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第147話 魔王、品種改良を楽しむのじゃ

「魔王さまー、こっちこっちー」


 毛玉スライム達の平坦な声に引っ張られながらわらわはついてゆく。


「ラグラの実がたくさんあるよー」


「うむ、そうじゃな」


 今日は皆と共に果物狩りに来ておる。

 新たに島にやって来たエルフ達は、植物をより良く育てる為の高い知識を有しておった。

 エルフ達はその知識を生かして島の畑や果樹園で育てていた植物の手入れを手伝ってくれたのじゃ。


「見てくだせぇ魔王様、こんなデカいラグラの実は初めてでさぁ!」


 と、ミニマムテイルのビッグガイが興奮気味にわらわに収穫したラグラの実を差し出してくる。


「おお、確かにこれは大きいのう」


「味も絶品ですぜ!」


 誇らしげに胸を張るビッグガイ。


「うむ、では頂くとしようか」


 すっと横から現れたメイアがラグラの実の皮をむき、等間隔にカットしたものを皿に乗せる。

既にカットした実には手を汚さぬように小さい串が刺さっておる気の遣いようじゃ。


「……ほう、これは確かに美味いの」


 大きな実じゃが、水っぽくも大味でもない。ぎゅっと甘みが凝縮されておる。


「ふむ、確かに美味いな」


「我には小さすぎる故纏めて頼む」


 見れば聖獣コンビも食べに来ておった。


「我々にも量が少ないな。もっと大きな実があると良いのだが」


「でも甘くておいしい!」


 その横ではこれまた巨大なグランドベア親子たちの姿もあった。

 グランドベア達は大きな鍋に纏めて放り込まれたラグラの実をザラザラと口の中に放り込んでその味を楽しんでおった。

じゃがあの巨体では鍋一杯に食べても量が足りぬようじゃ。


「あらあら、これでは数が足りないですね。超大型種族用にもっと大きな実をつけるよう品種改良が必要ですか。ですがそうなるとどうしても味が犠牲になってしまいますね」


 と、グランドベア達の食べっぷりに困った様子で返すのはリュミエじゃ。


「我々はこの大きさ故満足に食べれぬ。それゆえ甘いものを腹いっぱい食べれる事の方が重要だ。味よりも量で頼む」


「わかりました。貴方がたが満足できる量の実を実らせる木を育ててみましょう。ですがそれなりに時間がかかるのでお待ちください」


「感謝する。我々が生きている間は無理でも我が子の代に間に合うとありがたい」


 ふふ、自分の事よりも子を優先するあたり親じゃのう。


「ご安心を。そう待たせるつもりはありませんよ」


 そんな感じで新たな収穫物を楽しんでおると、メイド隊から緊急の報告があがってきた。

 いやメイド隊だけではない、リュミエの方にもおつきのエルフが何やら報告しておる。


「リンド様、人族、いえ元人族の国だった領域内にある教会に我が国の幹部達が襲撃を企て、エルフ達によって捕縛されました」


「なんじゃと?」


 幹部が教会を襲撃?

 そしてそれをエルフ達に阻止されたじゃと?


 わらわはちらりと視界の隅で部下からの報告を受けるリュミエに意識を割く。

 このタイミングで報告を受けているということは同じ内容であろうな。


「理由は……もしや神器か?」


 現在の魔王国は王であるわらわが出奔したことで主不在の状況じゃ。

 それゆえ勇者を倒したものが次代の王になるというで幹部達は活動しておったのじゃが、人族は自分達が擁立した勇者を反逆者の汚名を被せて逃げられてしもうた。


 しかも人族の国は次代の勇者を決める前にエルフの国に支配されてしまったのじゃから、幹部達は目標を失って宙ぶらりんとなっておった。

 そこで新たに人族が勇者達から取り上げた神器を手に入れた者が新たな魔王となる事で合意したとの事じゃったから……


「神器がどこかの教会に隠されている筈と考え、幹部達は教会を襲撃した訳か」


 じゃがその企みはエルフ達に察知されており、あえなく返り討ちにあったと。


「どうやらそちらも同じ案件で報告を受けていたようですね」


 と、報告を聞き終わったらしいリュミエがやってくる。


「そのようじゃな。まぁわらわは王座を退いた故、責任を問われても何もせんぞ」


「そのような真似は致しませんよ。今の魔族は頭を失って盲目で動く生き物ですからね。わたくしたちにとってはこのままの方が都合がよいです。間違ってもせっかくいなくなった頭が体に戻るような事はいたしません」


「ではどうするつもりじゃ?」


 少なくとも今回の件、エルフの支配領域で魔族が押し込み強盗の様な真似をした訳で、エルフとしては宣戦布告に等しい行いといって間違いない。


「捕えた魔族についてははっきり魔王国に苦情を言うつもりですよ。魔族としても勝手に強硬策に出た挙句捕まった者達を擁護することも無いでしょうからね」


 確かに、今の我が国の幹部達は魔王の座を奪い合うライバル同士じゃ。

 そんな相手をわざわざ助ける義理もない。


「しかしそれでは利益にならんじゃろ」


「いえいえ、我が国の兵が魔王国よりも優秀であると世間に喧伝できますし、少なくとも捕えられた者達の派閥は救出のために交渉に出ざるを得ないでしょう」


 なるほど、実利よりも名声を得る為か。

 人族の国をたやすく下し、その人族の国が長年苦戦していた魔族をも退けたとあれば、周辺国も余計な手出しを出来ぬことじゃろう。

 もっとも、本音を言えば制圧した人族の国の完全掌握の為の時間が欲しいからじゃろうな。

 完全勝利と言って差し支えの無い人族との戦争じゃったが、それでも手に入れた国を支配するには時間がかかるものじゃ。


「まぁ詳しいことは本国の妹達が詰めますので、私は引退した者として、グランドベア用の巨大ラグラの実の研究をするとしましょう」


 と、面倒ごとを妹のクリエにぶん投げ、リュミエは作物の品種改良に戻っていった。

 向こうは向こうで後進の育成に熱心じゃのう。


「やれやれ、これはヒルデガルドが悲鳴を上げるのう」


 あー、王位を退いて本当によかったのう。

 面倒な騒動に煩わされぬというのは本当によいものじゃ。

 頑張るのじゃぞヒルデガルド。祖国の平穏はお主の両肩にかかっておる!

 わらわは遠く離れたこの土地で慎ましやかに生きていくでの。

 遠いどこかでヒルデガルドの悲鳴が上がった気がしたが、きっと気の所為じゃろうて。

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― 新着の感想 ―
まあ自分の方が魔王として相応しい。と反乱したんだから自業自得の頑張れってやつねw
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