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第141話 魔王、も知らない影の決着なのじゃ

「エルフの同胞もドワーフ達も聞くがよい。まず最初にこれを言っておく。此度の事件は全て邪神の使徒の企みである!」


「「「「っっっ!?」」」」


 クリエの発言にエルフとドワーフの軍隊が双方ともに目を見開いて驚く。

 それもその筈、この世界の住人にとって邪神という言葉は悪い意味で何よりも優先しなければならぬことじゃ。


「それはまことなのかエルフの女王よ!」


 ドワーフの騎士団のリーダーが真偽を問うが、実際にはこの者もクリエの発言が真実であると理解しておる。

 何故なら邪神、そして邪神の使徒はこの世界を滅ぼそうとしている存在。

 そこにエルフドワーフの区別はなく、邪神が関わる出来事は全ての地上の民にとって災いにしかならぬのじゃから。


 ゆえに邪神に関わる事件を偽ることは、たとえ不倶戴天の敵であろうとも禁忌とされておる。


「事実じゃ此度の事件には邪神の使徒が関わっておった。連中の目的は我等を争わせることじゃった」


「では邪神の使徒はどうなった。そしてあの化け物はなんだ! お前達が戦争の為に従えた魔物ではないのか!?」


 邪神に関する真偽は正しいのだろう。だがそれでも納得できぬことはある、とドワーフの騎士はクリエに問う。


「邪神の使徒はわらわ達が倒した。そしてあちらにおわすは世界獣、我等エルフの守護者にして、神代の時代からこの世界に緑を広めし存在。世界獣は地上の民の争いになど興味は持たぬし我等の命令など聞かぬ」


「いままでこのような存在は確認できなかった。それが何故動いた?」


「世界獣よりこの世界に植物が足りぬ土地の存在を感じ取り動いたと聞いた。今はわらわが説得し、その土地を緑で満たすことで世界獣がこれ以上動かぬように留めておる」


「それはどこだ?」


「海の向こうの土地と聞いている。少なくとも我等が領地争いをするような場所ではないじゃろう」


 クリエの回答に、ドワーフの騎士達は疑わしげな様子じゃ。

 邪神の使徒が動いていた事は事実であろうが、どこまでが真実か判断が付きあぐねているようじゃな。


「言っておくが、世界獣が本当に侵略用に従えた魔物なら、お主等の奥の手を破壊した時点でわらわ達はお主等を殲滅しておる。それをしない事こそ我等の誠意と知れ」


「……確かにな」


 そこまで言われてやっと納得、いや部下が納得するのを待っていたのじゃろう。

 ドワーフ騎士団のリーダーはクリエの言葉に頷いた。


「此度は邪神の使徒の策謀ゆえ、お主等の領土侵入に関しては不問とする。祖国に帰り我等に侵略の意図無き事、そして邪神の使徒の策謀があった事を伝えよ」


「承知した。寛大な沙汰を感謝する」


 そう言うとドワーフの騎士団はおとなしく去っていった。

 此度の戦いで味方に犠牲が出たにもかかわらずじゃ。

 だがそれでも彼等は戻らざるを得なかった。

 此度の作戦行動が邪神の使徒の糸によるものと分かった以上、自国に入り込んだ邪神の使徒の魔の手を根絶する事の方が優先だからじゃ。

 邪神の使徒は、地上に害しかなさぬのじゃからな。


 ともあれ、これで世界獣の問題も無事解決したと言えるじゃろう。

 ようやく一息つけるわい。


 ◆邪神の使徒陣営◆


「まったく、ひどい目に遭いました」


 そう疲れた声音で語ったのは、エルフの国でリンド達に倒された邪神の使徒ルオーダだった。

 死んだと思われていた彼女だったが、どうしたことかこうして無事に生きていたのである。


「まったくですね。まさかどちらの勢力にも大した被害を出せずに失敗するとは……」


 そしてルオーダの呟きに応えたのは、ドワーフ達と行動を共にしていた邪神の使徒エプトム大司教だった。

 彼はメイア達との戦いが始まった直後、ドワーフ達の元を離れ秘密の隠れ家へ逃げおおせていたのだ。


「あれ程の好機を無駄にしたとあっては、邪神様に言い訳のしようがありません」


 冷静な口ぶりながら、彼等の声音には苛立ちが見て取れる。


「ですが決して無駄ではありません。ドワーフ達は世界獣への脅威を完全に失ってはいないでしょうし、エルフ達も自国に無断で侵入された上に守護者を攻撃された事に怒っているでしょう」


