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第144話 魔王、人族の末路を聞くのじゃ

「ふふ、やはりリーメイア殿の料理は絶品ですね」


 メイド隊の作った料理をリュミエが絶賛する。

 そろそろ昼食を取ろうと言う時に、リュミエが世界獣の仔であるカツラ達の植樹具合の報告にやって来たので、わらわは皆を昼食に誘ったのじゃ。


「おほめに預かり光栄です。そして今の私はメイアですリュミエール宰相閣下」


「これは失礼。そして私の事もリュミエで良いですよ。この島にいる間は」


「畏まりましたリュミエ様」


 リュミエは流石エルフの王族だけあって、綺麗に食べる。

 どこぞのエルフの女王は見習うべきではないかの?


「そういえば人族の国はどうなったのじゃ?」


 エルフの国の事を思い出したわらわは、ふとあの国がついこの間戦った人族の国の事を思い出す。


「王族は処刑しました」


 どうなったと聞いていきなり処刑とは穏やかではないのう。


「ええ!? 処刑ですか!?」


 そしてリュミエの発言にテイルが尻尾を立たせて驚いておる。


「当然でしょう。あの国がやらかした事を考えれば、国土が丸ごと焦土となっていてもおかしくありません」


「エ、エルフの国と戦争をしたから……ですか?」


「あらあら、テイルさんはわたくし達エルフの事をそのように好戦的で血に飢えた種族だと思っているのですぁ?」


「え!? あ、いや、そういう訳ではなく……」


「ではどういう訳なのですか、テイル様?」


 ズズイと身を寄せるリュミエに、テイルがヒィと悲鳴を上げて後ずさる。


「これ、あまりわらわの弟子を虐めるでないわ」


「あら、これは失礼いたしました。ふふふ、ごめんなさいねテイルさん。貴方の反応があまりに素直なので、つい意地悪してしまいました」


 あまり反省していない様子でリュミエは笑みを浮かべると、人族の国がどうなったのか、そしてこれからどうしてゆくのかを語る。


「そもそも神器を国家間抗争に使うなど許される事ではありませんから、その為の見せしめとして王族とそれに関わった側近達の処刑は妥当な判断ですね」


「妥当ですか……」


「ええ、なにしろ地上に生きる命全ての問題ですから。事実神器の件を周辺国に伝えた所、満場一致で王族の処刑について賛成されました」


「ひぇっ」


「そもそも今の人族の国の王族は真っ当に青い血の責務を果たす者がいないようですので丁度良いかと。人族の国の王族は国王から継承権のない遠い血に至るまで一人残らず処刑しました。人族の国の全ての町や村で王家に連なる者と関わった貴族をその罪状と共に処刑。またその正当性を示す為、人族の国の周辺国家及び教会も証人として参加して頂きました」


「教会も動かしたのか?」


 教会は神に仕える者として基本的に国家間の争いには不干渉を自称しておる。

 まぁ、腐敗した内情から全くの無干渉ではないのじゃがな。


「それについてはエプトム大司教の件がありましたから。教会の大司教に邪神の使徒が潜り込み、あまつさえ神器の悪用まで許していたとあっては教会の権威が地に落ちるのは間違いないでしょう。ですので、その件を盾に教会に協力させました」


 まぁ教会としては前代未聞のスキャンダルじゃからなぁ。


「尤も、教会に協力を仰いだのは最後ですので、周辺諸国には全ての事情を説明した後なのですが」


「容赦ないのう。それで神器はどうなったのじゃ?」


 メイド隊からの報告では、勇者達が行方知れずとなる前に神器は教会が没収した事になっておったが。


「教会本部には送られたのは偽装したマジックアイテムで、本物はエプトム大司教の隠れ家に秘匿されていました。ですのでその事を丁寧に証拠付きで説明した後、我が国が預かる事を周辺諸国に同意していただきました」


