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第140話 魔王、のメイド争いを台無しにするのじゃ

◆メイア◆


「さて、それでは私達も仕事をしましょうか」


 リンド様からエルフとドワーフの争いを止めるよう命じられました。

 とはいえ、魔法に長けたエルフとマジックアイテムの開発運用に長けたドワーフの戦いを止めるのは中々に骨です。


「メ、メイド長ぁ、これは無理ですよ。止めるどころか流れ弾で死んじゃいます」


 後ろで出来の悪い下っ端メイドが泣き言を言っていますが無視です。


「主の命令です。粛々と達成するのがメイドと言うものですよ」


「私はメイドじゃなくて魔法使いの弟子ですよぉ~!」


 何を往生際の悪い事を。


「それにこんなガチの殺し合いに割り込んでも、両方から攻撃されてあっという間に殺されちゃいますよ!」


 まぁそうでしょうね。エルフからはドワーフの仲間かと、そしてドワーフからはエルフの仲間と疑われて襲われる事でしょう。

 ですがその問題はどうとでもなります。


「テイル、変身魔法でドワーフ兵に変身して陣地に侵入します。そして何食わぬ顔で彼等が守っているマジックアイテムを破壊するのです」


「あ、成る程。確かに魔法で変身すれば誤魔化せますよね……ところでエルフの方は?」


 ……勘の良い娘ですね。


「頑張って避けなさい」


「そんなぁーっ!?」


 ◆


「意外とバレないもんですねぇ」


「しっ、無駄口を叩かない」


 魔法でドワーフに変身した私達は、エルフの魔法の着弾に合わせてひそかにドワーフ達の軍勢に紛れ込みました。

 通常ならドワーフ達も配置を外れて近づいてくる者を見つけたら同じドワーフであっても警戒しますが、今はエルフ達の凄まじい魔法の豪雨に晒されている状況。

 寧ろ動き回ってない方が不自然と言うものです。


「うひぃーっ! 死ぬぅー! 助けてぇー!」


 ……少しは歴戦の戦士のように振舞いなさない馬鹿メイド! 帰ったら演技訓練です!


「泣き言言ってんじゃねぇひよっ子! 悲鳴を上げてる暇があったらあの枯れ木野郎どもにぶっぱなしてやれ!」


「その通りよ! 倒せば倒しただけ敵の攻撃は減るんだ! 簡単な算数だろ!」


 しかしこのヘタレっぷりが逆に熟練の兵達の世話焼き心を刺激したのか、彼等はテイルを敵の尖兵ではなく、苛烈な戦場でメッキが剥がれた若手のエリートあたりと勘違いしてくれたのでしょう。

