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第146話 魔王、神器の噂を聞くのじゃ

「次期魔王の座を奪い合う為に神器を探しておるとな?」


 午後の日差しに照らされながら毛玉スライム達と戯れておると、メイアから魔王国の動きについて報告が上がって来た。


「はい。人族の国がエルフの国に制圧され勇者も行方不明になった事で、宰相達は彼等が使っていた神器を手に入れた者が次期魔王とすると」


「なんともまどろっこしいのう。王の座を得たいのならその場で誰が一番強いか決めればよいだけじゃろうに」


「おっしゃる通りで」


 魔族は多種多様な種族の集合体じゃ。

 それ故価値観の違いからくる衝突も多く、結果として拳で誰が強いか決めるのが一番手っ取り早いのじゃよ。

いや、決して脳筋という訳ではないぞ。ちゃんとわらわのように話し合いが得意な者も多いのじゃよ。


「しかし王座不在の期間が長くないかの? その所為か情報の統制がとれておらぬのではないか? ヒルデガルドもお主を警戒してメイド隊経由で情報が漏れぬようにしておらぬのか?」


「宰相が警戒しているのは城に残った一般メイド達ですので、人員不足から新たに雇われた新人は警戒しておりません」


「あー、そう言う事か」


「そういう事です」


 つまりメイアはメイド隊のメンバーを新規募集のメイドとして再度就職させたらしい。


「しかしバレぬのか?」


「名前と髪型と印象を変えれば案外バレないモノですよ」


 ほほう、そういうものか。

もしかしたらわらわの傍にもそうやって知っておるメイドが潜んでおったのかもしれんのう。

 いやそう考えると怖いな。


「その情報ならわたくし共の国でも掴んでいますよ。魔族が纏まらないのなら我々にとっても有益なので放置していますが」


 と、近くでミニマムテイル達に果物を与えていたリュミエが会話に混ざって来る。

 というかエルフの国にも情報が筒抜けとか、祖国大変な事になっておらんか?


「ということは神器の場所は分かっておるという事か? いやそもそもお主等が確保しておるのか」


 しかしリュミエは首を横に振る。


「いいえ、わたくし共の手の者が徹底的に人族の国を捜索しましたが神器は見つからなかったそうです。勇者達から神器を取り上げた後で即どこかに運び出されたようです」


「ほう、お主等でも分からんのか」


「お恥ずかしながら」


 植物の力を借りて偵察や監視が出来るエルフの目を掻い潜るとはな。

 となれば神器を運んだのは人族の国の人間ではないじゃろう。


「となると教会総本山の手の者か」


「そういえば総本山ってどんなところなんですか?」


 わらわ達の話を黙って聞いていたテイルがふとそんな事を聞いて来た。


「む? テイルは知らんのか?」


「はい、王都にある教会よりも大きいんですよね?」


  ふむ、確かに自分達の住む町や村から出ぬ者にはあまり想像できんか。

 まぁここはテイルの教育がてら説明してやるとするかの。


「教会総本山、それはこの世界を産み出した神々に仕える宗教の本拠地じゃ。種族、国家から切り離された殉教者だけの独立都市国家であり、邪神の脅威から地上の民を守る為の世界的共同体なのじゃ。彼等自体は国を名乗っておらんが、確固たる自治を行い外敵から民を守るその姿は国家と言って差し支えない」


「ほえー、すっごくデッカイ組織なんですねぇ」


宗教と言うと権力争いなどの腐敗を思い浮かべる者も多いじゃろうが、教会総本山に限って言えばその心配はない。少なくとも今のところは。


「というのもかつて教会総本山は長く続いた事で腐敗が横行しており、それが原因で内部に邪神の使徒の手の者が入り込み大変なことになった事があるのじゃ」


「ええ!? そんな話聞いたことないですよ!?」


「そりゃそうじゃ。あまりにもデカすぎる不祥事故、人の口に上らなくなってしまったのじゃ」


 何せこの世界の住人にとって邪神とは世界を滅ぼす存在。それにいいように利用されたとあっては神の僕たる教会の信用に関わる。

総本山は邪神の使徒に対抗する為に作られた組織じゃったが、その内部が敵の手に落ちればどうなるかは火を見るよりも明らかじゃった。


「具体的には『邪神との戦いで重要な役割を持つ国が裏では邪神の手に落ちた、世界を滅ぼす為の邪悪な魔法儀式が行われている。教会総本山の名において全世界に聖戦の宣言を行う』と通達し、それを信じた国々が世界を守るために総攻撃を行ってしまったのじゃ」