「そうね、不和の種は間違いなく撒かれた。なら私達は気長にこの種が育つまで他の種族達相手に暗躍していればいい。多くの種族が忘れた頃に再び動けばいいのですしね」


「そういう事です。ふふふふふっ」


「ふふふふふっ」


「ふふふふふふっ」


「「「ははははははははっ」」」


 そこでふと二人は気づいた。

 何故か笑い声が多いような気がすると。


「流石に邪神の使徒はメゲませんねぇ」


「「っ!?」」


 その声に二人は即座に臨戦態勢に入る。


「何者です!?」


「何故ここが!?」


 ここは邪神の使徒しか知らぬ秘密の隠れ家。

 邪な欲望を利用された哀れで愚かな協力者たちすら知らぬ場所なのだから。


「それは簡単です。最初から貴方達を見張っていたからですよ」


 その声と共に、室内の中央に縦の線が走る。

 そして線は左右に開き、中から一人の美しいエルフの女性が姿を現した。


「貴女は……リュミエール宰相!」


 そう、彼女こそエルフの女王クリエの姉リュミエールであった。


「はい、皆さん大好きリュミエールです」


 語尾にハートマークが付きそうな声音と笑顔でリュミエールが名乗る。


「一体何の目的でここに、いえ、そんな事はどうでもよいことですね」


 驚きの表情を浮かべていたルオーダだったが、すぐに冷静さを取り戻す。


「そんな事よりも貴女程の方が一人で来たことの方が重要ですね」


 ルオーダの言う通り、リュミエは一人だった。

護衛の一人も居ない。


「よほど自分の強さに自信があるのでしょうが、我等を相手に迂闊としか言いようがありませんね!」


 ルオーダとエプトム大司教はお互いに指示を出すことなくリュミエを挟み込む位置取りをする。


「あら、挨拶に来ただけなのに戦うつもりなの?」


「ええ、ここで貴女を始末すれば、エルフの国の損害は計り知れませんから。それこそ出来の悪い妹の女王などよりもね!」


 直後、ルオーダの魔法によってリュミエの四方八方、さらに空中から刃が迫る。

 しかしそれらの刃はリュミエに届く前に砕け散った。


「っ!」


「空間座標を指示しての鉱物の生成。手品としては面白いけれど、無駄な魔力消費の多さと構築ラグが弱点ね。雑魚相手の暗殺には便利だったかもしれないけど、実戦向きじゃないわ。それなら身体強化で肉体を強化して素手で殺した方が楽でしょ。ちなみに今のは精製された物質を再度生成前の状態まで崩壊させてみました」


 一瞬でルオーダの魔法の本質を見抜いたリュミエは、即座にそれに対して一番面倒な対応策で応じる。


「なるほど、大したものだ。ですがこれならどうですかな!」


 ルオーダの魔法を無効化したリュミエに、今度はエプトム大司教が呪いを放つ。


「私の全力の魔力を込めた呪いです! 魔法すら使えぬ虫けらになってしまいなさい!」


「あら虫だなんて怖い」


 エプトム大司教の呪いがリュミエの体を蝕む。

 邪神の使徒が全力の魔力を込めた呪いは凄まじい威力を発揮する。

 更に万が一これに抵抗されても、後ろにはルオーダがいる。

 寧ろ呪いに抵抗する事で、ルオーダに圧倒的な隙を見せる事になる。

 それは致命的な隙だ。

 現にルオーダは背中を見せたリュミエを殺すべく動いている。


「でも、その栄誉は彼女に譲るわ」


「え?」


「は?」


 まるで渡された贈り物をポンと隣の人間に渡すような気軽さで言った途端、リュミエではなく彼女に襲い掛かろうとしていたルオーダの肉体が変質を始めたのだ。


「な!?」


「は!?」


 これには二人共訳が分からず間の抜けた声をあげるしかなかった。


「あら隙だらけ」


 あまりにも大きな隙を狙わないのは失礼とばかりに、リュミエはルオーダとエプトム大司教の体に魔法を放った。


「「がっ」」


「はい、核を打ち抜かせて頂きました。これであなた達は二度と復活できません」


 エプトム大司教、そしてルオーダには他の使徒と違い、核と呼ばれる本体が存在していた。

 これは二人が戦闘用の使徒ではなく、密偵や破壊活動を行う為の使徒であったためだ。

二人はこの核さえ残っていれば何度でも復活する能力を持っていた。

だが、その核を失った事で、二人の命数は完全に尽きる。


「はい、お疲れさまでした」


 こうして、誰にも知られる事無く、二人の邪神の使徒は完全にこの世から姿を消したのである。


「ふぅ、これで問題は全部解決っと、あとは世界獣の願いを叶えてあげるだけね」


 まるで、つい今まで戦っていたことなど忘れてしまったかのように、リュミエはにこやかな笑みを浮かべるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かに見られて知られても向こうはそれを既に知っているようなおっかなさ
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