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第139話 魔王、邪神の使徒と決裂するのじゃ

 ドワーフ達とエルフ達が交戦していたその時、突然世界獣が爆発した。


「一体何事じゃ!?」


 ドワーフ達の攻撃はエルフ達に迎撃されておった。

 にもかかわらず世界獣が攻撃されたということは……


「お主かルオーダ!」


 わらわの近くを飛んでいたルオーダの手には先ほどまでは無かった杖が握られており、そこから魔力の残滓が感じ取れる。


「魔杖か!」


「ええ、即座に発動するコレなら、優秀な魔法使いである貴女であっても術の構築には気づけなかったようですね」


 そう言って杖を捨てるルオーダ。


「まさかそんなものを持っていたとはな」


魔杖、それは魔法を封じ込めた使い捨てのアイテムじゃ。

 通常魔法は呪文を唱えたり、術式を発動させて魔力を注ぐといった何らかの予兆が発生してしまう。


 しかし魔杖は既に呪文を唱えた状態となっており、また杖の中には発動に必要な魔力も

込められておる為、起動した瞬間魔法を放つことが出来るメリットがあるのじゃ。


 ただし複雑な構造が災いして、使える魔法はあらかじめ込めておいた一種類のみ、更に魔力も一発分くらいしか込められぬため、その希少性に比べて性能は良いとは言えなんだ。

 また、小型の杖に収める為に、威力もそこまで大きくできない欠点もあった。


 事実今放たれた魔法では世界獣に碌なダメージを与える事は出来ておらん。

 にもかかわらずこの状況でこんな無意味な事をする理由と言えば……


「大した威力ではありませんが、これでドワーフがエルフ達の守護神を攻撃したという事実が出来ました」


やはりか。こ奴がおとなしくしていたのは、エルフとドワーフの軍が揃うこのタイミングを待っていたからか。


「これでエルフの国とドワーフの国の戦争は再開を避けられないでしょうね。更にこれまでの休戦で燻っていた火種とエルフの守護神への攻撃も相まって、今度の戦争はそう簡単には止まりませんよ!」


「つまり、お主等が世界獣に接触していたのはそれが目的か」


「ええ、エルフ達の守護神を暴走させ、ドワーフ達が攻撃する口実にするつもりだったのです。少々予定と異なりましたが、結果的には予定通りです」


 企みを語り終えたルオーダは、満足げな笑みを浮かべる。

 同時に先ほどまでは欠片も見せていなかった邪悪な気配を隠すことなく晒しておった。

 やることを終えた以上、隠す必要もないという事か。


「さぁ、後はエルフとドワーフ、そして世界獣に任せるとしましょうか」


「この状況で逃すと思うか?」


「思いませんね。しかしそれはこちらも同様。貴方に企みを明かされてはこちらも困りますので、貴方にはここで死んでもらいます」


 はっ、本性を明かしたら随分と好戦的になったではないか!