 まぁ敵の密偵ならこんな風にあからさまにバレそうな騒ぎ方しませんからね。


「仲間ごと装備が吹き飛ばされて戻ってきました! 予備の装備を持ってる方はいますか!?」


「すまん、俺達もこれで最後だ! 後方の連中なら持ってるはずだ! 自分で取ってこい!」


「分かりました!」


「こっちも限界だ。本陣の連中に早くアレをブチ倒してくれと言ってくれ!」


 私は物資補充の名目で後方に向かっていきます。

 幸い本陣はすぐに見つかりました。ドワーフ達は潜入の為少数精鋭で来たようで、そもそもの人数が少なかったようです。


「これは……」


 その光景を見て私は冷や汗が流れるのを感じます。

 本陣は今、凄まじい魔力をその場に留まらせていたのですから。

 陣形を描いて配置された設置型のマジックアイテムを起点に、膨大な量の魔力が猛烈な速度で回転をしている事が分かります。


 恐らくは周囲に配置されているマジックアイテムで地脈から強引に大地の魔力を吸い上げているのでしょう。

 本来は土地を傷つける行為として推奨されない方法なのですが、成る程、持ち運びが可能な装置なら、敵国の土地がどうなろうと問題ないと。


「有用な方法ではありますがリンド様の好みではありませんね」


 これなら遠慮なく破壊出来そうです。


「お前達、持ち場を離れて何をしている!」


 私達に気付いた警護役の騎士が警戒と共に剣を向けてきます。


「仲間ごと武器を吹き飛ばされました。予備を貸してください!」


「っ、分かった! だが今は手が離せん。勝手に持っていけ!」


「はっ!」


 私達は予備の武装を回収する振りを本陣に近づいたその時、一人のドワーフの騎士が私達の前に立ちはだかりました。


「待て、貴様等どこの部隊のものだ」


「どこもなにもこの部隊の者です」


 と言い返しつつも、私は既に自分達の正体がバレている事に気付いていました。

 彼の発する空気は警戒や懸念ではなく、完全に殺気だったのですから。


「魔法で化けたエルフの兵か。だが我々の技術を誤魔化せると思うな」


 どうやら正体を看破するマジックアイテムの類を所持していたようです。

 しかし他の兵に見過ごされたという事は、恐らく所持しているのは一部の兵だけなのでしょう。


「とぼけるか! この二人は敵だ! 始末しろ!」


 指示を受けたドワーフの騎士達が私達を囲みます。

 流石特務部隊、どんな命令であっても即座に体が動くのは素晴らしい。


「はわわ、ど、どうしましょう」


 それに比べてうちの弟子は。まぁこの状況でもエルフの流れ弾を避けているは評価してあげましょう。


「では、こうします。はっ!」


私は地面を吹き飛ばして土煙に隠れます。


「惑わされるな! 敵の狙いは魔導法陣台だ! 逃げはしない!」


 ええ、その通りです。だから敵を見たら即座に攻撃するのが良いでしょう。


「いたぞ! 喰らえエルフ共!」


「ぐわぁぁぁぁ!」


 すぐ傍で悲鳴があがります。しかしその声は私でもテイルのものでもありません。

 しかし周囲は私が吹き飛ばした土煙が更に風の魔法で派手に広がってドワーフ達の視界を遮っています。


「下らん目くらましを! 吹き飛ばせ!」


「はっ!」


 即座に兵が掲げたマジックアイテムによって土煙は吹き飛ばされ、二人のエルフの姿が丸見えになります。


「いたぞ! やれ!」


「「「「おおっ!!」」」」


「ま、待て!?」


「は? え?」


 エルフ達は困惑の声を上げてドワーフ達に打ち取られます。


「……なっ!?」


 しかし、貫かれたのはドワーフの騎士でした。


「な、何で!?」


「確かにエルフだった筈!?」


 まさかの同士討ちに困惑するドワーフ達。


「惑わされるな! エルフの魔法だ! 仲間に変身魔法をかけて誤認させているのだ!」


 その通りです。私が使ったのは他者の姿を変化させる幻覚魔法です。

 この魔法は普段使っている魔法に比べると色々と粗の目立つ魔法ですが、戦場の混乱の中で相手をかく乱するには十分な魔法です。


「落ち着け! 戦場で使う魔法だ。そこまでの精度はない! よく見れば分かる!」


 こちらの偽装を看破できるマジックアイテムを持つ指揮官はいますが、すぐに見破れるのは彼のような一部の兵だけ。

 他の兵達は戦場で突然目の前に敵が現れたら反射的に体が動いてしまう事でしょう。

 案の定兵達は隣にいるのが敵か仲間か判断しかねて戸惑いが見えてしまいます。