 うわー、それは教会も恥の上塗りじゃのう。

 まさか戻って来た神器が偽物だと誰一人として気付かなかったとは。


「ふふふ、教会は権力ごっこに熱中していましたからね。実力のある真っ当な精神の聖職者は中央を見限ってもぬけの殻になっていたお陰です。とはいえ、これほどの醜態をさらしたのですから、今の中央と教皇の権威はがた落ち。そう遠くないうちに真っ当な聖職者達が一斉に動き出す事でしょう」


「どうせお主が裏から援助するのじゃろう?」


「元々教会は邪神から地上を守る為の互助組織が前身となった組織です。そろそろ本来の姿に戻って貰いましょう」


「世界が荒れるのう。ここは世俗から切り離された小島で良かったわ」


「ふふ、魔王陛下が治めている以上、ここもすぐに騒がしくなると思いますけどね」


 嫌な事を言うでない。せっかく落ち着けるプライべートリゾートを手に入れたというのに、またぞろ王様稼業など再開してたまるか。

 

「まぁ人族の国は歪んだ教育が原因で民にまでおかしな思想が蔓延しだしていたので丁度よかったかと。今後は近隣諸国を交えて民の教育をやり直すことにします」


「近隣諸国を交えて? エルフの国だけでやらないんですか?」


「テイルさん、私達は人族から見たら侵略者ですよ。たとえ人族の国から戦争を始めたといってもです。となれば私達の教育がどれだけ正しくても、都合の良い洗脳教育だと反発する者達もいる事でしょう。ですから、他国、他種族の協力を得て、かつての王族がどれほど恐ろしい事をしていたのかを民に理解してもらうのです」


「その際の周辺国の利益はなんじゃ?」


 幾ら邪神との戦いの事があるとはいえ、周辺国が無償で力を貸すとは思えぬ。


「周辺国と隣接した人族の国の領地を割譲して譲ります」


「それはまた思い切った手を取ったな」


 戦争で得た領地を他国に譲るなど普通はあり得ん。

 対価として考えても殆どタダで貰ったようなものじゃ。


「あら、妥当な対価だと思いますよ。何しろ周辺国が受け取るのはかねてから手に入れようとして何十年何百年と小競り合いを続けて来た土地です。当然、現地の民には隣国への悪感情があるでしょう。そんな土地を治めようと言うのです。完全なる統治には相応の時間が必要となるでしょう」


 ああ成る程な。つまりリュミエは対価の体で周辺国に火種を押し付けたのじゃな。

 長年争っていた事もあっていつ自分達に牙をむくとも知れない敵国だった民、しかし領地が増える事は国家としてはぜひとも欲しい。

何より領地を持たない貴族、隣接する領地の貴族にとっては新たな領地を得るチャンス。

 欲しくない訳がない。


 人族の国を支配したエルフの国は本来隣接していなかった国家と戦争する懸念を抱くことになる。

 しかし元人族の国を完全に支配する為の時間が欲しい。

 じゃから人族の国の残骸とも言える土地を間に挟んだという事か。

 無論エルフの国に敵対する可能性もあるが、当のエルフの国はとっくに支配権を譲渡しとるし、何より長年の敵と手を組むなどありえない。

 まずエルフの国が先に襲われる事はないじゃろう。


「ちなみに提供する領土はその土地の領主とセットで譲る契約を交わしております。ですのでその土地の領主が領地を失う心配はありません」


 おおう、えげつない事をするのう。

 侵略されたと思ったら敵国の領主にされるとか、その領主達貧乏くじ過ぎじゃろ。

 いやまぁ領地と爵位を奪われるのとどっちがマシかと聞かれた心底悩みそうじゃが。


 さてはこやつ、その領主達に裏から物資の提供をして操るつもりじゃな。

 どちらにせよ、これではエルフの国との戦争どころではないのう。


「ほんに世の中は大変じゃのー」


「ですねぇ。魔王国も大変のようですから」


 なんじゃ? 我が祖国でも何か問題が起きておるのか?

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― 新着の感想 ―
人族の国と教会の末路、意外と呆気なかった。 しかしこれだと、騙されたとはいえ、神器問題の実行犯にされた勇者と聖女は、獣人化して凄い幸運だった気がする。
根元どころか根っこの破片すら残さない容赦なさよ
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