「いいじゃろう、身の程という奴を教えてやる!」


「立場が逆にならないとよいですね!」


 その言葉を皮切りに、わらわ達の戦いが始まる。

 わらわが前に、そしてルオーダが距離を維持する為後ろに高速で移動する。


「っ!? 消えた!?」


 しかしルオーダの眼前でわらわの姿が消える。


「しまいじゃ」


 直後、ルオーダの背後に短距離転移したわらわが魔力で出来た剣状の塊を振り下ろす。


「おっと、そうはいきません」


 しかしルオーダもわらわの転移を読んでいたようで、こちらを見ることなく攻撃を防ぐ。


「下位の魔人ならともかく、私に短距離転移による不意打ちは通じませんよ」


 まぁのう。ある一定の技量を超えた術者になると、戦闘空間内を転移魔法で縦横無尽に飛び回って戦う事は珍しくない。

 当然魔力の揺らぎから攻撃魔法がくるか転移魔法がくるか、ある程度推測することも出来てしまう。


「じゃから力押しじゃ」


「なっ!?」


 わらわはルオーダに受け止められた魔力剣に魔力を込め、振り下ろす力を加速する。


「なんて強引な!?」


 慌ててルオーダはわらわの攻撃を受け流すと、反撃しようとして慌てて飛びのく。

 おっと、後の先の先で反撃を更に反撃しようとしていたことに気付かれたようじゃ。


「ずいぶんと武闘派の方のようですね」


 そう言いつつも、ルオーダは不敵な笑みを浮かべる。

 その瞬間即座にわらわは転移魔法で離脱する。

直後、わらわの居た場所に虚空から生えた無数の刃が殺到する。


「避けた!?」


「そりゃ避けるじゃろ」


「こちらは術の兆候を隠していたんですよ!?」


 ルオーダの行った攻撃は、以前見せた術者が接触している場所から極細の魔力の線を通し離れた場所で術を発動させるものじゃ。

 しかしそれゆえに接触するものがない空中で発動する事は出来ない筈じゃった。

 本人の宣言通りなら、な。


「お主が実力を隠しておる事は察しておった。ならば見せた札も説明の通りとは限るまい?」


 事実、ルオーダの術は空中であろうと魔力の線を通してわらわの周囲に蜘蛛の巣のように張り巡らされておった。


「察していたとしても、発動のタイミングを感知できなければ意味はない筈!」


「むろん、対策はしておったとも」


 ルオーダの魔法の利点は、術者の傍を起点に魔法を放つのではなく、術者から離れた場所を術の起点にできるという事じゃ。

 更に魔力を通す線が非常に細い為、発動位置も分かりにくい。


 しかし、そういう術を使うと察してあらかじめ対策をしておけば、こちらに気付かれないように余計な隠蔽術式を組み込めないこともあって察知は容易なのじゃ。


「警戒を解いた振りをしていただけという事ですか」


 そりゃそうじゃ。相手は世界を滅ぼそうとする邪神の使徒。

 おとなしくしておったとしても油断など決して出来ん相手じゃ。


 不意打ちが失敗したルオーダはジリジリと移動してわらわと距離をとろうとするが、その真意は弧を描いて世界獣を背にする事で巻き添えを恐れて攻撃の手を鈍らせるよう仕向けたいようじゃ。

 じゃが甘いのう。


「そんな悠長な戦い方をして良いのかのう? 長引けばこちらには援軍が来るぞ?」


「ふふっ、それは無理でしょう。エルフの女王も貴方の部下もここから離れた地に居ます。いかに彼女達が急いでこちらに向かってきたとしても、まだ到着まで時間がかかる事でしょう」


「そうでもないぞ」


 余裕を見せていたルオーダの背後から、クリエが突然現れる。


「え?」


 流石に予想外だったのか、回避が完全に遅れるルオーダ。


「せいっ!」


「がっ!?」


 綺麗に良い一撃を貰ったルオーダの体がこちらに吹き飛ばされてくる。


「はっ!」


 すぐさまわらわも飛んできたルオーダに魔力を込めた一撃を叩き込んだ。


「がはっ!?」


 情け容赦のないわらわ達の連撃を受け、ルオーダが血反吐を吐く。


「馬鹿な……!? 転移魔法の兆候はなかった筈!」


 ルオーダはクリエの転移魔法に兆候が無かった事に驚く。


「ははっ、何を驚く。ここはわらわの国じゃぞ。有事の際には豆一粒分のズレもなく狙った場所に転移出来るように備えをしていたに決まっておろうが!」


 などと、とんでもない事を事投げに言うクリエ。

 いやホントとんでもない事しておるんじゃからな。

 転移魔法は通常術者がイメージしやすい一度来た場所にしか使えん。

 しかしクリエはそれを事前に準備をしておいたことで、来たことない場所へも移動できるようにしておいたのじゃ。


 むろんそれはクリエが準備した訳ではない。

 エルフの国が国策として行っていたのじゃ。

 エルフの恐ろしいところは、種族全体が長寿かつ魔力に満ちていることと細かく面倒な作業を地道に行う事で、こういった有事に効果を発揮する対策が出来る事じゃ。


「さぁ、来るぞわらわの可愛い騎士達が」


 付近に膨大な魔力の波が生まれる。

 大規模な転移魔法が発動する兆候じゃ。


 そして、エルフとドワーフ達が戦っている場所の近くに空間の歪みが発生する。

 次の瞬間、その場にいるエルフとドワーフの部隊を合わせたよりもさらに多い数の騎士団が姿を現した。


「まさか!?」


 対応が早すぎると言いたかったのじゃろう。ルオーダが驚きの声を上げる。

 それはこれだけの規模の騎士団の出撃がか、事態を把握して転移魔法が発動するまでの時間か、はたまたその両方か。


 しかしじゃ。


「隙だらけじゃよ」


 わらわはクリエの言葉に気を取られたルオーダを真っ二つに切り裂いた。


「っ!」


「おっと、エプトム大司教のように復活されても困る。燃え尽きろ」


 間髪入れず超高熱の魔法の炎で焼き尽くすと、哀れルオーダは瞬く間に燃え尽きてしまった。


「やはり謀略型の眷属はこんなものか」


 こ奴の様なタイプは裏でコソコソ動くのが得意であっても、戦闘能力はそこまでではない。

 事実先ほど使っていた術も、あくまで暗殺用じゃ。

 わらわでなくとも経験を積んだものなら倒せたじゃろう。


「さて、問題はあっちじゃのう」


 わらわは、今まさにドワーフの国の部隊に襲い掛からんとするエルフの騎士団をどうしたものかと眺めるのじゃった。

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