「そこだ! そこにいる!」


 指揮官がすぐに私達を指示しますが、魔法で目くらましを行う事で、次に視界が晴れた時に見つけた敵が本物かどうか迷って迅速な攻撃に移れなくなっていました。


「隊長、敵はどこですか!?」


「うわっ、また目くらましを!?」


「ぐわぁっ!」


「ち、違う! 俺は!」


 その間にもマジックアイテムの制御をしている兵達を私達は無力化していきます。

 時には変身魔法に惑わされた仲間の攻撃を受けて倒されていきます。


「くっ、このままではこちらの戦力が削られる……止むを得ん。チャージを止めて今すぐ魔法を発射せよ!」


「しかし隊長、まだアレを完全に破壊する程の威力は……」


「構わん! 今の時点で十分な量の魔力は溜まっている! このまま術式兵を減らされて発動を阻止される方が問題だ!」


 どうやら敵は不完全であっても攻撃を強行する事にした模様です。


「防衛体制! 誰であっても魔導砲陣台に近づかせるな!」


 騎士達が動きを止め、周囲の警戒に専念するのを感じます。

 どうやら流れ弾を無視してでも動きを止める事で、本陣に接近する者を敵と断定して攻撃することにしたのでしょう。

 明確な指示に関する会話が無かったことから、この部隊が普段から訓練している最終防衛行動なのでしょうね。

 自分の命を一切考慮しない覚悟の陣形が。


「魔力充填中断! 術式の即時発動を行います!」


「目標、エルフの侵略兵器! 撃ぇーっっ!」


 直後、ドワーフ達の陣地から凄まじい魔力が放射されました。

 その威力は凄まじく、余波が周囲の全てを吹き飛ばさんほどに吹き荒れるくらいです。


「え?」


 しかし、そんな激しい攻撃の中、ドワーフ達から間抜けな声があがります。


「な!?」


 先ほどの隊長の戸惑いの声も聞こえてきます。


「て、敵が消えた!?」


 突然打ち倒すべき敵の姿が消えた事でドワーフ達が戸惑います。


「ち、違います隊長! 敵が消えたのではありません!」


 しかしいち早く事態を把握した一人のドワーフが彼の間違いを正します。


「敵が消えたのではありません! 我々が上を向いているのです!」


 そう、世界獣は消えてなどいませんでした。

 ただ単純に、彼等の体が真上に向いていただけだったのです。


 その結果、放たれた魔法は世界獣ではなく、真上の天高くに放たれていたのです。


「な、何が起きているのだ……」


 彼等が理解できないのも仕方ありません。

 何故なら、この奇妙な現象の原因は私達なのですから。

 先ほど、変身魔法と目くらましを使って敵に同士討ちを行わせていた私は、途中からテイルに命じて彼等の本陣下の土を転移魔法を使って空洞にさせていたのです。


 敵の指揮官も私が居ればテイルも同じように陽動を行っていると勘違いしてくれたので、気付かれる事はなかったわけですね。

 そして彼等が砲撃の強行を決めた所で私も地下に移動し、砲撃の号令の最中で地面を斜めに崩落させたのです。

 結果ドワーフ達は崩れる地面の角度に合わせて空目掛けて砲撃を開始。

 更に余波の影響で吹き飛ばされたと勘違いし、地面が崩落した事に気付くことなく掘り出した地面に叩きつけられたという訳です。

 それで怪我しないあたり、流石ドワーフと言うべきでしょうか。


「これで、リンド様の命令は達成ですね」


 ドワーフ達が動揺している間に、私は彼等が魔導法陣台と呼んでいたマジックアイテムを転移魔法で転送します。

 これで再度の砲撃は不可能になりました。ついでにドワーフの秘匿技術もゲットですね。


「そこまでじゃ! 双方矛を収めよ! 我が名はクリエール・ラド・ヴァ・トライトメルト・ソルストルカルファ、エルフの国の女王である!」


 その時でした。

 戦場に響き渡るエルフの女王の声、そして同時に放たれる膨大な魔力圧による威圧。

 こうなってはドワーフ達もこれ以上の反撃は困難と敗戦ムードになります。


「どうやらあちらも無事解決したようですね」


 ふぅ、久々にハードな仕事でしたね。

 帰ったらたっぷりリンド様を吸わせて頂かないと。

 私はさっさと帰還する為に、テイルを探します。


「きゅう~」


 おっと、崩落と余波に巻き込まれて気絶していました。

まだまだ未熟ですねぇ。

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