関与しないとの事です」


 あちゃー、同族から梯子を外されておるではないか。憐れな連中じゃ。


「最後に、自分達はパルテームに仕えております。故にパルテームがリンド王様へ忠誠を誓い続ける限り自分達もリンド様へ忠誠を誓うとの事です」


 成程、あくまでも忠誠を誓っているのはパルテームで合って魔王ではないと言いたいわけか。


「お主は愛されておるのう」


「ワフ?」


 つまりパルテームを泣かしたら承知せんぞと言っておるわけじゃ。

 くく、過保護な保護者達じゃのう。

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― 新着の感想 ―
自制が出来る部下と幹部が多い事。それ以外は実に残念な行動をしてる者は見限られてる哀れさよ
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