「ええーっ!? 冤罪で滅ぼされたんですか!?」


「いや、その時は教会の行動を訝しんだ少数の勇士たちのお陰で国が亡びるギリギリで真相が判明して事なきを得たのじゃ」


 実を言うとわらわも多少関わっておったんじゃよ。まぁ言わんけど。


「そ、それでどうなったんですか?」


 テイルが続きを早くと子供のように急かしてくる。


「辛うじて滅亡を避けられたものの、責められた国は大きな打撃を受けて復興には長い時間がかかる事となり、同時に教会総本山の信用は地に落ちた。当然その国は教会総本山に対して莫大な賠償を請求し、更に教会勢力からの脱退を宣言。しかも新たな教会勢力の創設を宣言したのじゃ」


「じゃあそれが今の教会総本山って事ですか?」


「いや、ちょっと違うのじゃ。この宣言を受けた各国はこぞって同調した。まぁ邪神との戦いにおいて重要な役割を担っていた国を攻めるよう仕向けたのじゃから当然じゃな。しかも腐敗しきっていた教会は多くの国に圧力をかけて栄華を極めておった故、酷く恨まれておったのじゃ」


「うわぁ」


 で、慌てた教会の者達は腐敗していた司祭達を大々的に粛清。

 更に不正に協力していた商人を捕らえ、同じく不正に加担していた権力者達の情報を各国に提供する事で教会にはまだ自浄能力がある事をアピールしてギリギリ滅ぼされずに済んだのじゃ。まぁ責任を上に押し付けたとも言えるの。


「といっても被害を受けた国は温情で許したわけではなく、単に新しい組織を一から作り出すには各国の思惑が絡みすぎる故、粛清が相次ぎスカスカになった教会総本山を再利用する形にしたのじゃ」


「再利用ですか? でもそこまで悪名が轟いたのなら、もう新しい組織にした方がいいと思いますけど」


「まぁその辺は各国が教会総本山を監視しているからもう安全とアピールしたんじゃよ。それによって自分達の発言力も高められるしの」


「それ、結局新しくなった教会も権力でズブズブじゃありません?」


「これまで独立していた教会に首輪をつけた事で、ある程度暴走を事前に止めれるようになったのは大きいじゃろ。複数の国が監視に絡んでおるゆえ、1、2国が腐敗しても他の国が許さんからの」


「さらに言うと新しい組織を一から作ると、国力の強い国や組織設立に予算を多く出した国の発言力が高くなります。ですから旧来の教会を利用して再建予算を最低限にすることで発言力を調整したのです」


 と、リュミエがテイルに教会を利用する利点を教える。

 つまり各国が横並びになって権力争いするのではなく、全員が平等に教会を監視すると言う体で不平等を無くした訳じゃ。まぁ完全には無くならなんだがの。


「という訳で現在の教会総本山の中身は昔とは別物なんじゃよ。常に見張られておるから、昔に比べれば健全な組織を維持できておる。今のところはじゃがな」


 どのみち長く組織が続けば、見えない所でまた腐敗するじゃろうが、それは今の我々が考える事ではない。

 その時代の者達が自分達で何とかする問題じゃ。


「まぁ今の総本山なら神器を手元に置いても悪用はせんじゃろ」


「そうですね。今手に入れても各国の共有財産として共同で管理されることになるかと」


 つまるところ、神器の心配はいらんという事じゃ。


「そう言えばお主、この間の件で思いっきり邪神の使徒と関わっておったが、教会総本山に知られたら大変ではないのか?」


「ご安心を。その事なら事前に教会総本山に話を通し、教会関係者協力の下邪神の使徒の動向を把握する体で許可を得ました」


「さようか」


 流石はエルフの国の実質的な支配者。既に対応済みか。

 とはいえ、それでも邪神の使徒と関わった事は教会総本山にとって要注意人物として……ああいや、どのみちエルフの国の影の支配者としてマークされておったし、そう変わらんという事か。


「やっぱり腐敗してるじゃないですかー!」


 そんな事を話しつつ、わらわ達はつかの間の平和を楽しむのじゃった。

 話題の教会総本山に神器が届けられていないと判明するまで。


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